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第二章

伯爵と対面4『人間の恐れる基準は理解できんな。』

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 ディオス氏の正体を知るサプライズを経て、話は本筋に戻る。

 ディオス氏は大体のことは前もってレグル嬢から聞かされているようだった。

「そちらのジンジャー君がニッサンの町で救われたというエルフだったね? ニッサンの領主がレグルたちの出発した後で君の助けた元奴隷たちを連れてくるという話だったが……。そうそう、密書は拝見させてもらったよ。まさか王立魔道学園に奴隷商の関係者が混じっているなんてね。あそこの校長の目を逃れるとは、大した潜伏スキルの持ち主だ」

 把握している情報を次々と喋っていくディオス氏。俺はそれに相槌を打ちながら、持って行きたい話題へのフリをする。

「ところで、学園にいる協力者を探し出す手立てはあるんですか?」

 俺が言うと、ディオス氏は腕を組み、

「あそこは内部に独立した権力構造があるから、なかなか踏み込んで調査をするのは難しくてね……。人員を送り込むにも、人事や役員に干渉しなければならないから割と手間がかかる。だが、ニッサンの町での出来事を知られれば手を引かれる可能性もあるからのんびりともしていられない。まったく、悩ましいことだよ」

「なら、俺を学園に入学させてくれないでしょうか? テックアート家は王立魔道学園に顔が利くのでしょう? 俺が潜入して直接探ってきますよ。もちろんずっとじゃなくていい。今回の件が片付くまでの期間限定で構いません」

「え、それは……生徒の編入くらいならできるけど、いいのかい? そこまで君が背負うこともないんだよ?」

 俺の提案にディオス氏は戸惑ったように確認を取ってくる。

 レグル嬢も目を丸くさせていた。

「襲われてるのは俺の仲間たちだぜ? 俺が積極的に前にでるのは当然のことだ。それに学園には話を聞いた時から興味があったんだ。俺って、里では魔法の勉強を疎かにしていたから、ついでにいろいろ学び直したいと思ってさ」

 俺が打算込みだということを伝えると、ディオス氏はしばらく考え込み――

「ふむ……。そういうことなら任せてくれ。手配して、数日中に君を学園の編入生としてねじ込めるように手を回しておこう」

「お、お父様! 本気でグレン様を学園に入れるおつもりですか!? 学園には他種族をよく思わぬ貴族もいるのですよ! 無理を通せば彼らが黙っていません!」

「何を言っている。王立魔道学園は身分や種族に関わらず、能力があれば誰でも魔法を学べる場として門戸が開かれているんだ。やつらが何を言ったところで義はこちらにある。何も問題はない」

 俺の潜入になぜか否定的なレグル嬢を宥めるディオス氏。へえ、やっぱり人間至上主義みたいな連中もいるんだな。ディーゼル君もそんな気があったけど。

「それは建前でしょう!? 実情は違うことはお父様もご存じのはずです! 彼らとグレン様が接触すればきっと大変なことになりますよ!」

 ちらりと俺に視線を送り、レグル嬢は言った。

 おお、俺を心配してくれてるのか……。

 決して俺が問題を起こすとか思ってるわけじゃないよな?



 結局、ディオス氏が何とか言い包めてレグル嬢は折れた。

 最後まで納得していない様子だったが、俺なら何とかうまくやるさ。多分ね?




 一通りの方針を決め終え、俺たちは部屋を出る。

 それぞれの自室に戻るまで軽く雑談を交わし合う。

 そのなかで今日の夕飯は歓迎も含めて豪勢にする予定だと言われた。

 ほう、楽しみだな。

 一応、リクエストを聞かれたので味の濃い、スタミナの付く料理を所望しておいた。

 ディオス氏からはエルフなのに珍しいねと言われた。

 聞かれなかったらエルフ好みの薄い味付けのラインナップが並んでいたのかもしれない。



 廊下をディオス氏らと歩いていると、進行方向側からリュキアがパタパタ走ってきた。

「あ、グレン! やっとみつけたぁー!」

 勢いよく飛び込んできたリュキアを腹で受け止めて、抱き上げる。うーん軽い。中身入ってるのってくらい。

「なっ、この娘は一体……!」

 登場したリュキアを見て、余裕ぶった態度が主だったディオス氏が初めて狼狽を見せた。

「お父様。グレン様のお連れ様の、リュキアさんです。昨日から屋敷にお泊りになっています」

「レ、レグル、大丈夫なのかい?」

「え、ええ……多分、恐らくは?」

「多分!?」

「グレン様のお連れ様なので……。それに今のところは何もありませんし」

 レグル嬢の答えに納得のいってなさそうなディオス氏。

 リュキアはたまに謎な言動をするが、いたって普通の幼女だぞ?

 あまり疑うような態度はやめてほしいな。

「リュキア、お前一体何やってたんだ?」

 俺は抱きかかえたリュキアに訊ねる。

「ちょっとね、ごはんたべてたの。おいしいの、けっこういたからね?」


「「「!?」」」


 リュキアの発言でレグル嬢、エヴァンジェリン、テックアート伯爵の間に戦慄が走った。

 ――ように見えた。

 はあ、彼らも幼女にビビる人たちだったのか。

 人間の恐れる基準は理解できんな。


「摘まみ食いは夕飯食えなくなるぞ」
「だいじょうぶだよ。ほんとうにちょっとだけだから」
「夕飯は豪華らしいから、もう食べんなよ?」
「うん、わかったー」


「……エヴァンジェリン。一応、点呼を取っておいてもらえるかな?」
「かしこまりました」
「もしもがあれば、その者の身辺調査も頼む。ひょっとしたらがあるかもしれない」
「はい、お任せください」

 はっきりと明言することを避けた意味深な会話。

 上流階級特有の腹の探り合いというやつだな。

 俺にもだんだん掴めてきたぞ。

 こういうときは何も知らないふりをして、世間知らずなエルフのフリをして戯れていればあっちで勝手にいいようにやってくれるのだ。

 俺はリュキアを高い高いして、彼らの会話を聞き流すことにした。


 その日の夕飯は予告通りめっちゃ豪華だった。


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