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『全マシ。チートを貰った俺』編
第24話
しおりを挟む-訓練場-
「お前。どっちに賭けた?」
「オレは獣人の子!」
「オラはあのでかっ鼻にしたぞ」
冒険者どもの会話が聞こえる。
どこで聞いていたんだか。今回もすぐさま野次馬が集まってきた。
また賭けをしてんのかよ。
暇人が多いよな。
あぶく銭じゃなくて真っ当に稼げよ。
……俺が言うと嫌味にしかならねーかw
ハイ、俺が総資産10億を超える新米冒険者です。
「な、なあ、本当に止めなくていいのか?」
オロオロしながらエレンが俺の服の袖を引っ張ってくる。
まだ言ってんのかよ。
「…………」
デルフィーヌも自分の身がかってるからか、不安を隠しきれていない様子だ。
これは言葉だけじゃどうにもならん状態だな。
「大丈夫だって。ベルナデットは一人で上級魔物を二体までなら同時に相手できる。ソロで倒せないと豪語するホットフルトに後れをとるわけないだろ?」
「に、二体だと!? 上級魔物をソロで!?」
「それ、本当なの?」
そう、初めて剣を持った日に角ウサギを泣きながら刺していたウチの猫獣人少女は現在、上級魔物なら単独でそれくらいまで倒せるようになっていたのだ。
もっとも、それ以上の数で囲まれると何もできないから確固たる力を身に着けたとは言い難いけれど。
しかし、このペースで行けば解放するころには一角の冒険者になっているだろう。
そうこうしているうちにホットサラミとベルナデットの戦いの火ぶたが切って落とされた。
野次馬冒険者たちはそれぞれの賭けた側を熱狂的に応援し、ホットドッグの従者たちは小馬鹿にした薄笑いを浮かべて観戦していた。
そのいけ好かない表情がいつまでもつかな?
「ベ、ベルナデットちゃん頑張ってー!」
声を裏返しながらデルフィーヌも声援を送る。
大声を上げるのに慣れていないのかな。
エレンは『ベッベッ……がん……』とかなんとか言っていた。
こちらは慣れていないとかの次元じゃない。
貴族の娘だし、声を大きく出すのははしたないとか教育されてんのかも。
……俺も一声かけてやるべきか?
「…………」
「…………」
ベルナデットと視線が交差する。
すると、それだけで十分とばかりに彼女は柔らかな笑みを向けてきた。
近頃のベルナデットには珍しい純粋な笑顔だ。
心のメモリーに保存しておこう。
頑張れよ、俺は胸の内でひっそりエールを送った。
「すごいな、あの獣人の娘は……。フランクの剣をあそこまで見切っているとは」
ボンレスハムのサーベルを軽々回避するベルナデットを見て、エレンが驚嘆する。
「ぐぬ! ちょこまかと! 騎士の誇りはないのか貴様ぁ! 堂々と戦え!」
「わたしは騎士ではないので」
ベルナデットは剣先を最低限の動きで躱し、鎧で守られていないポークピッツの関節部分を浅めに突き刺す。
「ぐあっ! ……薄汚い奴隷の分際でッ! 僕に盾突くかぁ!」
「戦闘中に冷静さを失う……まるでダメですね」
うむ、全くその通り。
だが、なぜお前は初の対人戦なのにそこまで冷静なんだ?
やっぱり感情をどこかに落としてきちゃったの?
別の意味で心配になる。
「くそがああ! 本当なら僕は勇者と一緒に旅に出て、魔王を倒し、英雄の一人として名を刻むはずだったのに! 無能クソ魔導士のせいで全部パー! 憂さ晴らしでその娘を奴隷としてぐちゃぐちゃにしてやろうと思ってただけなのに! なぜ邪魔をするんだ!」
いや、するだろ。そりゃ。愛人としてそれなりに扱うんじゃなかったのかよ。
見ると、デルフィーヌは顔を青くさせていた。
少しでも気の迷いを起こして甘言に乗っていたらとんでもないことになっていたな。
うーん。あんな男を勇者に同行させようとしてたのか……。
大丈夫か、この国の人選は。
そんなに人材難なの?
性格は最悪だし、戦力的にも足を引っ張ってきそうなレベルだぞ。
あれなら前に軽く揉んでやったクレマンスとかいう女冒険者のほうが数倍マシに思える。
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