114 / 126
第二章
子爵家と民族競技4『民族競技』
しおりを挟む「セイ! セイ! セイッ!」
「フンッ! フンッ! フンッ!」
「フシュッ! フシュッ! シュッ!」
円の周辺では、外で剣を振っていた騎士たちよりもさらに輪をかけて体格のいい騎士たちが上半身裸で汗を流していた。
彼らは靴を履かず、裸足の状態で膝を真横に開いて足を高く上げ下げしたり、低い姿勢を取ったまま足の裏を地面から離さないで擦りながら歩く動作を繰り返し行なっている。
あれも何かのトレーニングなのか……?
後で機会があれば訊いてみよう。
しかし、この部屋にいる騎士たちは太さがヤバいな。
筋肉だけでなく脂肪もたっぷり身体に纏っているため全身の威圧感が半端ない。
「ここは牛の獣人、カウス族に伝わる民族競技『モウス』を行なうために拵えた建物でな? あそこにある円の部分をドヒョウと言うんじゃ」
ニゴー子爵が俺に広間の説明を行なってくる。
モウス……ドヒョウ……?
よくわからんが、ここが何かの競技場であるという予想は当たっていたらしい。
なぜこんなものを見せられているのか理解しないまま、俺は続けてモウスとやらのルールや戦い方を説明された。
『突く・殴る・蹴る』の三つが禁止。
足の裏以外が地面に着くか、足がドヒョウの円の外に出たら負け。
攻撃手段は――ふむふむ。
へえ……。
聞く限りでは体重があるほど有利そうだ。
ここにいる者たちが巨漢揃いなのもそういうことだからだろう。
てか、前の世界で似たような競技があったような……?
なんつったっけ。名前の響きもそっくりだったはずだけど。
す、すも……もぉ?
忘れた。
「すまんが誰か……いや、ドルジィ、お前が相手をしてやってくれんか? 稽古ではなく真剣勝負のつもりで頼む」
「自分っスか? 本気でやっていいんスか?」
のっしのっし。
ニゴー子爵に呼ばれ、広間で鍛えていた中で一番大きな体躯の騎士がこちらに来る。
え? 相手ってなに? 真剣勝負ってなに?
「グレン君、先ほど言った通りじゃ。ワシは君が魔法ではなく、その肉体で戦っている本気のところを見たいんじゃ。ウチの騎士とモウスを一本とってはくれんか?」
ウルウルした瞳で頼み込んでくる眼帯爺さん。
ニゴー子爵はこれがやらせたくて俺を呼んだってことかな……。
どんだけ戦いが好きなんだ。
「グレンっちモウスやるの? 無理に付き合わなくていいんだよ?」
エルーシャが何気に気遣ってくれるが、老い先短いだろう人間の老人の願いだ。
減るものでもないし一発やってやるさ。
まあ、トラックと人間で押し合いなら俺の勝ちだろうけど。
荷台を貸してやるくらいのつもりでやってやるぜ。
「フッ、いきなりドルジィとはハードだな」
いつの間にか隣にいた騎士が馴れ馴れしく話しかけてきた。
誰だ? と思ったらアレだ。
前にエルーシャの護衛をやってたジェロムって騎士だわ。
お久しぶりっすね。
0
お気に入りに追加
242
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
司書ですが、何か?
みつまめ つぼみ
ファンタジー
16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。
ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。
異世界転移で生産と魔法チートで誰にも縛られず自由に暮らします!
本条蒼依
ファンタジー
主人公 山道賢治(やまみちけんじ)の通う学校で虐めが横行
そのいじめを止めようと口を出した瞬間反対に殴られ、後頭部を打ち
死亡。そして地球の女神に呼ばれもう一つの地球(ガイアース)剣と魔法の世界
異世界転移し異世界で自由に楽しく生きる物語。
ゆっくり楽しんで書いていけるといいなあとおもっています。
更新はとりあえず毎日PM8時で月曜日に時々休暇とさせてもおうと思っています。
星マークがついている話はエッチな話になっているので苦手な方は注意してくださいね。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました
ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。
そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった……
失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。
その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。
※小説家になろうにも投稿しています。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる