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第二章

才媛と塔5『ラッセル・マーサカリィ』

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「才媛に……ニゴー子爵令嬢……」


 金髪のデカッ鼻は苦々しい表情で彼女らを睨んだ。


「君たちはエルフと結託して学園の方針とは異なる何かをやっているそうだな。いくらなんでも驕りが過ぎると思わないか?」


 早速の喧嘩腰ですわ。

 さあ、ラルキエリ先輩、エルーシャ先輩、言ってやってください!


「むむ、君は……」

 ラルキエリが神妙そうな態度で眼鏡を上下させる。

「君は一体誰なのだよ?」

 そして首を傾げてそう言った。

「ら、ラッセルだ! ラッセル・マーサカリィだよ! 寵児の名で呼ばれる僕をなぜ君が覚えていないッ!?」

 ラルキエリに覚えられていなかったことに取り乱すデカっ鼻。

 ほう、この金髪が噂の寵児というやつだったのか。

「ああ……すまないのだよ? いや、我輩、必要のないことには記憶を割かないようにしているのだよ? 研究者として覚えておくべき大事なことが他にあるのでね」

 そういえばルドルフとネタにして笑ったのもこいつだったっけ。

 なんでかなぁ、あんまり記憶に留めておく気になれないやつなんだよな。


「こ、これまで何度も顔を合わせているというのに君はッ……。もういい! 口で言っても聞くつもりがないなら決闘だ! 僕の創設した倶楽部のメンバーと、君たちの代表者をそれぞれ五人ずつ出して魔法による試合を行なおうじゃないか! 僕たちが勝てばその王立魔道学園の品格を落とす見苦しい研究をやめてもらおう!」


「……おい、見苦しい研究だと? 君は我輩の研究を見苦しいと抜かすのか……なのだよ?」

 寵児ラッセルの言葉にラルキエリが珍しく怒気のこもった声を出す。
 研究を馬鹿にするのは彼女の怒りのポイントだったらしい。

「君らがやっているのは野蛮な兵士がする、みっともない鍛練の真似事だろう? 高貴なる学園の誇りと伝統を汚す行為と言って差し支えないよ」

「言ってくれるのだよ……。いいじゃないか! その決闘、受けてやるのだよ?」

 ええっ!? という声がポーンたちから沸き上がった。そりゃそうだろ。
 なんで当人たちの確認を取らずに受けちゃうんだよ。

「その代わり、我々が勝利したらこの実験に費やせる経費を五倍に増額するよう、君の実家の名前で学園に進言するのだよ?」

 だから勝手に……もういいや。
 どうせラルキエリがいなきゃまともに始まらなかった実験だし。
 好きに決めてくれ。

「ふっ、よかろう。そんなことは万が一ないだろうが、あれば父上に話を持っていってやるさ。詳しい日程は追って伝える。……いいか、何があっても逃げようとするなよ? 僕は魔術の誇りを冒涜した君たちを許しはしないからな?」


 バサァッとローブをはためかせて去って行く。



「ふん、持って生まれた才能だけで苦労を知らない坊ちゃんが。彼には泥臭く足掻かなければならない人間の気持ちが理解できんのだよ」


 ラルキエリは忌々しいとばかりに寵児の背中を睨む。

 お前も同じような天才じゃないの?

 まあ、研究とかで忙しそうだし。

 多少は大変な思いをしてるから違うのかな。




 打倒ラッセルという目標を掲げることでより一層、熱が入るようになった平民たちの筋トレ。


「おらおら、この雑魚ども! もっと早く走らねーと回復魔法を有料にすんぞ!?」


 決闘の噂を聞きつけたルドルフは面白半分でコーチとして実験に顔を出すようになっていた。

 あいつも俺ほどではないがそれなりの回復魔法が使えるので班分けした生徒たちを見る役目を任せている。

 鬼畜すぎて平民生徒たちから相当恐れられているようだが。

 まあ、効率がよくなるのはありがたいことだ。


 ラッセル一味との決闘は一週間後。


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