上 下
61 / 169
『領地経営』編

第61話『古代種ブラックドラゴン』

しおりを挟む




 金鉱が見つかった山の一角にて。

「では、ここら辺を掘って行こうと思う」

「領主様は何で温泉とかいうのにこだわるんだっぺ? 身体を洗うなら、たまに水浴びすれば十分だべさ?」

「お前ら、ちゃんと毎日身体洗ってるか?」

「布で拭ったりはしてるだよ」

「風呂の喜びを知ったらもう戻れないからな。たっぷり身体に教え込んでやるよ……」

「ひえええ……」

 俺と話をした女性騎士は震えあがった。
 おい、恐れるところは何もないだろ。




「はぁ~どっこいしょぉ!」

 ズドドドド。
 スキルを用いて岩を掘削していく。
 どんどん深くなっていく穴。作業効率よすぎだろ。

「おお~すごいっぺ!」
「魔法が使えるなんて領主様は都会の人だなぁ」

 騎士たちが感嘆の声を上げる。
 この世界では魔法=都会の認識なのか。

「そうでしょう? そうでしょう? ジロー様はすごいんです!」

 ベルナデットが柔和に微笑む。ニコルコに来てから少し笑顔が戻って来たな。
 大自然が彼女に安らぎを与えたのかもしれない。
 強さと笑顔を兼ね備えたか……。

 彼女はまた一歩成長したようだ。
 よいことである。



「…………」

 ドガガガガガ……。地面を削ってどこまでも。岩を砕いて突き進む。


 ズンズンズン……。
 ドンドンドン……。
 ズシンズシン……。


 ……あれ? 地面を掘る音以外にも振動音が聞こえるような?

「なあ、ベルさん。なんか地面が揺れてねえべか?」
「……? ジロー様が地面を掘っているからでは?」


 ベルナデットたちのそんな会話が聞こえた、その時だった。


『グルオォオォオオオォ! オオォオゥッ――!』


 腹の底にずんと響く重低音――謎の生物の鳴き声が大きく響き渡った。


 ズボッ。ドゴォン。


 穴を掘る作業を中断して周囲を見渡す。
 うわっ、なんじゃありゃ。
 山の側面から鱗に覆われた真っ黒な手が飛び出していた。

 爬虫類っぽい感じのハンドだが……サイズがやばくね?
 畳何枚ぶんだよってくらいデカいんだけど。


『グルラアアアァァァアァアアアァッ――! ゴオォォオォォ――オオッ――』


 バゴーン。ドゴーン。
 揺れる大地。
 パラパラと崩れる小石。

 岩盤をぶち壊し、黒色のドラゴンが山の内側から這い出てきた。

 おふぅ……全長何十メートルあるんだ。

『グオオオォオォオオォォッ……』

 ドラゴンは紅蓮の眼球で俺たちを睨みつけている。
 騎士たちは視線に飲まれて真っ青になっていた。

「うわああ! きっと山のヌシ様だべ! 森を荒らしたから怒ってるんだっぺぇ!」

 山のヌシなのに森を荒らして怒るのか。

「うるさくしてたから目覚めちまったんでねえか!?」

「じゃあ領主様のせい!? ばっちゃの言ってたことはホントだっただぁ!」

「ヌシ様ぁ! オラたちはこの人の言うとおりにしてただけですぅ!」

「ヌシ様。こいつです!」

 あ、薄情者がいるぞ! 何を売り渡そうとしてるんだ!
 てめえらは戻ったら減俸にしてやっからな!



「ヒョロイカ卿、何事ですか!?」

 騒ぎを聞きつけ、ジャードがきた。
 そっちで崩落とかはなかったんだな。
 無事で何より。

「こっちが訊きたいくらいだよ。何がなにやら……」

「あれはドラゴン……それも古代種のブラックドラゴンでしょうか? 伝説上の存在だとばかり思っていましたが……」

「伝説? そんなにすごいのか?」

 そんな魔物の素材を手に入れたらどれくらいの金になるのだろう。

「伝承の通りならアレに打つ手はありません。ブラックドラゴンは魔王すら凌ぐと言われた絶対的な怪物です」

 ほう、あのドラゴンは魔王より強いというのか。

「かつて大陸で栄華を誇っていた大国もブラックドラゴンに太刀打ちできず、数百人の贄を差し出して怒りを鎮めるしかなかったと聞きます」

 贄か……。
 どうしようもなくなったら昨日捕まえたやつらを出そうかね。
 十人くらいで満足してくれるだろうか。

 数百人よりちょっと少ないけど。

「こうなった以上、ニコルコは放棄するしかありませんね……。資源が豊富で手放すには惜しい土地ですが、ここで朽ちるわけには参りません」

 ジャードが眉間に皺を寄せて苦渋に満ちた声を漏らす。
 何言ってんだ。あんなやつ倒してしまえばいいだろうが。
 どうしてモンスターに遠慮してせっかく見つけた宝の山を置いていかねばならんのだ。

 俺は退かぬ媚びぬ省みぬ!


 ビュッ、ビュッ、ビュッ。ばしゃっ。ばしゃっ。


『グルルフフフフ……』


 いつも通り聖水で攻撃。
 だが、ブラックドラゴンは平然と身体を揺らして水気を振るい落としていた。

 …………。

「全然効いてないんだけど!?」

「何をしてるんですか、あなたは……」

「聖水をかけたんだけど」

「ブラックドラゴンは魔族ではなく竜族ですよ。どれだけ純度が高くても聖水に意味はないでしょう? というか、聖水を出せる水魔法も使えたんですか……」

 ジャードがいろんな方向で呆れていた。
 おいおい、マジでか……。
 新事実。そんなん初めて知ったぞ。

 この世界のモンスターって聖水で全部どうにかなると思ってた。

「だったら、直接行くしかねえよなぁ!?」

「……は!? ヒョロイカ卿、何を仰って……?」

 俺は背中に担いでいたツルハシを握りしめる。
 そしてブラックドラゴンに向かって特攻しに行った。

「狩りの時間じゃあああぁぁぁぁあぁっ!」

「お供します!」

 ベルナデットが併走して着いてくる。
 久しぶりのコンビネーションハンティングだな。

しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...