上 下
108 / 126
第二章

精霊と決着3『提案』

しおりを挟む



「ハムファイト君……どうやら嘘つきは君だったようだね。実に残念だ。君がこんなことをする人間だったとは……」

 ハムファイトとラッセルが揉めている。

 気まずい雰囲気が二人の間に漂っていた。

「違うんです! これは何かの間違いなんです!」

「何も違わないだろう、言い訳はいらん!」

「わ、私はあなたのために……! あなたが余計なことをしなければ丸く収まったのに!」

「相手がどんな愚者であろうと、我々が道理を曲げることは許されない。君の行ないは魔導士として、貴族として、学園の生徒として恥ずべきことだ。もちろん、君の本質を見抜けず代表に選んだ僕にも責任がないとは言えないがね……」

 おい、愚者ってなんだ。

 喧嘩売ってんのか? いや、喧嘩になったから決闘やってんだったな。

「すまないが、卒業後に用意していた君のポストは考え直させてもらうよ」

「あぁ……そ、そんな……くそ……くそ……こんなはずでは……!」

 ラッセルに冷たく突き放されたハムファイトは顔面を蒼白にさせて後退りする。

 そして、

「お、お前らさえいなければ――ッ! 私の将来は安泰だったのに――ッ!」

 ハムファイトは口から泡を飛ばして叫び、俺たちのほうに突進してきた……が、

「う、うわっ! あれっ!? なんだっ!?」

 次の瞬間、ハムファイトは空中で逆さ吊りにされていた。

 ヒュウヒュウと吹く風。これは魔法によるものか? 一体誰が?

「さっきから見てたらよぉ、まったく気に入らねえ野郎だ……」

 観客席の向こうからルドルフがのそのそ歩いてくる。

 どうやら魔法を放ったのは彼のようだった。

 性格に反して器用なこともできたんだな。

「オレは特権意識でお高くとまってる貴族が何より嫌いでよぉ……」

 ルドルフはイラついた様子でハムファイトに詰め寄る。

「権力ってのはやりたい放題やった最後にケツを拭く程度のもんだろ。血筋でテメェが強くなったつもりか? 勘違いしてんじゃねえぞ。同じように権力で潰してやろうかァ?」

「ひいいっ……!」

 じょばばばばばぁ……。

 うわ、ばっちぃ!

 ルドルフに恫喝されて縮み上がるハムファイト。

 なんか憤ってるけど……お前もニッサンの街でいろいろやってただろが!

 知らない? ああそうですか……。

 やっぱり、こいつ無茶苦茶だわ。

 最近は馴れ合ってたけど適切な距離を置くことを忘れてはいけないやつだと思いました。



 ハムファイトは警備の騎士に引き連れられてどこぞに消えていった。

 この後、彼にはどんな処分が待っているのだろう。

 まあ、そこらへんは俺の関知するところではない。



「で? この落とし前はどうつけるつもりなのだよ?」

「そんなものは決まっている。僕たちの反則負けだ。特に先ほどのハムファイト君の狼藉は申し開きのしようもない」

 ラッセルは思いのほかあっさり頭を下げた。

 俺たちに突っかかってきた最初の高圧的な態度を考えると相当な肩透かしである。

「まったく不本意な終わり方なのだよ……」

 ラルキエリは口を尖らせて不満そうに愚痴る。

 しかし、それ以上は何も言わない。

 合理的な彼女はラッセルを責めたところで得るものは皆無とわかっているのだろう。

 全面的に謝罪しているのだから、もはや俺たちの勝利は揺るぎない。

 だが、このままラッセルたちの反則負けで終わらせていいもんか?

 周囲を見渡してみる。

 会場の客たちは長い中断にすっかり冷めた空気を醸し出していた。

 こんな雰囲気で勝ちが決まって、それで筋トレ理論を浸透させることに繋がるのか?

 正直、微妙な気がする。

 もっとセンセーショナルに筋トレがスゴイと印象付けなくては意識の変革は起こせないんじゃないかと思う。

 決闘で勝っても、成果を勝ち取れなくては意味がないのだ。

 だから……俺はラッセルにひとつの提案をすることにした。


 ――ここはいっちょ、俺とお前の直接対決で最後の勝敗を決めてみないか? と



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...