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『領地経営』編

第115話『ろーかるあいどる』

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「で? あんたは一体何しにきたのよ?」

 さっきのはなかったことになった。
 そういうことになった。

「ヒョロイカ様はスチル様が仕官する件について再び話をしにきてくださったのですよ」

 ダスクがスチルに事情を説明する。

「ふーん、今さらあたしに何をさせようっての?」

 スチルが覇気もなく、興味なさそうに言った。

 彼女は前回の敗走で完璧に勤労意欲を失ってしまったらしい。

「それはもちろん、スチル様の回復魔法を頼りにされているに決まってます!」

 ダスクはそれしかないと思っているようだ。

 まあ、別にそっちでもいいんだけど……。

「ですよね、ヒョロイカ様?」

「え? いや、回復魔法はそこまで……」

 急に振られたせいで、俺は思わず正直に答えてしまった。
 やっちったー。

「そうよね……あたしの回復魔法は幼女以下……フヒヒ……あたしなんて……」

 スチルの表情が暗黒面に落ちた。
 ちっとも堪えてないと思ってたら、傷跡バッチェ残ってましたよ。
 すっごい気にしてるよぉ……。

 引きこもりの地雷はどこにあるかわからないという教訓を得た。

「あーでもな? 実はお前にうってつけの役目を用意してきたんだぜ?」

 さっき思いついたやつだけど。
 俺はあたかも初めから考えていた案件のごとくスチルに言う。

「お前さ、『ろこどる』ってのをやってみるつもりはないか?」

「ろこどる……?」

 スチルの顔が少し上向く。
 ロコドル。
 即ち、ローカルアイドル。

 ご当地アイドルともいう……のかな?

「お前にはニコルコの魅力を他の地域に宣伝するため、皆の人気者として領地を盛り上げる役割を果たしてほしいんだ」

「あたしが……に、人気者に……?」

「ちょっと待って下さい! スチル様に得体の知れないことをやらせるつもりですか!?」

 ダスクは主人を案じて難色を示している。
 アイドルはきっと異世界にはない概念。
 ダスクはかなり警戒してるようだ。

 うん、知らずに特殊な銭湯で働かされそうになった経験が生きてますね……。

「別に得体の知れないことじゃないさ。ろこどる……ローカルアイドルは広告塔としてニコルコの良さをアピールしつつ、大勢の前で歌ったり踊ったりする仕事だ」

 元の世界のローカルアイドルがそういうものなのかはぶっちゃけよく知らない。
 でも、アニメかなんかで見たロコドルはそういう感じのことをしてたような気がする。
 だから、大体合ってると思う。

「大勢の前で!? スチル様を見世物にすると!?」

「歌って踊る……」

 ダスクにハラハラとした視線を向けられながら、スチルは深く考え込む。

 スチルに任せたいのはニコルコの観光大使。

 彼女のルックスと歌唱力はきっと人目を引く。

 中身はともかく、その二つは確かに秀でているのだ。

 ビッチ女子高生がくるまでは聖女として崇拝されていたみたいだし。
 アイドルに必要なカリスマ性みたいなものも恐らく持っているだろう。
 人前に出て注目されることだって慣れているはず……。

 素養と下地は十分。

 上手くやれば彼女自身がニコルコに人を集めるコンテンツとなり得る。

「ねえ、その『ろーかるあいどる』っていうのは本当に人気者になれる仕事なの……?」

「ああ、なれるぞ」

「ちやほやしてもらえる?」

「もらえるともさ!」

 俺は気前よく返事をした。
 確証はないけど。
 合意を得るためにはこういうノリも必要だ。

 ビジネス書にも書いてある。
 見たことないけど。
 多分、書いてあるはず。

「なら、それやるっ!」

「ス、スチル様ぁ……」


 こうして、
 今ここに、


 異世界で――ニコルコで最初のご当地アイドルが誕生した。



 まあ、正式な契約はジャードも交えた場で改めてやったけど。
 基本給に出来高をつけたらスチルはめっちゃ張り切っていた。
 ちなみに、今回は10億寄越せとは言ってこなかった。

 どうやらスチルにとって容姿と歌声は回復魔法ほど自信がある分野ではないらしい。

 このまま変なプライドを持たず、増長しないことを祈るばかりである。





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