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『勇者伝』編
第140話『比較対象のレベル、低すぎ……?』
しおりを挟むゴルディオンは、リクが王国の用意したパーティメンバー(王国の初期パーティは全員男でタチアナ以外は筋骨隆々の見るからに男臭い野郎どもばかりだったらしい)に不満を抱いていることを薄々感じ取っていたそうだ。
リクが女をパーティに入れたい、むしろメンバーを女だけにしたいと言っていたこともあり、ゴルディオンはいずれリクが理由を付けてパーティメンバーを追放しようとするのではないかと危惧していた。
追放者第一号はゴルディオン本人だったわけだが……。
「リク殿もタチアナを女子だと勘違いしていたので、ワシはタチアナに自分からはリク殿に性別を明かすなと指示していたのです」
最悪の場合、タチアナだけでもパーティに残れるように。
女だと思わせておけば、リクはパーティから追い出さないだろうと考えてのことだった。
「ワシの杞憂であってくれと思っていたのですが……」
実際、その想定通りになったわけだな。
ちなみに、明かさないだけで訊ねられたら正直に答えるつもりだったらしい。
申告しないだけなら騙しているわけではないとかなんとか。
それは……そうなのか?
「しかし、そろそろ限界かもしれません」
タチアナが気を重くした口調で言った。
「時折苦言を呈し、過度な触れあいを拒む私に対してリク様は不満を募らせているようです。次に新しい女――もとい、パーティメンバーを見つけたら私もいよいよ追い出されてしまうでしょう」
いくら美少女(に見える男)でも、お触り厳禁ならいらねーってことか。
しかし、そうなるとパーティに残るのはやべーやつらばかりになるな。
人間性のしっかりした者がまったくいなくなったら、あのパーティはマジで暴走無限列車になってしまうんじゃないか?
今はタチアナがお目付役として最低限のブレーキをかけているようだが、それが外れたら連中の振る舞いはどうなるかわかったものではない。
今でさえ十分に非常識な感じなのに。
ひょっとしたら魔王討伐すら真面目に取り組まなくなるかもしれない。
勇者の立場だけを振りかざす横柄なグループに成り下がる可能性だってある。
「あ、そっか、じゃあ、あのヤリチン野郎の性根を叩き直して欲しくて来たの?」
「いえ、そうではなくて――」
違ったらしい。
「我々勇者パーティはこれから魔境に行くことになったのですが……」
「魔物を狩って鍛錬でもするのか?」
「違います」
また違った。
今日の俺は勘が冴えない。
「あれから目を覚ましたリク様は、自分が負けたのは何かの間違いだから、もう一度勝負に行くと言い出しまして」
マジで?
じゃあ、あいつ、また来るわけ?
「それは何とか説得して止めることに成功しました」
「ああ、よかった」
というか、よく説得できたな?
君、すごい話術持ってると思うよ。
「しかし、今度は町で噂を聞いたブラックドラゴンを倒すと言い出してしまいまして」
「ええ? ブラックドラゴンを倒す?」
「はい、ヒョロイカ様が手に負えなくて放置している邪悪なドラゴンを討てば、自分のほうが格上であることを証明できると――」
どんな噂を聞いたのかは知らんけど。
ブラックドラゴンは手に負えないから放置してるわけじゃないよ。
倒す必要がないってだけ。
あいつとは普通にフレンズだし。
「正直、今のリク様ではヒョロイカ様が手を焼いているドラゴンに勝てるとは思えません。それほど、リク様とヒョロイカ様の差は歴然でした。このままではリク様はドラゴンに食い殺されてしまいます……」
ブラックドラゴンは人間食べないって言ってたけど。
そういう返事は多分的外れなんだろうなぁ。
「ヒョロイカ様に不遜な態度をとったリク様を助けてくれと頼むのは筋が通っていないことかもしれません。しかし、リク様は王国にとって必要な存在なのです。どうか、勇者の力でリク様を止めて頂けませんか……?」
必死に頼み込んでくるタチアナ。
何でもしますから! と言ってきそうな勢いである。
まあ、勇者のチートを持ってるリクを止められるのは同じ勇者くらいだろうからな。
「タチアナよ、ヌシにばかり苦労をかけてすまぬ……!」
ゴルディオンが心苦しい気持ちでいっぱいな顔になっていた。
自分が去った後、部下に尻拭いをさせているようでキツいのかもしれない。
「ゴルディオン卿、気になさらないで下さい。ああ見えて、リク様も根は真面目な人ですから。そこまで苦労とは考えていませんよ」
「ぐおぉぉっ……! タチアナよ、ヌシは……騎士の鑑じゃ……ッ!」
健気なことを言うタチアナにゴルディオンは号泣した。
あのヤリチンが真面目だと……!?
でも、言われてみれば、魔王軍を放置して大勢の女奴隷を連れながら旅行しているやつや、引きこもって何もしていない疑惑のあるやつらと比べたら、戦ってるだけリクは誠実な勇者なのかもしれない。
うわっ……比較対象のレベル、低すぎ……?
俺は口元を手で覆った。
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