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第一章

結末と予兆2『おんじん』

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「おんじん、ごめん……」

 俺のことを『おんじん』と呼んでくるダークエルフ少女。

 まだ完全回復していない、たどたどしい口調に痛ましさを感じる。

「なんで謝るんだ?」

「……もっとおれい……やくに、たちたかった」

「そんな気にすることないぞ」

 ついでに助けたようなもんだし。

 だが、ダークエルフ少女は首を横に振った。

「おんは、かならず。かえす……いっしょう、かけて」

「お、おう? 気長に待ってるよ」

 すごい気迫だ。ちょっと怖い。そこまで思い詰めなくていいんだぞ? 俺がたじろいでいると、御令嬢が挙手をした。

「グレン様、わたくしたちは明日の朝、王都に戻ろうと思っています」

「そうか、それはまた急……でもないか」

 身内の裏切りや実力行使に奴隷商が召喚士のダークエルフを用いてきたこと。

 ジンジャーという奴隷商人の暗躍を証言できる被害者の救出。

 王都にも拠点があるという情報。逃走したダイアンの謎。

 御令嬢たちが持ち帰ることはたくさんあり、どれも緊急性の高いものだ。

 きっと妥当な判断だろう。

「それで、グレン様にもぜひわたくしたちと一緒に来ていただきたいのです」

「俺が一緒に?」

 御令嬢の言葉に俺は首を傾げる。いや、同行すること自体に不満はない。

 だが、わざわざ彼女が申し出てくることが不思議だった。

「正直、わたくしたちは相手を低く見積もっていました。所詮は裏稼業の商人、我がテックアート家の権力と武力をもってすれば容易く捻ることができる相手だと。しかし、ゾフィーちゃんのように捕えたエルフを戦力として投入してくるとなれば話は変わってきます」

 ちなみにゾフィーというのはダークエルフ少女の名前だ。

 この時はそれを理解しないままなんとなく聞き流したのだが、そのせいで後に『それ誰の名前だ?』と訊いて泣かせてしまう失態を犯すことになる。

 それはさておき。

 確かに奴隷商人がエルフ奴隷を戦闘員に仕立て上げているなら、ひとつの貴族家だけで対応するのは心許ない。

 万全を尽くすなら国家レベルで人員を動かす必要があるだろう。だが、そうするまでには時間と根回しが必要になる。

 せっかく尻尾を掴みかけたのに足踏みをして攻めの姿勢が取れないのはもどかしい。

 下手をすれば相手に上手く逃げるために時間を与えることになる。

 御令嬢は手っ取り早く動かせる戦力が欲しいのだろう。

 ゴブリンとオークの群れを蹴散らし、ハイオークを単独で討った俺という駒を。

「現状、隷属させられた奴隷を解放できるのはグレン様だけですし……。どうかわたくしたちに力を貸していただけませんか?」

 俺としても人間の貴族が後ろ盾になってくれれば動きやすくなる。

 敵の拠点があるならどのみち王都に行く必要もある。

 里の仲間を少しでも早く助けやすくなるし、願ってもない申し出だ。

 最初はシルフィが出立する二か月後までニッサンの町に留まっているつもりだったが、よく考えたら当日戻ってくればいいわけだし。

 ということで。

「わかった。俺も王都に行こう」

 俺は王都に行くことを了承した。

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