上 下
56 / 169
『領地経営』編

第56話『神の使徒』

しおりを挟む




 悲しい誤解もあったが、万事解決である。
 幼女は苦しさが抜けて安心したのか眠りに着いた。


「本当に助かりました。ところであなた方は……」


 シスターが不安そうに窺ってくる。
 いきなりすごい魔法で治療したらこいつ何者だよって思うよな。
 しかもこんな田舎になんでいるのって。

 周りの領民たちも怪訝な視線を送っていた。

「シスター、この方たちは新しくニコルコを治めることになった領主様とお連れの方々です」

「あ、ジャードさん。あの、えっと……りょ、領主様でいらっしゃいましたか……! そ、その! なんとお礼を申し上げてよいものかっ……!」

 シスターは慌てて恐縮し、両膝を着いて深々と頭を下げる。
 他の住民たちは普通に立っていた。

「リョーシュってなんだべ?」
「さあ? どっかで聞いたことあるような……」
「治めるって、代官様とは違うんだっぺか?」

 周りの野次馬たちの会話が聞こえた。
 あん? 領主の意味を知らない? どうなってんだ?

「ニコルコは長い間、代官による管理で統治されてきたので領民たちにとっては土地を治める者といえば領主ではなく代官なんです。付け加えるなら、貴族ともほとんど関わりがないのでその辺に関しても疎いです」

 ジャードが補足してくる。
 説明ありがとよ。
 領主どころか貴族も知らないって、こいつら俺より異世界人じゃねえかよ。

 シスターはよその土地から派遣されてきたので知ってるっぽい。
 とりあえず挨拶しとくか。

 チィーッス、領主でぇーす! 

 領民の反応は鈍かった……。




「どうやらこの子、わたしたちに心配をかけないように苦しいのを黙っていたみたいで……」

 シスターは幼女が倒れた経緯をボソボソと語りだした。
 俺が助けた幼女は教会で預かっている孤児の一人らしい。
 周りにいた子供たちもほとんどが幼女と同じく孤児だった。

「昨日も少し食欲がなかった気がしてたんです……もっと早く気づいていれば……」

「はあ……」

 ぶっちゃけ、そんな話されても……。
 だけど、ちゃんと聞きますよ。
 第一印象が大事だからね。

 領民の言葉に耳を傾ける心優しい領主様アピールです。
 ふむふむ……なになに?

 ニコルコでは小さな子供が命に関わる病気にかかることは珍しくない?
 新生児の死亡率は四割に達する? 

 なんだそら、ふざけてやがるな。けどまあ……当たり前だよなぁ? 

 人糞だけじゃなく、馬糞に牛糞――
 ありとあらゆる生物の糞がそこらに転がっているんだから。
 へえ、王都とかの大きな街では医者や高位の神官がいるから死亡率は低いの?

 自分にもっと力があればって……そんな思い悩んでも仕方ないよ。
 ほら、町を清潔にすれば病気になる確率は下げられるからさ。
 これからそういうふうに改革していくつもりだし、前を向いて行こうぜ?

 そんな話をすると、


「聖女様を上回る回復魔法に誰も知らないような素敵な知識……もしかしてあなた様は神の使徒なのですか……!?」


 シスターが興奮したように俺の手をぎゅっと掌で包んできた。


『 ウイイイイイイイッッッッス。どうも、神でーす!』


 脳内でうるさいやつの声が響いた気がした。
 嫌な幻聴だ。


「おお……神よ……このお方との巡り合わせに感謝します……」


 ぶつぶつ唱えてるシスター。
 彼女の細い指先をモミモミする。
 はあ、猫のお腹の柔らかさが懐かしいな。

 これからよろしくね。


「ジロー……いつまで彼女の手を触ってるの?」


 デルフィーヌたちがゾッとしたように表情を引きつらせていた。
 いや、違うんだってば。



「ほう、これが俺の住む屋敷か」

 シスターたちと別れ、しばらく歩いて領主の館に到着。
 領主の館は二階建ての厳かな洋館だった。
 ボロい? 歴史を感じさせる趣があっていいじゃないか。

 は? 五年前に立て替えたばかり? 

 …………。


「入り口はこちらです」

 ジャードの先導に続いて屋敷の中へ。
 騎士団長ゴードンはさり気なく消えていた。
 彼は結局一言も喋らなかったけどシャイなのか? 

 ガタイ的には最強なのに。見た目に反比例して空気みたいな存在だった。



 屋敷に入ると使用人を紹介された。
 爺さんの執事、おばさんのメイド長、それから若い女の子のメイドが二人。
 あと料理人の兄ちゃん。

 メイドの若い子たちを除く使用人たちは住み込みで一階に暮らしているらしい。

 俺たちの部屋は二階? 
 部屋割りどうしよっか。
 俺が一番広い部屋貰っていいの?

 まあ、当主だからね。遠慮なくそうさせて頂こう。

しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...