49 / 126
第一章
結末と予兆2『おんじん』
しおりを挟む「おんじん、ごめん……」
俺のことを『おんじん』と呼んでくるダークエルフ少女。
まだ完全回復していない、たどたどしい口調に痛ましさを感じる。
「なんで謝るんだ?」
「……もっとおれい……やくに、たちたかった」
「そんな気にすることないぞ」
ついでに助けたようなもんだし。
だが、ダークエルフ少女は首を横に振った。
「おんは、かならず。かえす……いっしょう、かけて」
「お、おう? 気長に待ってるよ」
すごい気迫だ。ちょっと怖い。そこまで思い詰めなくていいんだぞ? 俺がたじろいでいると、御令嬢が挙手をした。
「グレン様、わたくしたちは明日の朝、王都に戻ろうと思っています」
「そうか、それはまた急……でもないか」
身内の裏切りや実力行使に奴隷商が召喚士のダークエルフを用いてきたこと。
ジンジャーという奴隷商人の暗躍を証言できる被害者の救出。
王都にも拠点があるという情報。逃走したダイアンの謎。
御令嬢たちが持ち帰ることはたくさんあり、どれも緊急性の高いものだ。
きっと妥当な判断だろう。
「それで、グレン様にもぜひわたくしたちと一緒に来ていただきたいのです」
「俺が一緒に?」
御令嬢の言葉に俺は首を傾げる。いや、同行すること自体に不満はない。
だが、わざわざ彼女が申し出てくることが不思議だった。
「正直、わたくしたちは相手を低く見積もっていました。所詮は裏稼業の商人、我がテックアート家の権力と武力をもってすれば容易く捻ることができる相手だと。しかし、ゾフィーちゃんのように捕えたエルフを戦力として投入してくるとなれば話は変わってきます」
ちなみにゾフィーというのはダークエルフ少女の名前だ。
この時はそれを理解しないままなんとなく聞き流したのだが、そのせいで後に『それ誰の名前だ?』と訊いて泣かせてしまう失態を犯すことになる。
それはさておき。
確かに奴隷商人がエルフ奴隷を戦闘員に仕立て上げているなら、ひとつの貴族家だけで対応するのは心許ない。
万全を尽くすなら国家レベルで人員を動かす必要があるだろう。だが、そうするまでには時間と根回しが必要になる。
せっかく尻尾を掴みかけたのに足踏みをして攻めの姿勢が取れないのはもどかしい。
下手をすれば相手に上手く逃げるために時間を与えることになる。
御令嬢は手っ取り早く動かせる戦力が欲しいのだろう。
ゴブリンとオークの群れを蹴散らし、ハイオークを単独で討った俺という駒を。
「現状、隷属させられた奴隷を解放できるのはグレン様だけですし……。どうかわたくしたちに力を貸していただけませんか?」
俺としても人間の貴族が後ろ盾になってくれれば動きやすくなる。
敵の拠点があるならどのみち王都に行く必要もある。
里の仲間を少しでも早く助けやすくなるし、願ってもない申し出だ。
最初はシルフィが出立する二か月後までニッサンの町に留まっているつもりだったが、よく考えたら当日戻ってくればいいわけだし。
ということで。
「わかった。俺も王都に行こう」
俺は王都に行くことを了承した。
0
お気に入りに追加
242
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
ポリ 外丸
ファンタジー
普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。
海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。
その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。
もう一度もらった命。
啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。
前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる