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『領地経営』編
第112話『「いえ、しませんが?」』
しおりを挟むネイバーフッド伯爵は何も聞いてないのに勝手にペラペラ白状してきた。
どうやら彼は俺を嵌めるため、王城から指示を受けて送り込まれてきたらしい。
本当は関わりたくなかったが、ハルンケア8世の圧力を恐れて断れなかったのだとか。
「ですが、ヒョロイカ殿はすべてを知った上で私を許し、危険なことは何もないと、困っているなら手を取れと言って下さった! 権威を振りかざして理不尽に振る舞う陛下より、私は慈悲深い貴殿を信じたいと思いました……!」
ネイバーフッド伯爵は、どうにも俺がその辺のことをすべて把握していたと思っているようだった。
そして彼の中では俺がそれらをすべて許したことになっていた。
いや、よくわかんないんだけど……?
どこにそんな要素あった?
「貴殿が一体何をしようとしているのか、浅はかな私にはわかりません。ですが……貴殿の仰ったように、深く関わっていくことで本質を見極めさせて頂きたいと思います!」
彼は自分を許してくれた俺に非常に感謝しているみたいなのだが……。
正直なんのことか意味不明だ。
あの話の流れでどうしてそう考えるに至ったんだろう?
確かに仲良くなろうぜって言ったけど。
工作員だったとか全然知らなかったから、許すとかは言ってないと思うんだけど。
あれか? 困っていることが策謀に巻き込まれてることだったってことか?
結局……。
ハルンケア8世の命令に従ったのは家を守るために仕方なかったということ。
これから俺と親交を深めたいということ。
この二つに嘘がないのは真偽判定スキルで確認できたので、俺は特に訂正しないで彼を受け入れることにした。
せっかく恩義を感じているのだから利用できるものはしておくに限る。
そういう判断だ。
「そういえばネイバーフッド伯爵は先ほど私のことを勇者と仰いましたが……」
「ええ、魔王を倒して様々な奇跡を起こす存在といえば勇者様以外におられますまい?」
「でも、召喚は失敗で俺は勇者の代わりに魔王を倒した冒険者だと公国は発表してますよね?」
「それは何かの策謀で勇者ではないことにされたのだと思ったのですが……違いましたか?」
「おお……」
ウレアの街では勇者だぜって言ってもなかなか信じてもらえなかったのに……!
ネイバーフッド伯爵って、もしかしてすごくいい人なのではないか……?
俺の中でネイバーフッド伯爵の株が爆上がりした。
その後、ネイバーフッド伯爵は肩の荷が下りたのか機嫌よくニホンシュとワインをグビグビ飲み始めた。
スシも気に入ったらしく、バクバク食べて絶賛してくれた。
「実は私にはなかなか器量よしの娘がおりましてな……よろしければヒョロイカ殿のところで行儀見習いをさせていただけないかと……」
「はあ……」
酔っ払って顔の赤いネイバーフッド伯爵の申し出に頷いたりしながら、会食はいい感じの雰囲気で終わりを告げた。
◇◇◇◇◇
ネイバーフッド伯爵が客室に戻っていった後。
俺は執務室でジャードと密談っぽい会議をしていた。
「どうだったよ、俺の華麗な社交スキルは? しっかりと伯爵をこちら側に引き込むことに成功したぜ?」
俺はウキウキで語る。
想定してないこともあったが、最終的には上手くまとまった。
さすが俺だろう?
「はい、ネイバーフッド伯爵を取り込めたのは大きな成果ですね。彼は中央に影響力のある貴族ではありませんが、この辺り一帯に領地を持つ地方貴族たちには顔が利きますから。ニコルコの地盤を固めるためには是非とも懐柔しておきたい相手でした」
ジャードが珍しく手放しに成果を褒めてくる。
どうやらネイバーフッド伯爵は俺が思っていた以上にキーパーソンだったようだ。
「まさか向こうから負い目を背負って飛び込んでくるとはね……。労せず貸しのある関係を築くこともできましたし、ネイバーフッド伯爵を駒に選んだハルンケア8世の愚かさには感謝しなくてはいけません」
ジャードがとても楽しそうな顔になっている。
楽しそう、と言っても笑っているわけではないけれど。
でも、多分、俺が見てなかったら『ひゃっほう!』とか叫びながら小躍りしてるぜ。
「いえ、しませんが?」
「…………」
心を読まれた。
相変わらず鋭い男である。
それとも俺が口に出していたのだろうか?
真相を確かめる勇気は俺にはなかった。
◇◇◇◇◇
宛がわれた客室でネイバーフッド伯爵は窓から夜空を眺めていた。
「フッ、そういえばアレに言及する余裕もなかったな……」
魔境にそびえ立つ謎の高い塔を見つめながらネイバーフッド伯爵は苦笑する。
公国内では他国の魔王軍が作った新兵器なのではとも噂されている建造物。
普通に考えれば真っ先に確認すべき事項だったが……。
考えることや驚くことが多すぎて忘れてしまっていた。
明日の出立の前に訊ねてみるべきだろうか……?
「まあ、ヒョロイカ殿が放置してるのなら、きっと大丈夫なのだろう」
ネイバーフッド伯爵は欠伸を漏らしてベッドに潜り込む。
彼の目の前でブラックドラゴンがその塔に入っていったりもしたが。
それでも彼は気にせず就寝した。
ニコルコでの様々な体験によって、ネイバーフッド伯爵はいろんなことをあるがままに受け止める性格を体得していたのだった。
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