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『全マシ。チートを貰った俺』編
第37話『大丈夫だ。問題ない』
しおりを挟む「……つか、どうしてあんなやつ呼んだの?」
バルバトスやクレマンスが飛び抜けて強い冒険者なのかと思っていたが、ここにいる他の冒険者たちもアレ以下ということはなさそうだ。
本格的にサラミソーセージは大したことないやつっぽいんだが。
「うむ、彼は自分に作戦の指揮をさせろと言って勝手に押し掛けてきたのだ。後方のいつでも逃げられる安全な陣地に居座り、勝てた場合だけ指揮官として手柄を自分のものにするつもりだったようだな」
ブラッド氏は顎をなぞり、他人事のように答えた。
いや、なんで追い返さないんだよ。
「邪魔と突っぱねると、王都で広い人脈を持つフルティエット伯爵が侯爵や他の辺境伯にくだらん根回しをしてくるのでなぁ。慎重にならざるを得なかったのだ。あれの父親は伯爵のクセにやたらと上位貴族や王族に顔が利く……面倒なやつで困るわい」
街の存亡がかかった戦いだというのに自分の名を上げるためにすり寄って来たのか。
しかも親の権力をちらつかせ、自分は危険を冒そうともせず。
まったく、どこまでクソなんだあいつは……。
ほんと、あんなのと旅しなくて済んでよかった。
「…………」
バルバトスがテーブルに放置された魔王をじっと眺めていた。
おっと、ハムスターに構ってて忘れてたぜ。
「悪いな。鬱陶しかっただろ。いつまでも置いておくもんじゃないよな。」
「……いや、そういうわけではない」
魔王を鞄に戻そうとすると、バルバトスは首を横に振った。
…………?
じゃあどういう意味だろう。
「スザクを倒すのはね、バルバトスの悲願だったんだよ」
クレマンスがしんみりとした口調で言った。
事情を知ってるって結構付き合い長いのかな、この二人。
バルバトスのことを馬鹿にされて怒ってたし、意外と仲いいのかも。
「……バルバトス、なんか魔王と因縁でもあったのか?」
よく見れば、バルバトスの厳めしい顔はどこか哀愁を漂わせているようにも見えた。
「かつてパーティを組んでいた仲間たちがこいつにやられてな……。いつかその仇を……そう考えていたんだが……ふっ、先を越されてしまったようだな……」
…………。
魔王を一生の仇敵に定めてたやつもいたのに、俺はちょちょいとスナックを摘まむ感覚で倒してしまったのか。
あのときの光景をバルバトスが知ったらどんな気持ちになるのか。
想像したくもねえなぁ……。
「オレがいつまでも二の足を踏んでいたのが悪いんだ……そんな顔をするな……。魔王は手強かっただろ……? よく倒してくれたな……ありがとう」
黙り込んだ俺を見て、バルバトスは何か勘違いしたようだった。
俺は微妙な表情で『お、おう、まあな』と言うしかなかった。
めっちゃ気まずいぜぇ。
それから――
「まず、俺が雑魚を間引きます。そしたらみんなに残った雑魚を任せるので、俺はその間にヒザマを倒します。以上」
「……本当に大丈夫なのか? ……そんな作戦で」
「大丈夫だ。問題ない」
作戦会議ということで、俺は考えていた展開をアバウトに説明した。
すると、めちゃくちゃ不安そうにされた。
ちくしょー。
屋外に行って俺はチートのスキルをいくつか見せた。
「す、すげえなんだありゃ」
「これが魔王を倒した力……」
「勇者ってマジなんだなぁ」
よし、みんな納得してくれたな。問題解決。
「なあ、ヒロオカ殿。君が勇者なら……」
「あー、その辺の話はまた今度で」
ブラッド氏には戦いが終わったらすべて話すといって我慢してもらった。
裏切り者云々の話もあるし、落ち着いてからきちんと説明したい。
バルバトスやクレマンス、他の冒険者たちにも俺が勇者であることは当面伏せていてもらうよう頼んだ。
まあ、絶対誰かが漏らすんだろうけどな。
人の口に戸は立てられぬっていうし。
さあ、明日は決戦だ。準備は特に要らない。この身があれば大抵何とかなる。
寝坊だけはしないように気をつけよう。
宿に帰ると不貞腐れたベルナデットがいた。
バーに連れて行ってソーセージを食わせ、頼りにしてるぜと言ったら機嫌を取り戻した。
ちょろいなw
うむ、万事抜かりなし。
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