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サモトラケのニケ
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サモトラケのニケ。
ギリシャのサモトラケ島で発掘された勝利の女神ニケ(ニーケーとも言う)を題材にした大理石像である。
現在はルーブル美術館に所蔵、展示がされており、世界各地に(もちろん日本にも)レプリカが数多く存在するほどには、美術品の中でも有名なものである。
これは、それに魅せられ、人生を狂わされた男の物語。
◇◇◇
都内某所の潰れたコンビニの中へ、一人の壮年で身なりと顔立ちの良い男が入っていく。
彼が従業員用入り口のカギを開け、真っ先に向かったのはジュースや酒を入れる大型冷蔵庫。そこに『彼女たち』は安置されていた。
裸にされた女子高校生や女子中学生が冷蔵されていたのだ。しかも全ての少女は首から上が無かった。
「由香、彩里、それに真樹。会いたかったよ。」
男はそう言って彼女たちの手の甲にキスをする。
「さて今日は……真樹だな。」
そう言って男は死体相手に事を成した。
都内のとある中学校の校門の前で、ついさっきまで死体を抱いていた男が車のそばで誰かを待つように立っていた。
そこへ下校するため学校から数人の女子中学生のグループがやってくる。その中の一人が彼を見るやそのそばへと駆け寄ってくる。
「七夏、あの人誰? お父さん?」
「違うよ。彼氏。そう言えばあたし彼氏がいるって教えなかったよね?」
「あのおじさんが彼氏? 七夏ったら趣味悪ーい。年上好きにも程があるでしょー?」
「クラスメートの男なんてみんなバカなガキばっかり。女の扱いに慣れてるおじ様の方がずっといいもん。じゃあね」
そう言って仲良しグループから外れる。
「ごめん、待たせちゃって」
「大丈夫。そのくらいで怒ったりはしませんから」
そう言って男と一緒に車に乗ってどこかへ行ってしまった。
車がついたのはしゃれた外観をした男の家。彼女は男の家にお邪魔することになった。
「何か飲みます? コーヒーかダージリンティーぐらいしか出せませんが」
「紅茶が良いな。お願い、いれて」
少女は男にお願いする。男はそれを、かしこまりましたと言いながら言う事を聞く。彼女はお茶が出てくるのをのんきに待っていた。
……男が薬を混ぜているとも知らずに。
「わぁ、いい匂い」
男のいれ方が良いのかダージリンティー特有の良い香りが漂う。
彼女が出された紅茶を飲んだのを確認して男はしゃべりだした。
「そう言えばこの話はしたことありませんでしたな。お話しましょう」
唐突に男が話を切り出す。七夏は紅茶を飲みながら話を聞くことにした。
「人間というのはありのままでは美しい存在にはならないのです。
中国の纏足、東南アジアの首長族、そして現代の化粧。どれも普通の状態から「手を加える」ことでより美しい姿となるわけです」
「そ、そう。それで?」
いきなり壮大な話をし出す男に七夏はとまどいながらも紅茶を飲みつつ話を聞く。
「ところで、サモトラケのニケをご存知ですかな?」
「え、ええ。知ってるわよ。美術の教科書で見たことあるわ」
「私、小学5年生の時に教科書で見た時に、彼女で産まれて初めて『自慰』をしたんです」
「へ?」
意味が分からない。サモトラケのニケで、何を? ナニをした。と言ったのか?
「それから気づいたのですよ。女性というのは首を斬られる事で理想の姿へとなる。首を斬るというひと手間を加えることでより美しい姿へと昇華するのです。あなたも、そうなるべきです」
「な、何を言って……! !?」
七夏は急に頭がくらくらと回り始めて目を開けていられなくなってしまい、床に倒れてしまう。紅茶に入れた睡眠薬が効いてきたのだ。
男は少女を抱きかかえ、地下室への扉を開けた。
ひどくむせかえるような血の匂いのする地下室に、男は七夏を抱えてやってきた。
待っていたのは人間1人が余裕で寝転がれるほど広い鉄製の台。彼はそこに彼女を手術をする患者のように寝かせる。それには彼女の「先輩」に当たる少女の血がこびりついていた。
彼は少女の服を脱がし、一糸まとわぬ姿にしていく。
次に清められた聖水を彼女の身体にふりかけ、これからただの少女から崇高な存在へと羽化する彼女を祝福する。
「さあ、羽化の時だ」
男はそう言って血で汚れた電動工具であるダイアモンドカッターのスイッチを入れると、刃が回転するチーンという乾いた音が室内に響く。彼はそのまま少女の首に切れ目を入れていく。
コンクリートですら簡単に切断するカッターの刃は、少女の首の骨も肉も関係なく切断していく。大量の血が噴き出て辺りを紅く染めるが男の手は止まらない。
やがて首が完全に切断されると、彼女は彼にとってはただの少女からサモトラケのニケを思わせる崇高な存在になった。
「おお……美しい。七夏、やはり君は最高に素晴らしい身体を持っている。本当に、本当に美しいよ」
男は感激した声でそうつぶやくと、まだ温かさの残る彼女と1夜を過ごした。
「やはり、この男が関係しているな」
都内の女子高生や女子中学生の失踪事件。彼女たちが最後に出会った相手はすべてこの男だった。
こいつが一番臭い。警察は目星をつけていた。
既にSNSのログをたどって被害者の少女たちが行方不明になる前、彼女たちと連絡を取っている事、
さらに男が保有する潰れたコンビニでは今でも電気代が発生しており、料金からすると大型冷蔵庫が動いていると思われるという不可解な事が起きているのを警察はすでに知っていた。
「近日逮捕状と捜査令状を取って男の身柄確保、ならびにコンビニへのガサ入れを行う。各員抜かりの無いよう仕事をして欲しい。以上だ」
ガサ入れ当日の早朝、潰れたコンビニのそばに何台もの覆面パトカーが停まっていた。車から何人もの警官や検事がおりてくる。
「よし。各員、捜索を開始しろ!」
それを合図に十数名の男たちがコンビニの扉をこじ開け、中へと入っていた。
「うわひでぇ……」
「冷蔵庫が動いていたのは死体を冷蔵保存するためか……ったく、最悪だぜ」
中で保管されていた、首から上が無い少女たちの遺体を見てガサ入れをしていた検事はそう漏らす。
「こちら沢渡、物証抑えました。ガイ者の遺体から第3者の指紋ならびに『体液』を検出しました」
「了解。お前ら、行くぞ!」
沢渡からの報告を聞いて朝早くからスーツ姿の若い男数名が、彼の自宅へと押しかける。
「おはよう、警察だ。行方不明の少女4人を殺害した容疑で今からあなたを逮捕しますからね」
「え? いったい何の用で……オイ! 何をする!?」
「暴れるな! 午前7時17分! 殺人の容疑で逮捕する!」
取調室で容疑はおおむね認めてはいるものの、殺意は否定していた。
「私は何も悪いことなどしていません。あれはどこにでもいるただの少女を、簡単に言えば神のような崇高な存在へと昇華させるための儀式です。
汚い言葉を聞いてしまう耳も、けがれた物を見てしまう目も、相手を口汚く相手をののしる口もない!
ただ無言で、そばによりそってくれるだけの理想的な存在へと進化させる手助けをしているだけです!
私は何一つ悪いことなどしていません! あれは殺人ではない! 彼女を清らかで崇高な存在へと昇華させるための……」
「何を言ってるんだ貴様! お前は人を殺した自覚がないのか!?」
「もちろん。私は彼女たちを殺してはいません。ただ首を切り落としただけで殺してはいません。彼女たちは人を超えた存在としてあり続けています」
「いい加減にしろ! お前は4人もの将来ある少女の命を奪ったんだぞ!? 罪の自覚があるのか!? ええ!?」
刑事達が罪の意識がカケラもない男を問い詰めるが彼は涼しい顔をしている。
そもそも自分は悪い事をしていないと平然と言ってのける男とはそもそも話し合いが成立せず、平行線のままだった。
「サモトラケのニケを見ての犯行」
メディアはこんなキャッチーで視聴率や購読部数を稼げる事件を見逃すわけがない。どこからか臭いを嗅ぎつけ盛大に報道する。
新聞では1面に事件をデカデカと載せ、社説で「芸術は危険」とそれまでこれっぽちも思ってもいなかった意見を、さも何十年も考え続けたかのように載せる。
TVも「TVに出られることだけが取り柄」のコメンテーターに「学校教育の現場で今も教科書に美術品が載っている」事がいかに問題かと力説する。
ネットやSNSでも閲覧者の手で様々な改変、パロディが作られ、それを目にしない日は無い。
一種の「お祭り」だ。
中にはルーブル美術館に「サモトラケのニケの展示を自粛する」ように署名を集めて送った団体まであったそうだ。もちろん美術館側は完全に無視を決め込んだのだが。
数か月後、裁判所に連行され、裁きを受けることとなった。
男はそこでも自分の主張を曲げなかった。
少女を崇高な存在へと羽化させるための儀式を行っただけで殺してはいない。と頑なに主張した。
「だから私は彼女たちを殺したとは思っていません! 汚い言葉を聞いてしまう耳も、けがれた物を見てしまう目も、相手を口汚く相手をののしる口もない!
ただ無言で、そばによりそってくれるだけの理想的な存在へと進化させる手助けをしているだけで……」
「もういい! 被告人の退廷を命じる!」
これ以上話し合っても無駄だと判断した裁判長は彼を追い出すよう告げる。
「判決を申し渡す!
身勝手極まりない理由で将来の可能性のある未成年の少女4人の命を奪ったこと、ならびに
本人に反省の色がカケラたりとも感じられないことから、情状酌量の余地はなく、もはや極刑をもって臨むほかはない!
求刑通り、被告人に死刑を言い渡す!」
被告人不在のまま、裁判長は判決を下した。
こうしてサモトラケのニケに人生を狂わされた男の人生に幕が下りたのだった。
ギリシャのサモトラケ島で発掘された勝利の女神ニケ(ニーケーとも言う)を題材にした大理石像である。
現在はルーブル美術館に所蔵、展示がされており、世界各地に(もちろん日本にも)レプリカが数多く存在するほどには、美術品の中でも有名なものである。
これは、それに魅せられ、人生を狂わされた男の物語。
◇◇◇
都内某所の潰れたコンビニの中へ、一人の壮年で身なりと顔立ちの良い男が入っていく。
彼が従業員用入り口のカギを開け、真っ先に向かったのはジュースや酒を入れる大型冷蔵庫。そこに『彼女たち』は安置されていた。
裸にされた女子高校生や女子中学生が冷蔵されていたのだ。しかも全ての少女は首から上が無かった。
「由香、彩里、それに真樹。会いたかったよ。」
男はそう言って彼女たちの手の甲にキスをする。
「さて今日は……真樹だな。」
そう言って男は死体相手に事を成した。
都内のとある中学校の校門の前で、ついさっきまで死体を抱いていた男が車のそばで誰かを待つように立っていた。
そこへ下校するため学校から数人の女子中学生のグループがやってくる。その中の一人が彼を見るやそのそばへと駆け寄ってくる。
「七夏、あの人誰? お父さん?」
「違うよ。彼氏。そう言えばあたし彼氏がいるって教えなかったよね?」
「あのおじさんが彼氏? 七夏ったら趣味悪ーい。年上好きにも程があるでしょー?」
「クラスメートの男なんてみんなバカなガキばっかり。女の扱いに慣れてるおじ様の方がずっといいもん。じゃあね」
そう言って仲良しグループから外れる。
「ごめん、待たせちゃって」
「大丈夫。そのくらいで怒ったりはしませんから」
そう言って男と一緒に車に乗ってどこかへ行ってしまった。
車がついたのはしゃれた外観をした男の家。彼女は男の家にお邪魔することになった。
「何か飲みます? コーヒーかダージリンティーぐらいしか出せませんが」
「紅茶が良いな。お願い、いれて」
少女は男にお願いする。男はそれを、かしこまりましたと言いながら言う事を聞く。彼女はお茶が出てくるのをのんきに待っていた。
……男が薬を混ぜているとも知らずに。
「わぁ、いい匂い」
男のいれ方が良いのかダージリンティー特有の良い香りが漂う。
彼女が出された紅茶を飲んだのを確認して男はしゃべりだした。
「そう言えばこの話はしたことありませんでしたな。お話しましょう」
唐突に男が話を切り出す。七夏は紅茶を飲みながら話を聞くことにした。
「人間というのはありのままでは美しい存在にはならないのです。
中国の纏足、東南アジアの首長族、そして現代の化粧。どれも普通の状態から「手を加える」ことでより美しい姿となるわけです」
「そ、そう。それで?」
いきなり壮大な話をし出す男に七夏はとまどいながらも紅茶を飲みつつ話を聞く。
「ところで、サモトラケのニケをご存知ですかな?」
「え、ええ。知ってるわよ。美術の教科書で見たことあるわ」
「私、小学5年生の時に教科書で見た時に、彼女で産まれて初めて『自慰』をしたんです」
「へ?」
意味が分からない。サモトラケのニケで、何を? ナニをした。と言ったのか?
「それから気づいたのですよ。女性というのは首を斬られる事で理想の姿へとなる。首を斬るというひと手間を加えることでより美しい姿へと昇華するのです。あなたも、そうなるべきです」
「な、何を言って……! !?」
七夏は急に頭がくらくらと回り始めて目を開けていられなくなってしまい、床に倒れてしまう。紅茶に入れた睡眠薬が効いてきたのだ。
男は少女を抱きかかえ、地下室への扉を開けた。
ひどくむせかえるような血の匂いのする地下室に、男は七夏を抱えてやってきた。
待っていたのは人間1人が余裕で寝転がれるほど広い鉄製の台。彼はそこに彼女を手術をする患者のように寝かせる。それには彼女の「先輩」に当たる少女の血がこびりついていた。
彼は少女の服を脱がし、一糸まとわぬ姿にしていく。
次に清められた聖水を彼女の身体にふりかけ、これからただの少女から崇高な存在へと羽化する彼女を祝福する。
「さあ、羽化の時だ」
男はそう言って血で汚れた電動工具であるダイアモンドカッターのスイッチを入れると、刃が回転するチーンという乾いた音が室内に響く。彼はそのまま少女の首に切れ目を入れていく。
コンクリートですら簡単に切断するカッターの刃は、少女の首の骨も肉も関係なく切断していく。大量の血が噴き出て辺りを紅く染めるが男の手は止まらない。
やがて首が完全に切断されると、彼女は彼にとってはただの少女からサモトラケのニケを思わせる崇高な存在になった。
「おお……美しい。七夏、やはり君は最高に素晴らしい身体を持っている。本当に、本当に美しいよ」
男は感激した声でそうつぶやくと、まだ温かさの残る彼女と1夜を過ごした。
「やはり、この男が関係しているな」
都内の女子高生や女子中学生の失踪事件。彼女たちが最後に出会った相手はすべてこの男だった。
こいつが一番臭い。警察は目星をつけていた。
既にSNSのログをたどって被害者の少女たちが行方不明になる前、彼女たちと連絡を取っている事、
さらに男が保有する潰れたコンビニでは今でも電気代が発生しており、料金からすると大型冷蔵庫が動いていると思われるという不可解な事が起きているのを警察はすでに知っていた。
「近日逮捕状と捜査令状を取って男の身柄確保、ならびにコンビニへのガサ入れを行う。各員抜かりの無いよう仕事をして欲しい。以上だ」
ガサ入れ当日の早朝、潰れたコンビニのそばに何台もの覆面パトカーが停まっていた。車から何人もの警官や検事がおりてくる。
「よし。各員、捜索を開始しろ!」
それを合図に十数名の男たちがコンビニの扉をこじ開け、中へと入っていた。
「うわひでぇ……」
「冷蔵庫が動いていたのは死体を冷蔵保存するためか……ったく、最悪だぜ」
中で保管されていた、首から上が無い少女たちの遺体を見てガサ入れをしていた検事はそう漏らす。
「こちら沢渡、物証抑えました。ガイ者の遺体から第3者の指紋ならびに『体液』を検出しました」
「了解。お前ら、行くぞ!」
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「おはよう、警察だ。行方不明の少女4人を殺害した容疑で今からあなたを逮捕しますからね」
「え? いったい何の用で……オイ! 何をする!?」
「暴れるな! 午前7時17分! 殺人の容疑で逮捕する!」
取調室で容疑はおおむね認めてはいるものの、殺意は否定していた。
「私は何も悪いことなどしていません。あれはどこにでもいるただの少女を、簡単に言えば神のような崇高な存在へと昇華させるための儀式です。
汚い言葉を聞いてしまう耳も、けがれた物を見てしまう目も、相手を口汚く相手をののしる口もない!
ただ無言で、そばによりそってくれるだけの理想的な存在へと進化させる手助けをしているだけです!
私は何一つ悪いことなどしていません! あれは殺人ではない! 彼女を清らかで崇高な存在へと昇華させるための……」
「何を言ってるんだ貴様! お前は人を殺した自覚がないのか!?」
「もちろん。私は彼女たちを殺してはいません。ただ首を切り落としただけで殺してはいません。彼女たちは人を超えた存在としてあり続けています」
「いい加減にしろ! お前は4人もの将来ある少女の命を奪ったんだぞ!? 罪の自覚があるのか!? ええ!?」
刑事達が罪の意識がカケラもない男を問い詰めるが彼は涼しい顔をしている。
そもそも自分は悪い事をしていないと平然と言ってのける男とはそもそも話し合いが成立せず、平行線のままだった。
「サモトラケのニケを見ての犯行」
メディアはこんなキャッチーで視聴率や購読部数を稼げる事件を見逃すわけがない。どこからか臭いを嗅ぎつけ盛大に報道する。
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TVも「TVに出られることだけが取り柄」のコメンテーターに「学校教育の現場で今も教科書に美術品が載っている」事がいかに問題かと力説する。
ネットやSNSでも閲覧者の手で様々な改変、パロディが作られ、それを目にしない日は無い。
一種の「お祭り」だ。
中にはルーブル美術館に「サモトラケのニケの展示を自粛する」ように署名を集めて送った団体まであったそうだ。もちろん美術館側は完全に無視を決め込んだのだが。
数か月後、裁判所に連行され、裁きを受けることとなった。
男はそこでも自分の主張を曲げなかった。
少女を崇高な存在へと羽化させるための儀式を行っただけで殺してはいない。と頑なに主張した。
「だから私は彼女たちを殺したとは思っていません! 汚い言葉を聞いてしまう耳も、けがれた物を見てしまう目も、相手を口汚く相手をののしる口もない!
ただ無言で、そばによりそってくれるだけの理想的な存在へと進化させる手助けをしているだけで……」
「もういい! 被告人の退廷を命じる!」
これ以上話し合っても無駄だと判断した裁判長は彼を追い出すよう告げる。
「判決を申し渡す!
身勝手極まりない理由で将来の可能性のある未成年の少女4人の命を奪ったこと、ならびに
本人に反省の色がカケラたりとも感じられないことから、情状酌量の余地はなく、もはや極刑をもって臨むほかはない!
求刑通り、被告人に死刑を言い渡す!」
被告人不在のまま、裁判長は判決を下した。
こうしてサモトラケのニケに人生を狂わされた男の人生に幕が下りたのだった。
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