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第二章
基礎魔法と実情2『建前と現実』
しおりを挟む授業終了の鐘が鳴った。
それは俺にとって福音だった。
やっと救われた……。
「じゃあ、みんなぁ~? 今日ノートにとった呪文とやり方でぇ、自分なりによく分析してぇ、いろいろ試してみてねぇ? わからないことがあったらぁ、いつでも講師室まで質問にきていいからねぇ~?」
大旋風超音波を撒き散らし、若い女教師は教室を出て行った。
「ふっ……」
俺は真っ白になっていた。
腰かけた椅子に深くもたれかかり、虚ろな目をして天井を見上げる。
「大丈夫かい?」
授業中、隣に座っていた茶髪の男子生徒が心配そうに声をかけてきた。
彼はなぜこんなに平然としていられるんだ……。
他の生徒たちも次々と別の教室へ向かう準備を進めている。
こいつら最強かよ。
「なあ、この授業はいつもあんなサイコ……いや、あんな感じなのか?」
「そうだよ。基礎魔法の授業は普段からこんな感じだよ」
俺がたまらず訊いてみると、男子生徒はあっさりそう答えた。
「それで魔法は覚えられるのか?」
正直、途中から意識を保っているので精一杯だったんだけど……。
「まあ、覚えられる人はすぐに覚えてこの教室を出て行くよ。いつまでも基本を習得できない僕らが落ちこぼれなだけなのさ……」
男子生徒が諦観の入り混じった言葉を吐くと――
「ちょっと、ポーン! 何言ってんのよ! あんな授業で魔法が使えるようになるわけないじゃない! あのクソ女ったら『がんばれぇ?』とか、『次はできるよぅ!』とか、そんなことしか言わないのよ!? 板書はぐちゃぐちゃで見にくいし! あれでどうしろってのよ!」
教室に残っていたツインテールの少女が怒鳴り声を上げた。
「そもそも出てったやつなんて去年は二人しかいなかったじゃない! あいつらはたまたま魔力の使い方のコツを掴めただけで、あの女が何か教えたわけじゃないでしょ!?」
魔力の使い方のコツ……? 彼女は何の話をしているんだ?
「ええと、魔法って呪文を覚えれば使えるようになるんじゃないのか? 一体、何の話をしているんだ?」
俺が言うと、教室の温度がガクっと下がった。
「エルフはそうかもしれないね。だけど人間はそうはいかないんだよ」
「どういうことだ? ここに入学してるなら、魔力はあったんだろ? なんで呪文を覚えてもダメなんだ?」
茶髪の男子生徒……ポーンとか呼ばれていたか? が陰りのある表情で答えた。
「確かに僕らには魔力はあるよ。けど、それをどうやって使えばいいのかわからないんだ。魔力を身体に流して魔法に変換する練習は小さい頃からやらなくちゃいけないらしくてね。そのほうが身につきやすいっていうんだけど……田舎の農村で育ってきた僕らはそんな教育を受けてるわけがない。だから、こうやって基礎魔法の授業で遅れを取り戻そうとしてるんだ」
へえ、人間が魔法を使うには魔力だけではなく、それを使うための訓練も必要だったのか。
知らなかった。
「貴族や金持ちの子供はすでにその訓練を終えた状態で入学してくる。生徒のほとんどは貴族だし、授業のカリキュラムはそいつらに合わせて組まれてるから、僕らみたいに学園でイチから学ぼうとする平民は普通にやってたらついていけないんだ」
ポーン曰く、それについていけるよう指導するのが基礎魔法の授業だった。
しかし――
「実際に授業を担当するのはあんな感じのどうしようもない教師ばかりなんだよ。まともな教師は平民しかとらない授業なんか引き受けないのさ。あの人たちは自分の研究の合間に授業をやってるだけだから」
うわぁ……。
「自分の研究に関係がないうえ、貴族や金持ちと繋がりが持てない基礎魔法なんて時間の無駄としか考えてない。だから基礎魔法に回されるのは新人か、ろくでもない窓際の教師だけ。学園では魔法を基礎から教えてくれるって聞いてたのに実情は大違いだったよ……」
そういやテックアート家でも似たような話を聞いた気がする。
あれは人種差別についてだったか?
まあ、建前と現実が違うってのは一緒だな。
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