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第1部 クラスメートから兄妹を経由して、そして恋人となるお話
第4話 パッチワーク家族
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お互いの子供たちの紹介が終わってから数日後のゴールデンウイーク初日、林太郎親子は七菜家に越してきて本格的に新しい家族そろっての暮らしが始まった。
結婚式はおよそ1ヶ月後の6月頭に行われる予定だが、事実上結婚するのは決まっているので顔合わせで慣れるためのものだ。
増改築を繰り返した七菜家の、比較的新しい2つの部屋に林太郎も、彼の父親である栄一郎も、
以前住んでた家から持ち出した身の回りの持ち物を持っての引っ越しだ。
「よし、そのまま、そのまま」
「イッチ、ニ、イッチ、ニ」
林太郎は越してきた際に持ってきた物の中で「大きな物」に入るタンスを、引っ越し業者と一緒に新たな自室へと運んでいた。
物が物なだけあって重量もあり、1つのミスが大けがにつながる危険な作業だが慎重にこなしていく。
「よし、下ろして下ろして。っと、こんな感じでよろしいでしょうか?」
「ああ大丈夫だ。後の微調整は俺がやるからいい」
無事に荷物は全て運び終えたのだが……。
「よりによって凛香と同居か……それも俺の妹になっちまった」
問題はそれである。凛香は勉強もスポーツも出来て男女問わずクラスメート相手はもちろん大人受けが良い上に、何より『同じクラスの男子は1回は彼女に惚れる』という位の美少女だ。
不良の林太郎とは絶対に接点の無い「日向」にいる彼女と本当に同居することになるとは……今でも信じられなかった。それは彼女も同じだった。
「凛香姉さん、やっぱり兄が出来るとなると、とまどってしまいますか?」
「雪、私は別にそんな事……」
「姉らしくしようと嘘つかなくてもいいですよ」
雪は赤い縁のメガネを直しつつ姉との会話を続ける。今回の再婚の件で一番動揺しているのはおそらく凛香姉さんだろう、と読み取っていた。
「……分かったわよ。林太郎の奴は学校じゃ不良で何考えてるのか分からない奴と一緒に暮らすだなんて想像もつかなかったから、ちょっととまどってる。
言っとくけどこれは雪の他の姉さんや明には内緒にしてよね」
「ハイいいですよ。私たちだけの秘密ですからね、凛香姉さん」
彼女もまた直視するには厳しい内情を抱えていた。妹なら何人いてもすぐに対応できるが今回は「兄」つまりは年上の「男」だ。
妹たちを頼って良い。とは言われたが彼と具体的にどう接していいのか? まだわからなかった。
「「「「「ごちそうさまでした」」」」」
8人家族が揃っての夕食が終わり、林太郎と凛香はお互いに目線をわざと合わせないようにして、後片付けとなった。
彼は皿をキッチンのシンクで洗っている新しい母親である江梨香の所まで持っていく。
それにしても彼女は若い。凛香が今年の秋で16になるというのを考えれば、40は超えてるだろうにとてもそうには見えない。
「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだが……母さん、って言えばいいのかな。年いくつなんだ? いくら若くても30代後半、普通は40かそこらだとは思うんだけど」
「もう、レディに年齢を聞くなんてヤボね。でも母親なんだし特別に教えてあげる。33歳よ」
「さ、33!? ってことは……アンタいつ凛香を産んだんだ!?」
林太郎は頭の出来は良い方ではないが、単純計算で33マイナス15ないしは16……となると色々と問題のある数字がはじき出される程度には頭は回る。
「……私は若い時からの病気で子供が産めない身体なの。だから凛香を含めてうちの子は全員養子なのよ」
「!! え? よ、養子!?」
「うん。でも5人とも私の大切な子供なのは確かだから、仲良くしてあげてね。後は私がやっておくから任せておいてね」
「は、はぁ……」
食事を終えて風呂に入って歯を磨き、自分の部屋に戻った林太郎の所へ霧亜がやって来た。初対面の時と同じように、ひょろ長い背で相変わらず生気が薄い。
「やぁ兄くん。母さんから話を聞いたみたいだね。ボクたち家族の秘密を」
「!! 霧亜、お前聞いてたのか? 確かこの家の人間は全員養子っていう話をか?」
どうやら彼女は彼と母親との話を立ち聞きしたらしい。
「ああそうさ。ボクたちの家族はただの「家族ごっこ」をしてるだけの他人なんだよ。そう、継ぎあわせの家族なのさ。
何せ家族全員、誰も血は繋がってないの。姉や妹たちはボクを含めて全員養子だから母さんの実の子なんて1人もいないのよ。だからボクと兄くんも「兄妹ごっこ」をしてるだけの他人なんだよ。
まぁ、それでも家族ってのは良いものなんだけどさ」
霧亜は生気の薄い顔をしながらそう言う。林太郎はその妙な言い回しにやはり「中二」だな、と思った。
「まぁボクたち家族はマフィアみたいなものさ。彼らは血はつながってないけど仲間を『ファミリー』って言うからね」
「おいおい、マフィアかよ。例えが悪いぞ」
「ああ、悪かったね。ボクは乙女ゲームでそういうのが好きなんでね。じゃ、お休み」
「お、おう。お休み」
そう言って彼女は去っていった。
……新生活も本格的に始まったわけだが、期待よりも不安が大きかった。霧亜が言うにはこの家族は全員養子という訳アリの者たち。
何より自分とはまるで接点の無い優等生の凛香と兄妹になるのは今でも信じられない。
「とりあえず寝ちまうか……」
『迷ったら寝ろ。寝れば解決する』林太郎なりの哲学に基づいて普段の就寝時刻よりは1時間以上早かったが、とりあえず寝ることにした。
結婚式はおよそ1ヶ月後の6月頭に行われる予定だが、事実上結婚するのは決まっているので顔合わせで慣れるためのものだ。
増改築を繰り返した七菜家の、比較的新しい2つの部屋に林太郎も、彼の父親である栄一郎も、
以前住んでた家から持ち出した身の回りの持ち物を持っての引っ越しだ。
「よし、そのまま、そのまま」
「イッチ、ニ、イッチ、ニ」
林太郎は越してきた際に持ってきた物の中で「大きな物」に入るタンスを、引っ越し業者と一緒に新たな自室へと運んでいた。
物が物なだけあって重量もあり、1つのミスが大けがにつながる危険な作業だが慎重にこなしていく。
「よし、下ろして下ろして。っと、こんな感じでよろしいでしょうか?」
「ああ大丈夫だ。後の微調整は俺がやるからいい」
無事に荷物は全て運び終えたのだが……。
「よりによって凛香と同居か……それも俺の妹になっちまった」
問題はそれである。凛香は勉強もスポーツも出来て男女問わずクラスメート相手はもちろん大人受けが良い上に、何より『同じクラスの男子は1回は彼女に惚れる』という位の美少女だ。
不良の林太郎とは絶対に接点の無い「日向」にいる彼女と本当に同居することになるとは……今でも信じられなかった。それは彼女も同じだった。
「凛香姉さん、やっぱり兄が出来るとなると、とまどってしまいますか?」
「雪、私は別にそんな事……」
「姉らしくしようと嘘つかなくてもいいですよ」
雪は赤い縁のメガネを直しつつ姉との会話を続ける。今回の再婚の件で一番動揺しているのはおそらく凛香姉さんだろう、と読み取っていた。
「……分かったわよ。林太郎の奴は学校じゃ不良で何考えてるのか分からない奴と一緒に暮らすだなんて想像もつかなかったから、ちょっととまどってる。
言っとくけどこれは雪の他の姉さんや明には内緒にしてよね」
「ハイいいですよ。私たちだけの秘密ですからね、凛香姉さん」
彼女もまた直視するには厳しい内情を抱えていた。妹なら何人いてもすぐに対応できるが今回は「兄」つまりは年上の「男」だ。
妹たちを頼って良い。とは言われたが彼と具体的にどう接していいのか? まだわからなかった。
「「「「「ごちそうさまでした」」」」」
8人家族が揃っての夕食が終わり、林太郎と凛香はお互いに目線をわざと合わせないようにして、後片付けとなった。
彼は皿をキッチンのシンクで洗っている新しい母親である江梨香の所まで持っていく。
それにしても彼女は若い。凛香が今年の秋で16になるというのを考えれば、40は超えてるだろうにとてもそうには見えない。
「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだが……母さん、って言えばいいのかな。年いくつなんだ? いくら若くても30代後半、普通は40かそこらだとは思うんだけど」
「もう、レディに年齢を聞くなんてヤボね。でも母親なんだし特別に教えてあげる。33歳よ」
「さ、33!? ってことは……アンタいつ凛香を産んだんだ!?」
林太郎は頭の出来は良い方ではないが、単純計算で33マイナス15ないしは16……となると色々と問題のある数字がはじき出される程度には頭は回る。
「……私は若い時からの病気で子供が産めない身体なの。だから凛香を含めてうちの子は全員養子なのよ」
「!! え? よ、養子!?」
「うん。でも5人とも私の大切な子供なのは確かだから、仲良くしてあげてね。後は私がやっておくから任せておいてね」
「は、はぁ……」
食事を終えて風呂に入って歯を磨き、自分の部屋に戻った林太郎の所へ霧亜がやって来た。初対面の時と同じように、ひょろ長い背で相変わらず生気が薄い。
「やぁ兄くん。母さんから話を聞いたみたいだね。ボクたち家族の秘密を」
「!! 霧亜、お前聞いてたのか? 確かこの家の人間は全員養子っていう話をか?」
どうやら彼女は彼と母親との話を立ち聞きしたらしい。
「ああそうさ。ボクたちの家族はただの「家族ごっこ」をしてるだけの他人なんだよ。そう、継ぎあわせの家族なのさ。
何せ家族全員、誰も血は繋がってないの。姉や妹たちはボクを含めて全員養子だから母さんの実の子なんて1人もいないのよ。だからボクと兄くんも「兄妹ごっこ」をしてるだけの他人なんだよ。
まぁ、それでも家族ってのは良いものなんだけどさ」
霧亜は生気の薄い顔をしながらそう言う。林太郎はその妙な言い回しにやはり「中二」だな、と思った。
「まぁボクたち家族はマフィアみたいなものさ。彼らは血はつながってないけど仲間を『ファミリー』って言うからね」
「おいおい、マフィアかよ。例えが悪いぞ」
「ああ、悪かったね。ボクは乙女ゲームでそういうのが好きなんでね。じゃ、お休み」
「お、おう。お休み」
そう言って彼女は去っていった。
……新生活も本格的に始まったわけだが、期待よりも不安が大きかった。霧亜が言うにはこの家族は全員養子という訳アリの者たち。
何より自分とはまるで接点の無い優等生の凛香と兄妹になるのは今でも信じられない。
「とりあえず寝ちまうか……」
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