上 下
48 / 169
『全マシ。チートを貰った俺』編

第48話『スキルの名は』

しおりを挟む




 謁見の間を出て王城の廊下を歩く俺たち。
 すっかり暗い空気が漂っている。
 帰り際で一発かましてやったくらいではこの敗戦感は拭えなかった。


「陛下はどうして我々の言葉を聞き入れてくれなかったのだ。裏切り者の件だけでなく、ヒロオカ殿が勇者であることまで……」

 ブラッド氏からガハハな勢いがなくなっている。
 まあ、王のために進言してあんな対応されたらへこむよなぁ。
 けど、ほら、これからは同じ辺境伯になるんだし? 仲良くやろうぜ。イェー!

 そう声をかけようとしたら横からぐいっと腕を掴まれた。

「ジロー! 何考えてるの! どうしてあなたが賠償金を払うなんて言い出したの!?」

 デルフィーヌが瞳に涙を溜め込んでそこにいた。
 彼女は責任感が強いからなぁ……。
 俺に賠償金の肩代わりを約束させてしまったことを気に病んでるっぽい。

 男に奢られて当然とか思ってるビッチどもはデルフィーヌの爪の垢を煎じて飲むべし。

「あたしは……あなたをそんな大きな重荷を背負わせるつもりなんてなかったのに……」

「お、おう……」

 俺はまあ払えるやろって感覚だったので彼女との齟齬が超気まずい。

「ぐすんぐすん」

 泣き出しちゃったデルフィーヌ。
 これどうすんべや……。
 とりあえずエアルドレッド家の屋敷に戻ろうぜ?

 ベルナデットも待ってるしさ。


 再び馬車に乗って揺られ、俺たちは城を後にした。




-エアルドレッド邸-

 屋敷に着いた俺たちは応接間に集まる。
 うーん、空気が暗い。


 コンコン。


「失礼します」

 留守番してたベルナデットが来た。
 よし、じゃあ話を始めるか。


 俺はコホンと咳払い。

「簡潔に言ってしまうとね、この国はもう駄目だ。終わっていると言っても過言ではない」

「「「……っ!?」」」

 デルフィーヌたち貴族組は唐突な終わってる発言に唖然とする。
 ベルナデットは動じず。
 さすがベルナデットさんだ……。

「お、終わっているとはどういうことだ! 確かに陛下の対応は些か疑問があったが、それでも公国を侮辱するようなことはヒロオカ殿でも許さんぞ!」

 エレンが前のめりになって凄んできた。
 こいつの怒った顔怖いな。
 ホントに年下かよって凄味がある。

 貴族や冒険者としての人生経験が表情に刻まれてるのかな……。
 いや、決して老けてるとかそういうんじゃなくてね?

「まあ、落ち着けって。俺は王に訊ねたとき、密かにスキルを発動させていたんだよ」

「スキル……だと?」

「ああ、そうだ」

 エレンを宥めながら俺は頷く。
 俺が使っていたスキルの名は【真偽判定LV5】。
 魔王城で初めて一覧を確認したときに見つけたスキルの一つである。

 この前まですっかり存在を忘れていたけど。

「こいつは鑑定スキルの一種で、物事の真偽を判定できるんだよ」

「し、真偽を判定……!?」

 エレンの目が驚愕に彩られた。
 デルフィーヌとブラッド氏も動揺を見せる。


「俺はこのスキルで王の発言を判定していた……」


 その結果――

『我が国に魔族と繋がっていた者などいるわけがない』

 ここで王の台詞に『偽』の判定が出た。
 さらに、

『この国に魔族と結託していた裏切り者はいないと思うか』

 という問いに対しては『いない』と『真実』の回答をした。


「…………」
「…………」
「…………」
「…………」


 沈黙して傾聴する一同。


「要するにまとめるとだな?」


・王は公国に魔族と通じていた者がいることを知っていた
・しかし、そいつは王にとって裏切り者ではない


 ここから導き出される結論はつまり――


「ハルン公国は裏で魔王と通じていた。魔法陣流出も王の知るところによって行われたとみて間違いないだろう」

 俺を勇者と認めなかったのは彼らに後ろめたいことがあったから。
 王は俺をただの冒険者ということで済ませればすべてを闇に葬れると考えたのだ。

「だから俺は王を説得するのをやめたの。黒幕にいくら訴えかけたって届くわけないからな」

「じゃあ父さんはなぜ処刑されたの? 召喚が成功しないことは初めからわかっていたはずなのに……」

 デルフィーヌが声を震えさせて俺に問う。

「勇者召喚失敗の責任を押し付けるためのスケープゴートにされたのか。あるいは最初から嵌めるつもりだったのか……」

「そ、そんなぁ!」

 しくしく……。
 ありえる可能性を呟くと、デルフィーヌは再び泣き出してしまった。
 あちゃ、余計なことを言ったかも。

 俺がオロオロしていると、

「ヒロオカ殿。そこまでわかっていてなぜ謁見の間で何も言わなかったのだ?」

 エレンが訝しそうに訊いてくる。

「あそこじゃどうにもならんかっただろ。証拠も俺の判定結果だけだし……」

「だが、ヒロオカ殿の力を以てすれば陛下に有無を言わさず事実を認めさせることができたのではないか?」

「エレン、それは俺に力ずくでどうにかしろと言ってるのか?」

「あ、いやそれは……」

 もし俺が仮にチートを使って王を脅し、肯定の言葉を引きだしたとしよう。

 だが、その後はどうなる……? 

 現状では第三者を納得させるような具体的な物証もなければ、被害の実態もない。

 そんな中で王が魔王軍と繋がっていたなどという荒唐無稽な話を誰が信じるのか?

 下手をすれば王に忠誠を誓う貴族たちが反感を示してくるかもしれん。

 力で脅した事実が漏れれれば、俺が虚偽の発言を強いたと見做される可能性だってある。

「今は何をするにも準備不足だ。情報も信頼も含めてな」

 それに力でなんでも従わせるんじゃ魔王と何ら変わらないだろ?

「ううっ、確かに……」

「戦い方はひとつじゃない。王を糾弾するやり方はいろいろあるさ」

「そうだな、ヒロオカ殿。すまなかった……」

 しゅんと項垂れるエレン。
 反省できるのはいい子の証や。
 猫だったら頭を撫でているところだ。

 ふう、久々に本物のネッコをもふもふしてえなぁ……なんて考えていると、

「つまり。ヒロオカ殿はこういうことが言いたいのだな?」

「ん?」

 エレンは瞳を輝かせ――

「ヒロオカ殿は受け賜わった辺境伯の地位を利用し、徐々に国内の貴族を取り込んで支持者を増やしていくつもりなのだろう!? 賛同を集めて情勢を覆し、外堀を埋めていけば周囲の同意を得ながら陛下……いや、ハルンケア8世の王位を簒奪できると……!」

 熱烈な口調で語ってきた。
 感激してるとこ悪いんだけど。

 ぶっちゃけ、そこまで考えてなかったわ……。

 けどまあ、勝手に評価が上がってるっぽいし、そういうことにしとこうかな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。

ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。 高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。 そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。 そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。 弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。 ※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。 ※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。 Hotランキング 1位 ファンタジーランキング 1位 人気ランキング 2位 100000Pt達成!!

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
世間で高い評価を集め、未来を担っていく次世代のパーティーとして名高いAランクパーティーである【月光】に所属していたゲイルは、突如として理不尽な理由でパーティーを追放されてしまった。 これ以上何を言っても無駄だと察したゲイルはパーティーリーダーであるマクロスを見返そうと、死を覚悟してダンジョンに篭り続けることにした。 それから月日が経ち、数年後。 ゲイルは危険なダンジョン内で生と死の境界線を幾度となく彷徨うことで、この世の全てを掌握できるであろう力を手に入れることに成功した。 そしてゲイルは心に秘めた復讐心に従うがままに、数年前まで活動拠点として構えていた国へ帰還すると、そこで衝撃の事実を知ることになる。 なんとゲイルは既に死んだ扱いになっており、【月光】はガラッとメンバーを変えて世界最強のパーティーと呼ばれるまで上り詰めていたのだ。 そこでゲイルはあることを思いついた。 「あいつを後悔させてやろう」 ゲイルは冒険者として最低のランクから再び冒険を始め、マクロスへの復讐を目論むのだった。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

パーティーを追放された雑用係の少年を拾ったら実は滅茶苦茶有能だった件〜虐げられた少年は最高の索敵魔法を使いこなし成り上がる~

木嶋隆太
ファンタジー
大手クランでは、サポーターのパーティー追放が流行っていた。そんなとき、ヴァレオはあるパーティーが言い争っているのを目撃する。そのパーティーでも、今まさに一人の少年が追放されようとしていた。必死に泣きついていた少年が気になったヴァレオは、彼を自分のパーティーに誘う。だが、少年は他の追放された人々とは違い、規格外の存在であった。「あれ、僕の魔法ってそんなに凄かったの?」。何も知らない常識外れの少年に驚かされながら、ヴァレオは迷宮を攻略していく。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

ダンジョン都市を作ろう! 〜異世界で弱小領主になった俺、領地にあったダンジョンを強化していたら、最強領地が出来てた〜

未来人A
ファンタジー
高校生、新谷誠司は異世界召喚に巻き込まれた。 巻き込んだお詫びに国王から領地を貰い、領主になった。 領地にはダンジョンが封印されていた。誠司はその封印を解く。 ダンジョンは階層が分かれていた。 各階層にいるボスを倒すと、その階層を管理することが出来るになる。 一階層の管理を出来るようになった誠司は、習得した『生産魔法』の力も使い、ダンジョンで得た珍しい素材をクラフトしアイテムを作りまくった。 アイテムを売ったりすることで資金が増え、領地はどんどん発展した。 集まって来た冒険者たちの力を借りて、誠司はダンジョン攻略を進めていく。 誠司の領地は、『ダンジョン都市』と呼ばれる大都市へと変貌を遂げていった――――

攻撃と確率にステ振りしていたら最強になりました

りっくり
SF
〜あらすじ〜 ゲーム知識ゼロの日比谷悠斗(ヒビト)が友達の成瀬友哉(トモ)に誘われて、ゲーム《グレイド・リヴァー・オンライン》を始めることになったのだが、トモはお母さんの機嫌が悪いから今日はプレイできないと言い出します。 ヒビトは仕方なく一人でゲームをすると決心し、下調べをせずゲームプレイを行います。 ゲームを始めてすぐにヒビトは美人プレイヤー月城玲奈(ツキナ)に最初に出会い、いろいろな情報を教えてもらいながらプレイをすることになります。そしてツキナはヒビトを見たときから一目ぼれをしてしまったみたいで、リアル情報を教えて欲しいという無理なお願いを了承してくれます。 リアル情報をお互いに交換して、親睦を深めた二人はフィールドに行きレベ上げを行うことに……。

処理中です...