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第一章

成長と旅立ち 5『お勧めはトラックになることだ。』

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 当初はやけくそ混じりで襲い掛かってきた輩どもだったが、次々俺に跳ね飛ばされる仲間を見て徐々に戦意を失っていき途中からは誰もが逃走を図るようになっていた。

 そんな逃げ惑う輩どもを俺は時速百キロで容赦なく追い回し、一人残らず跳ねて行った。
 その結果がこうして真っ赤に染まった街道だった。



「さて、戦利品というか、何か連中に関するヒントみたいなものはっと……」

 輩どもはエルフを奴隷にするとかしたとか、無視せずにはいられないことを言っていた。俺は情報を探るため輩どもの手荷物を漁ることにした。

「おっ、これは……」

 タイムリーにトマトが何個か出てきた。……一応もらっておくか。今は食べる気しないけど。

 後で腹が減るか喉が渇いたときに頂くとしよう。

「うーん、まずったなぁ」

 馬車の中にある荷物にも目を通してみたものの、この一団の発言を裏付けるものは特に見当たらなかった。

 うっかり全員殺してしまったのはまずかった。一人くらい生かしておくべきだった。

 俺が自らの軽率さを反省していると、

「う、うぅ……」

 トマト畑の中から苦しそうな呻きが聞こえてきた。おお、生き残りがいたのか! 

 俺はそいつを締め上げて情報を吐かせることにした。


―――――


「オレたちは下請けなんだよぉ。ガキのエルフが森から出てくるタイミングになるとこの森の出口付近で網張っとけって奴隷商のやつらに言われるんだ」

「どうしてそいつらはエルフが出てくることがわかるんだ?」

 ヒューヒューと呼吸が怪しい感じになりつつある男の襟首を持ってガクガクと揺さぶる。

「そ、そこまでは詳しく教えてくれない……。だけど確かな情報筋だって話してた。これまで向こうから指定された日にエルフが現れなかったことはねえ……」

 若者エルフが里を出るのはそれぞれの誕生日だ。記念日のように毎年一定なら風習の日程をサーチされて網を張られていただけということで済んだだろう。

 だが、この件はそうではない。年度によって異なる、その年に十五歳を迎えるエルフの誕生日が逐一奴隷商人に漏れているのだ。

 顧客情報の流出? いや、インターネットなんかこの世界にはないし。
 ……里に内通者がいるっていうのはあまり考えたくない話だな。

「お前らは何年前からここで仕事をしているんだ? 今までにどれくらいの人数のエルフを捕まえて奴隷商に引き渡した?」

「ここ十年はもう何人も捕まえて売り飛ばしてる……」

 なんてこった。それじゃあ俺のドライブに付き合ってくれていたあのお姉さんエルフも奴隷として売っ払われた可能性があるってことじゃねえか。

 その他にも狭い里だけあって、知り合いは複数いる。ちょっと考えたくない事態になっているな。

 この数年、帰還率が著しく低下していたのはこうやってならず者どもに攫われていたからだったってことかよ。

 エルフは人と比べて長寿だ。捕まれば人の奴隷よりも長い時間苦しみが続くということになる。これはまずい。すごいまずい。

 俺の手でどうにかなる範囲を超えている。

 だって十年だぞ。その間に里に帰ってきていないエルフの大半が無理やり奴隷になっていると考えたらとてつもない人数になるだろう。

 奴隷として売られたエルフらは恐らく国中に散らばっているはずだ。

 中には不幸にも命を落としてしまった者もいるかもしれない。その全員の行方を今から探し当てるなんてどれほど気の遠くなるような難易度だと思っている。

 今すぐに里に帰って報告をしたいが、出立の前に里の大人たちから総掛かりで道を惑わせる魔法をかけられたため一年が経つまでは帰ることができない。

 戻ろうとしても森の中で方向を見失って里まで行きつけないのだ。

 くそ、厄介な決まり事を作りやがって。俺が大人になったらまずはこのガバガバな決まりを変えるとしよう。

「俺を捕まえたら奴隷商と落ち合うつもりだったんだろ? とりあえずその集合場所を教えろ」

 何にしても問題を看過して暢気に旅をするわけにはいかない。俺の後には同世代のエルフたちが控えているのだ。

 輩どもは潰したとはいえ、所詮は末端。

 また新たな使い走りが雇われてやってくるとも限らない。これ以上の犠牲者を出さないためには本営を叩いておくしかないだろう。

「ぐっ、なんでそこまで話さなきゃ――」

 俺は恐らく折れているだろう輩の肋骨付近をふにふに押した。
 男は悲鳴を上げて脱糞した。

「こ、ここから一番近いニッサンの町ってこと以外は知らねえ……。引き渡しはお頭と幹部だけしか行かないんだっ……! 下っ端なオレは何にも聞かされてねえんだよぉ……」

 先手を取るために頭を最初に潰したのは失敗だったようだ。今後の教訓としておこう。

「頼む……助けてくれ……回復魔法をかけてくれ。エルフならできるだろ?」

 瀕死の輩は救いを求めて俺に手を伸ばす。

「すまん、俺って魔法は面倒くさいから全然呪文を覚えてねえんだよ」
「そ……んな……人で……なし……!」

 俺の言葉を受けた男は悲壮な表情を浮かべ、無念そうに息を引き取った。……いや、意地悪で言ったんじゃなくてマジなんだよ。

 ちょっとした擦り傷を治す初級魔法なら覚えてるんだけど。ここまでズタボロなやつを治せる高位回復は呪文が長くて無理。

「南無三……」

 俺はくたばった輩どもに合掌した。次に生まれ変わるときは真っ当に生きろよ。

 お勧めはトラックになることだ。

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