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『領地経営』編
第55話『25歳はおじさんなのか?』
しおりを挟む「しかし、うんこくせえなぁ!?」
ビジネスチャンスよりも現実で実際に漂う悪しき香り……。
ニコルコの道端には当たり前のように排泄物が落ちていた。
あっ、馬糞らしきものも平然と捨てられているぞ!
ここもうんこの町かよ……!
動物の糞が混じっているからウレアよりさらに酷い。
おまけに住人たちの肌は薄汚れていて、身体を頻繁に洗っているようには見えない。
ジャードやゴードンは清潔にしているのに。
恐らく地元民に風呂や水浴びの習慣がないのだろう。
建物は木造のボロ屋ばかりだし、きっと町全体の文明が遅れているのだ。
表情はイキイキしてるから飢えに苦しんでいることはなさそうだが……。
うんこだと思ってたウレアの街は異世界基準ではオシャンティーな都会だったのか。
割と衝撃的だった。
くそっ、こいつらの不衛生で病気になったらたまったもんじゃない。
ウンコポイ捨ては即刻禁止だ!
図らずも異世界に来たばかりの頃に思ったことを実行に移す機会を得てしまった。
町の衛生観念を改革しないと明日はない。
いずれは下水を引いてアレコレして……。
あ、でも下水ってどうやって作ればいいんだ?
異世界に来ることがわかってたら知識を深めておいたのに……。
ほら、異世界転生に役立つ知識が載った本とか売ってるらしいじゃん?
よく知らんけど。
領地運営について考えながら領主館を目指していく。
前方にやたら人が集まっていた。
「おお?」
輪の中心には寝そべった幼女がいた。
何やってんだ? そういう宗教なのか? 供物なの? それともあの子が教祖様?
「うう、治って……治ってくださひぃ~」
シスター服を着た女性が回復魔法を使って必死に介抱していた。
ふむ、どうやら子供が病気か怪我をしているようだった。
シスターは頑張っているが効果は芳しくなさそうだ。
「あのままだとまずいな……」
…………。
「ヒョロイカ卿。一体何をなさるおつもりですか?」
「ジャード、決まってるだろ、領民を助けに行くんだよ」
「ヒョロイカ卿は回復魔法を使えるのですか?」
「使えるよ、俺はこれでも勇者だぜ?」
「…………!」
ジャードの目が驚愕に揺れたがどうでもいい。
今はやるべきことをやるまでよ。
スタスタ。
「俺に任せろ」
人垣を掻き分け、中心に颯爽と躍り出た。
ニコルコ新領主のお通りだぁ! みんな覚えて帰ってね。
「え? あなたは……?」
困惑するシスター。説明は後でね。ちょいと失礼しますよ。
「むむ……」
うなされている幼女の額を触る。ものすごい高熱だ。汗がすごい。
これは魔法でどうにかしないと確かにヤバそうだ。
自然治癒を待っていたら先に体力が尽きてしまう。
任せろと言って何もできなかったら超気まずいが……。
頼むぜ、回復魔法LV5。
パアアアアッ……。
…………。
んん? ……よし。やったぜ。成功だ。
穏やかになっていく幼女の呼吸。表情もゆったりしたものに落ち着く。
「す、すごい……まるで聖女様の回復魔法……いえ、それ以上かも……」
俺のスキルを見たシスターが呟いた。
いやいや、聖女よりすごいは流石にないだろ。
そっちは専門の人でしょ。
……でも、全マシならそれもあるのか?
なんにせよ上手くいってよかった。
周りの野次馬に混じっていた同年代の子供たちが一斉に湧きあがる。
「う、うぅん……」
幼女が眼を開けた。
「大丈夫か?」
「うん……ありがとね……おじさん……」
返事は弱々しいが苦しさはもうないようだ。
……ん、ちょっと待て。
「おじ……さん……だとっ!?」
そうか、この子はまだ意識が混濁しているのだ。
視界が定まらず俺の顔がきちんと見れていないに違いない。
そうじゃなきゃおかしい。
俺は25歳。
おじさんじゃ……おじさんじゃない……はず。25歳はおじさんなのか?
「ぷっ!」「ぐふっ!」「…………」
デルフィーヌとエレンが顔を背けて吹き出した。
ベルナデットも明後日の方を向いている。
お前ら……。
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