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第二章
感銘と約束4『ちゃぽーんっ。』
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ちゃぽーんっ。
ニゴー子爵や騎士たちと何回も肉体をぶつけ合った後、俺は泥や汗で汚れただろうということで屋敷の大浴場を使わせてもらっていた。
「ふぃ~動いた後の体に染み渡るのう……」
ニゴー子爵と一緒に――
いや、浴槽はかなり広いから圧迫感とかは全然ないんだけどさ。
下半身の筋肉を鼻息荒くして揉んできた人と生まれたままの姿で二人きりというのはいろんな意味で緊張するものがあった。
「グレン君、今日は来てくれて本当に感謝する。騎士たちも励みになったし、ワシ自身もよい鍛練をさせてもらった」
ジャバジャバと肩や首に湯を当てながらニゴー子爵が何気なく言ってくる。
「いえ、俺も知らなかったトレーニング方法を聞けたりして楽しかったですよ」
何十人と立て続けにモウスさせられたのは少々参ったが、奴隷商人に繋がるかもしれない新しい手掛かりも掴めたし、全体的に有意義な訪問だったのは間違いない。
「うむ、そう言ってくれると助かるわい。君がエルフでなければニゴー家に婿入りしないかと積極的に誘っておったところじゃ!」
「ハハハ……」
ニゴー子爵の言葉を俺は苦笑いで受け流す。
どこまで本気なのかわからないので迂闊なことは言えない
「まあ、そういうことは置いておいてもじゃ。エルーシャとはこれからも仲良くしてやってくれるとありがたい」
ニゴー子爵はフゥ……とらしくない溜息を吐き、
「あれは幼い頃に母親を亡くし、父親ともワケあって長いこと会っておらんくてな。その父親と約束したのだと言って、美味い料理を求めて食べることばかりに執着しておるからちょいと心配なんじゃよ」
「…………」
エルーシャの両親が出てこねえなぁとは思っていたが……。
そんな家庭の事情があったとは。
そういえばテックアート家でもレグル嬢の母親に会ってねえぞ。
ひょっとしたらあっちの家も何かしら訳アリだったりするのか?
まあ、そこの部分に俺が関わることはないと思うけど……。
「あの男とどういう約束をしたのかは知らんが、そろそろ過去に縛られず自由に生きてほしいものなんじゃがな……」
ニゴー子爵はエルーシャが過去に縛られていると言っているが、きっかけがどうであれ、エルーシャの美味いモノを食うことへのこだわりはすでに彼女のものだと思う。
ライフウェイとか言ってたし。
だが、俺はニゴー子爵にその考えを伝えることはしなかった。
俺の運転手を乗せて走ることを追い求める想いも、トラックだったという過去に縛られた自由ではない『好き』なのでは? という疑問が一瞬だけ頭をよぎってしまったからだ。
まあ、そんなことはないよな。
俺はちゃんと俺の意思で走ることが好きなのだ、きっと。
その後、学園での話を色々聞かれたので俺はラルキエリが構想中の筋肉を効率よく鍛える器具のことなどを話した。
すると、
「なんじゃと! あの魔道学園の才媛が筋肉を鍛える器具を!?」
子爵はザバァと勢いよく湯舟から立ち上がって大声で叫んだ。
信じられないくらいデカかった。
後日、ニゴー子爵からラルキエリに研究を援助する申し出があったそうだ。
器具が完成したら真っ先に試用させることを条件に……。
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