上 下
62 / 69

第59話『お前は最高だよぉ!』

しおりを挟む





◇◇◇◇◇


 鳥谷先輩に今日は用事が入ったので行けなくなったという旨を連絡し、俺は月光たちと河川敷にやってきていた。

 学校こそ試験後の休みであるが、平日の今日はそこまで河川敷に人はいなかった。

「始める前に一つ訊いておきたい。お前、結城優紗に何をした? 事と次第によっちゃあ、俺はお前を許さないことになるぞ」

「結城優紗? ああ、あの子とならタイマンしてオレが勝った。そんだけだぜ?」

「それだけじゃねえだろ。あいつは酷い辱めを受けたって言っていたぞ」

「ん……? さあな? 何を屈辱に感じるかは人それぞれだからなぁ? オレには何のことだか皆目見当つかねえよ」

 月光はすっとぼけた返事をしてくる。
 シラを切るつもりか……。
 まあ、最初から素直に白状するわけはないよな。

「俺が勝ったら正直に話してもらうぞ」

「だからいちいち覚えてねえよバカヤローが。くだらねえことはいいからさっさとやろうぜ」

 月光が構えを取った。
 …………。
 とりあえず初手。

 不良対策の雷魔法で沈めてやる。
 初手というか恐らく王手になるだろうけど……。
 今日はちょっと強めに――


 バチチチッ。


「おっと!」


 ザシュッ。


 月光は俺が雷魔法を放った瞬間、その場から飛び退いて回避した。


「は? 避けた……?」

「へえ、避けたって言い方をするってことはやっぱ何かをしようとしてたってことだな? お前、気功でも使えたりするのか?」


 俺の反応を見て、ニヤリと笑う月光。
 しくじったな、ムダな情報を与えてしまった。


「とあっ! ふっ! はっ!」


 その後、いくら俺が魔法を放っても月光は驚くべき反射神経で回避し続けた。
 俺の魔法の展開速度は生身で避け続けられるほど遅くないと思うんだが……。
 というか、魔力を持たない人間には発動の予兆すら感じることができないはずだ。

 なのに、こいつは正確に読み取っているかのように立ち回っている。


「お前、なんで何度も避けられるんだよ!」

「勘だ!」

 横っ跳びでまたもや免れながら月光は言う。

「勘でどうにかなるわけないだろ!」

「じゃあ気合いだ!」

 人がマジメに訊いてるのに勘とか気合いとか適当なことばっか言いやがって。
 なんて不誠実なヤローだ!

「そろそろ飽きたぜ! 同じことばっかしてんじゃねえよ!」

 電撃を掻い潜って俺の懐に飛び込んできた月光は俺の顔面に一発、ストレートな拳をぶち入れてきた。

 血管の浮き出た太い腕をギチギチに膨れさせて繰り出すパンチは普通の人間が食らったらそりゃもうやばいことになっていただろう。

 まあ、俺は痛くないけどね。

「は? どうなってんだお前……」

 月光は拳を叩き込まれてもまるで堪えていない俺を見ると、殴った自分の右手と交互に眺めて呆気に取られた表情になる。

「四天王で最強かなんか知らないが、蚊が止まったくらいにしか感じなかったぜ?」

 トントンと、俺は彼に殴られた頬を指先で叩く。

「ハッ! そんならこれでどうだぁ! オラオラオラオラオラ!」

 左右の拳で交互にボコボコと殴打ラッシュが始まった。
 月光は大したスタミナを持っているようで、それは何度も何度も何度も何分も続いた。
 これはひょっとして俺が泣くまで殴るのをやめないヤツかもしれない。

「はあっはあっ……じゃあ、こいつでどうよッ!」

 月光は円盤投げのように大きく背を向けて振りかぶり――

「うらあぁっ!」

 アッパーカットに近い要領で俺の腹部に拳を叩き込んできた。


 ドムッ!


 これもまったく痛くはな……。
 んんっ……!?

 月光の放ってきたアッパーによる衝撃で、俺の両足はふわっと地面を離れて浮いた。


「おっとっと……」


 後方に飛ばされるような形になった俺はバランスを取るために両手を広げてステップを踏む。

 嘘だろ?

 俺が人間のパワーに押し込まれただと……。

 いや、ダメージとかはまったくないけど。


「くそ、今のはちょっといい感覚が掴めたと思ったんだが……ククク……まったく平気ってツラをしてるじゃねえか……」


 月光は口角を吊り上げながらブツブツと呟いている。そして――


「オレが全力で殴っても全然効いてねえ! 最高だ! お前は最高だよぉ!」


 恍惚とした笑顔を浮かべて叫び出した。
 この人、自分の攻撃が通じてないのになんでめちゃくちゃ嬉しそうなの……。
 きも……。

「驚きましたね……雷鳳の全力がまったく及ばないなんて……」

「信じられないナリ」

 観衆と化していた茶髪眼鏡とバンダナゴリラが第三者視点の感想を述べている。
 おい、そのナリってヤツはなんだ? 
 聞き間違えか……?



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛
ファンタジー
~キャッチコピー~ クソ憎っくき糞ゴブリンのくそスキル【性欲常態化】! なんとかならん? は? スライムのコレも糞だったかよ!? ってお話……。 ~あらすじ~ 『いいかい? アンタには【スキル】が無いから、五歳で出ていってもらうよ』 生まれてすぐに捨てられた少年は、五歳で孤児院を追い出されて路上で物乞いをせざるをえなかった。 少年は、親からも孤児院からも名前を付けてもらえなかった。 その後、裏組織に引き込まれ粗末な寝床と僅かな食べ物を与えられるが、組織の奴隷のような生活を送ることになる。 そこで出会ったのは、少年よりも年下の男の子マリク。マリクは少年の世界に“色”を付けてくれた。そして、名前も『レオ』と名付けてくれた。 『銅貨やスキル、お恵みください』 レオとマリクはスキルの無いもの同士、兄弟のように助け合って、これまでと同じように道端で物乞いをさせられたり、組織の仕事の後始末もさせられたりの地獄のような生活を耐え抜く。 そんな中、とある出来事によって、マリクの過去と秘密が明らかになる。 レオはそんなマリクのことを何が何でも守ると誓うが、大きな事件が二人を襲うことに。 マリクが組織のボスの手に掛かりそうになったのだ。 なんとしてでもマリクを守りたいレオは、ボスやその手下どもにやられてしまうが、禁忌とされる行為によってその場を切り抜け、ボスを倒してマリクを救った。 魔物のスキルを取り込んだのだった! そして組織を壊滅させたレオは、マリクを連れて町に行き、冒険者になることにする。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

処理中です...