上 下
37 / 169
『全マシ。チートを貰った俺』編

第37話『大丈夫だ。問題ない』

しおりを挟む




「……つか、どうしてあんなやつ呼んだの?」

 バルバトスやクレマンスが飛び抜けて強い冒険者なのかと思っていたが、ここにいる他の冒険者たちもアレ以下ということはなさそうだ。

 本格的にサラミソーセージは大したことないやつっぽいんだが。


「うむ、彼は自分に作戦の指揮をさせろと言って勝手に押し掛けてきたのだ。後方のいつでも逃げられる安全な陣地に居座り、勝てた場合だけ指揮官として手柄を自分のものにするつもりだったようだな」


 ブラッド氏は顎をなぞり、他人事のように答えた。
 いや、なんで追い返さないんだよ。


「邪魔と突っぱねると、王都で広い人脈を持つフルティエット伯爵が侯爵や他の辺境伯にくだらん根回しをしてくるのでなぁ。慎重にならざるを得なかったのだ。あれの父親は伯爵のクセにやたらと上位貴族や王族に顔が利く……面倒なやつで困るわい」


 街の存亡がかかった戦いだというのに自分の名を上げるためにすり寄って来たのか。
 しかも親の権力をちらつかせ、自分は危険を冒そうともせず。
 まったく、どこまでクソなんだあいつは……。

 ほんと、あんなのと旅しなくて済んでよかった。




「…………」

 バルバトスがテーブルに放置された魔王をじっと眺めていた。
 おっと、ハムスターに構ってて忘れてたぜ。

「悪いな。鬱陶しかっただろ。いつまでも置いておくもんじゃないよな。」

「……いや、そういうわけではない」

 魔王を鞄に戻そうとすると、バルバトスは首を横に振った。

  …………?

 じゃあどういう意味だろう。

「スザクを倒すのはね、バルバトスの悲願だったんだよ」

 クレマンスがしんみりとした口調で言った。
 事情を知ってるって結構付き合い長いのかな、この二人。
 バルバトスのことを馬鹿にされて怒ってたし、意外と仲いいのかも。

「……バルバトス、なんか魔王と因縁でもあったのか?」

 よく見れば、バルバトスの厳めしい顔はどこか哀愁を漂わせているようにも見えた。

「かつてパーティを組んでいた仲間たちがこいつにやられてな……。いつかその仇を……そう考えていたんだが……ふっ、先を越されてしまったようだな……」

 …………。

 魔王を一生の仇敵に定めてたやつもいたのに、俺はちょちょいとスナックを摘まむ感覚で倒してしまったのか。

 あのときの光景をバルバトスが知ったらどんな気持ちになるのか。

 想像したくもねえなぁ……。

「オレがいつまでも二の足を踏んでいたのが悪いんだ……そんな顔をするな……。魔王は手強かっただろ……? よく倒してくれたな……ありがとう」

 黙り込んだ俺を見て、バルバトスは何か勘違いしたようだった。
 俺は微妙な表情で『お、おう、まあな』と言うしかなかった。
 めっちゃ気まずいぜぇ。



 それから――

「まず、俺が雑魚を間引きます。そしたらみんなに残った雑魚を任せるので、俺はその間にヒザマを倒します。以上」

「……本当に大丈夫なのか? ……そんな作戦で」

「大丈夫だ。問題ない」

 作戦会議ということで、俺は考えていた展開をアバウトに説明した。
 すると、めちゃくちゃ不安そうにされた。
 ちくしょー。

 屋外に行って俺はチートのスキルをいくつか見せた。

「す、すげえなんだありゃ」
「これが魔王を倒した力……」
「勇者ってマジなんだなぁ」

 よし、みんな納得してくれたな。問題解決。


「なあ、ヒロオカ殿。君が勇者なら……」

「あー、その辺の話はまた今度で」


 ブラッド氏には戦いが終わったらすべて話すといって我慢してもらった。
 裏切り者云々の話もあるし、落ち着いてからきちんと説明したい。

 バルバトスやクレマンス、他の冒険者たちにも俺が勇者であることは当面伏せていてもらうよう頼んだ。

 まあ、絶対誰かが漏らすんだろうけどな。
 人の口に戸は立てられぬっていうし。




 さあ、明日は決戦だ。準備は特に要らない。この身があれば大抵何とかなる。
 寝坊だけはしないように気をつけよう。


 宿に帰ると不貞腐れたベルナデットがいた。

 バーに連れて行ってソーセージを食わせ、頼りにしてるぜと言ったら機嫌を取り戻した。

 ちょろいなw

 うむ、万事抜かりなし。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

成長チートと全能神

ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。 戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!! ____________________________ 質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。

【短編版】神獣連れの契約妃※連載版は作品一覧をご覧ください※

神楽圭
ファンタジー
*連載版を始めております。作品一覧をご覧ください。続きをと多くお声かけいただきありがとうございました。 神獣ヴァレンの守護を受けるロザリアは、幼い頃にその加護を期待され、王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、やがて王子の従妹である公爵令嬢から嫌がらせが始まる。主の資質がないとメイドを取り上げられ、将来の王妃だからと仕事を押し付けられ、一方で公爵令嬢がまるで婚約者であるかのようにふるまう、そんな日々をヴァレンと共にたくましく耐え抜いてきた。 そんなロザリアに王子が告げたのは、「君との婚約では加護を感じなかったが、公爵令嬢が神獣の守護を受けると判明したので、彼女と結婚する」という無情な宣告だった。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

処理中です...