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第1部 クラスメートから兄妹を経由して、そして恋人となるお話

第16話 ちゃんとしたお父さん

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「「ただいま」」

 午後3時20分ごろ、ゆき霧亜きりあが揃って中学校から帰って来た。
 2人とも部活動に所属していない、いわゆる「帰宅部」というやつで特に寄り道するまでもなく、まっすぐと家まで戻って来たのだ。

「おお、お帰り。雪ちゃんに霧亜ちゃん。帰宅部とはいえ随分早いな」

 今日の成績を振り返り、明日のトレードで注意すべき点を洗っていた彼女らの義理の父、栄一郎えいいちろうが出迎えた。

「金曜日は図書委員の仕事がありますし、寄り道するときはしますけど、特にやる事が無ければ大体この時間に帰ってきますからね。お父さんは確か株のトレーダーをやっているとお聞きしましたが?」
「ああそうだ。いつもパソコンにつきっきりだよ。見てみるかい?」

 栄一郎は娘たちを自分の部屋へと招く。
 処理速度に優れたゲーミングPCを改造して3面ディスプレイにしたパソコンには、雪にとっては全く意味が分からない折れ線グラフや棒グラフのようなものが映っていた。

「へー、こんなグラフ見て仕事をするんですねぇ」
「まぁな。でも雪ちゃんにはどういう意味か分からないだろうけどな」
「雪ってば父さんにべったりだなぁ。母さんに嫉妬されそうな勢いだね」
「うん。やっと、ちゃんとしたお父さんができたから」

 林太郎の実父、栄一郎に雪はかなりなついていた。姉の霧亜が言うには、母親の江梨香えりかが嫉妬しそうなくらい、仲が良かった。

「そう言えば雪ちゃんは江梨香との結婚がとても嬉しかったと聞いてるけどどうなんだ?」
「ボクの感想としては母さんの結婚で新しい父親が出来るって事をあきらの次くらいには喜んでましたよ」
「へぇそうなんだ。ま、これからはずっとお前たちの父親をやっていくからそう言ってくれると俺としては嬉しいとは思うがな」

 父親として娘に懐かれるのはまんざらでもない、というのが正直な感想だった。



「ただいま」
「あ、兄さんだ」
「お、兄くんか」

 今度は林太郎が帰って来た。彼の通う高校にはボクシング部は無かったので、彼も帰宅部だった。
 もっとも、ボクシング部よりも実践的なジムでのトレーニングを、高校受験を終えた頃から続けていたので部活動があっても通うつもりはなかったというが。
 彼も父親の部屋に顔を出しに来た。

「ようオヤジ、雪も霧亜も一緒か。雪、結構オヤジになついてるみたいだけどオヤジのこと好きなのか?」
「うん。やっと、きちんとしたお父さんができたから」
「きちんとしたお父さん……? って事は今までの父親はきちんとしてなかったって事か?」
「!!」

 林太郎の言葉に雪の顔が曇る。

「ご、ごめんなさい、今はまだ言いたくないです。でもいつか話す時が来たらきちんと話しますので……」
「あ……言いたくない、か。まだ雪と暮らし始めて1ヶ月位しか経ってないからしゃーないか。いや、悪かったな変な事聞いちまって。悪気はないからな」
「良いんです。兄さんもまだ慣れてないようですし」

 彼女の視線が泳いで、明らかに動揺しているのが分かる……『地雷を踏んじまった』と、林太郎は後悔した。お互いよそよそしい態度でその場をやり過ごす。



 夕食を終え風呂にも入った林太郎は、自室に戻った後『私の子供たちは元の親と何かしらのトラブルを抱えていてここにたどり着いた』
 と、母親の江梨香が言ってたのを思い出した。おそらく雪もその例外ではなく、何かしらの事情を抱えているのだろう、彼は改めて妹と話すことにした。
 林太郎は雪の部屋の前に立ち、コホン、と咳払いをして雪の部屋の扉をノックする。

 コンコン。

「雪、俺だ。今入って大丈夫か?」
「あ、はい。いいですよ」

 扉が開いて部屋の主が出てきた。兄は妹に誘われるまま部屋の中へと入っていく。本棚が自分の部屋よりも明らかに多く、ベッドの枕のそばにも本が積まれていて読書が趣味な事がよく分かる部屋だった。

「その、兄さん。どんな用で?」
「雪、昼間オヤジの部屋でお前の地雷踏んじまったの、悪かったよ。気にしてるんだろ?」
「その話ですか……いいんです。兄さんと会ってまだ1ヶ月くらいしか経ってないんですし、そういうのもあると思います」
「その、雪。俺は一応はお前の兄貴だから傷つけるマネは絶対ないから。俺が不良なのは知ってるから説得力無いかもしれないけど、そんな事はしないからな」
「……」

 雪は兄のセリフをじっくりと受け止めていた。

「分かりました。私は兄さんを信じます。不良ですけど悪い人ではなさそうですし、あきらちゃんが言うには兄としてしっかりしているようですし」
「そうか、そう言ってくれると助かるよ」

 雪はコクリ、とうなづく。

「お話ってのはこれだけですか?」
「ああ、そうだ。悪かったな邪魔して。じゃ、お休み」
「お休みなさい、兄さん」

 林太郎は雪の部屋を出た。
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