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第二章

感銘と約束2『そういう巣窟』

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◇◇◇◇◇



「すごいね、グレンっち!」

 エルーシャが俺のもとにトコトコやってきて称賛の言葉を送ってくる。

「グレンっちのそれ、魔法じゃなかったんだね。びっくりだよ」

「ん? ああ、そうだな……」

 そうなんだけど。

 どうして今回は魔法じゃないって信じてもらえたんだ?

 場合によっちゃ『魔法は禁止って言っただろ!』となるのも覚悟してたんだけど。

 俺が疑問に思っていると、

「真摯に体を鍛えている者同士なら、正面から肉体をぶつけあえば本質はわかるものじゃ」

 ニゴー子爵がオカルト的なことを言い出した。

 なにそれこわい。

「それに試合前に撒いたあの粉には魔法を無効化させる効果があったからのう」

「あ、そっちが本命ですね」

 マジで身体をぶつけあうだけでわかったのかと思っちゃった。

「モウスは肉体の力と技だけで戦う神聖な競技。カウス族はあの粉をドヒョウに撒いて、互いに魔法を使わないことを宣言し、己の鍛え上げた肉体ひとつで戦うことを誓いあうのじゃ」

 なるほど、あれは魔法を使えなくする粉だったのか……。

 …………。

 あっ! それって奴隷商人のやつじゃん!

 エルフを捕まえるときに輩が使ってたり、ニッサンの街の領主にあげたりしてたやつ!

 あとルドルフが俺に使ってきたやつ!

 最初に見たときどっかで見た気がしてたんだよ。

 久々すぎて記憶からですぐでてこなかった。

 なんでニゴー子爵家にコイツがあるんだ……?

「む? この粉か? これはカウス族の長から友好の証に貰ったんじゃよ。モウスという競技を互いに研鑽しあい、切磋琢磨しようと約束してな……」

 過去を振り返り、遠い目をして懐かしむニゴー子爵。

 浸っているところ悪いが、ちょっとそのカウス族のことを教えて頂きたい。

 ひょっとしたらカウス族と奴隷商人は何かしらの接点があるかもしれない。

 そこから奴隷商人の手掛かりが見つけられる可能性も――

「カウス族と会いたいのか? まあ、グレン君ほどモウスが強い男なら彼らも歓迎じゃろ。カウス族は根っからの戦闘民族じゃからな。近いうちに騎士団の数名を連れてモウスを挑みにいくつもりじゃったから、そのときは君もついて来るといい」

 マジで? いいの?

 偶然訪問した友達の実家で新たな手掛かりを掴むことになるとは思わなかったぜ。

 でも、話の感じだと会ったらモウスで戦わないといけなさそうな……。

 ま、それはそのとき考えよう。



◇◇◇◇◇



「ところでじゃが……」

「なんですか?」

 ニゴー子爵、なんだか目が据わっている。

 嫌な予感が……。

「!?」

 瞬きをした瞬間。

 ニゴー子爵は距離を詰めて俺の背後に回っていた。

 すげえスピードだ……。

 いや、足捌きが巧みだったのか?

 まったく追うことができなかった。

 この老人、筋肉だけじゃない。

「フホホホ……」

 背後に回ったニゴー子爵は俺の下半身に手を伸ばしてくる。

 な、なにをするつもりだ!?

 やめろぉ!


 もみもみ。


「これは……素晴らしい筋肉じゃ……」


「…………」


「柔軟性と弾力に優れていて、俊敏性と長時間の走行を維持するためか必要以上の肥大化は抑えられておる……。それでいながらドルジィを凌ぐ力強さも伴っておるとは。どうやったらこのような質感に鍛えることができるのか実に興味深いのう……」


 ニゴー子爵は俺の脚や体幹の筋肉を揉んで撫でて、興奮気味に実況し始めた。

 そうかぁ……ニゴー子爵はこういうタイプで変態だったかぁ……。

 部屋にいた騎士たちもニゴー子爵が俺の筋肉を吟味する様子をチラチラ覗いて来たり、聞き耳を立てたりしている。


「子爵はあのエルフから鍛え方を聞き出せるかな……」

「エルフがあそこまでの力を手にしたレシピはぜひとも知りたいところだ」

「オレも間近で見てえなぁ、触りてぇなぁ」


 ああ、ここはそういう巣窟なのね……。肉体を鍛えることに対してどこまでも貪欲に変態的なまでに精進していく場所。

 エルーシャが暢気に干し肉を取り出して食べ始めた辺り、ニゴー家の屋敷はコレが通常運転の世界なのだろう。



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