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第二章

謝罪と再会5『ゾフィー』

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「……いろいろ懸念はございますが、不当に奴隷にされていたエルフたちを解放できたのは喜ばしいことです。グレン様には助けてもらってばかりですね」

 難しい会話が終わり、レグル嬢がこちらに向き直る。お互い様だろ? みたいなやり取りをして、今度は雑談に近い近況報告を交わし合う。

「なるほど、ニッサンの領主様は予定より早く着かれるのですね。それはきっとジンジャーさんが喜ぶでしょう」

「そういや、ジンジャーたちもいるんだっけ。どこにいるんだ?」

「ジンジャーさんたちは部屋で休まれていますよ。お食事の前にお会いになりますか? ゾフィーちゃんはグレン様にとても会いたがっていたので、できれば早めにお顔を見せてあげてください」

 レグル嬢に聞きなれない名を出され、俺は『ん?』と首を捻る。

「ゾフィーって誰だ?」

「「えっ?」」

 レグル嬢とエヴァンジェリンが呆気にとられた声を上げた。


――ガタンッ


 そして同時にドアのほうから音が聞こえ、


「おんじ……グレンさま。わたしのことをわすれたのか、わすれてしまったのですか?」


 振り向くと、燕尾服を着た褐色肌の少女が扉に縋りつくような恰好でへたり込んでいた。

 長い耳に黒い髪。

 ニッサンの町で解放した召喚魔法使いのダークエルフ少女だった。

 あの時は伸び放題だった髪の毛もスッキリと散髪され、肩にかかるくらいの長さで綺麗に揃えられていた。

 栄養状態も改善されたのだろう。

 髪の毛や肌にも艶が見られ、パッと見た姿は以前より健康的になっていた。

 だが、顔色はすこぶる暗かった。

 やべぇ。彼女の名前がゾフィーだったのか。

 そういや名前覚えてなかったなぁって。

 後の祭りである。


「……しょせん、わたしなど気まぐれに手をさしのべられただけのそんざい。いつまでもおぼえていてもらえると思っていたのが思いあがりだったのだ、のです……」


 幾分か流暢になっているが、未だ口調はたどたどしい。

 しかし、それよりもネガティブ発言と無理して使っているような敬語が気になる。

 ネガティブ発言は俺のせいだけど。

 落ち込み具合から、盛大にやらかしてしまったっぽい。

 どうしよう、挽回の手立てが見つからん。

「そ、その恰好はどうしたんだ? いやほら、似合ってるなって思ってな?」

 とりあえず服を褒めとけと、執事のような服装をしている事情を訊ねてみた。

 これで誤魔化せれば……。

 項垂れるゾフィーに代わって答えたのはレグル嬢だった。

「彼女はグレン様に恩を返したいと思い、グレン様の従者になるために当家で見習い執事として修業することにしたのですよ。……それなのに」

 よよよ、とわざとらしくハンカチで目元を押さえるレグル嬢。

 くそ、彼女はこういう要所でキレのある狡猾さを見せるんだよなぁ。

 ルドルフの親父さんには貸しを作れたんだろうか?

「(なあ、従者ってどういうことだ?)」

「(お嬢様がグレン殿の傍で報いるなら、従者を務めるのが一番いいと話されてな。ゾフィーも乗り気になってしまったのだ)」

 泣き真似をするレグル嬢では話にならんので、スススとエヴァンジェリンのもとにすり寄ってヒソヒソ声で経緯を訊ね、事情を把握する。

 あの敬語は従者の言葉遣いを意識してのものだったようだ。

 ……勝手にいろいろ決めんなよ。悪意からくるものじゃないにしてもさ。

 とりあえず、今は気落ちしてるゾフィーを慰めよう。


「ゾ、ゾフィー? さっきのはほんの戯れだぞ? 俺がお前のことを忘れるわけないだろ?」

「グ、グレン様……」

「俺の従者になろうとしてるだってな? 頑張れよ、期待してるからな!」

「はうぅ~」

 ホントは従者なんていらないんだけど。

 うるうるの涙目で見られてはそんなこと言えない。



「グレンってそういうところあるよね~」

 ジンジャーが扉の影からニヤニヤと覗いていた。いつの間に来やがった。

 ひょっとして最初から見てたのか?

 趣味の悪い奴め。色んな意味で。




 その後、夕食後には隊長やデリック君たちとも顔を合わせた。

 二人とも元気そうだった。

 こうして俺はニッサンの町で出会った人たち全員と再会を果たしたのだった。


 ルドルフ? 知らんな。

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