上 下
45 / 69

第45話『そんな抗争』

しおりを挟む






 現場から少しでも遠ざかるために俺は早足で歩く。

 あそこにいたら手は出していなくても厄介なことになるのは確定してるからな。

「おい待てよ!」

 …………。
 花園一派の不良たちが後ろをついてきていた。
 ちっ、ついてくんなって……。

 こいつらにも電撃を浴びせておくべきだったか?

 追いかけられていたやつらと同じ場所で身動きが取れなくなったら可哀想かと思って何もしなかったけど、それは失敗だったかもしれん。

「聞いてんのか!」

「無視すんなよ!」

「おい!」

 しつこいな……。

 仕方ないので俺は振り返る。

「なんだよ、礼ならいらないぜ?」

 俺は不良三人組に言った。
 ちなみに『礼ならいらないぜ?』は一生で一回は言ってみたかった台詞のひとつだ。
 せっかくの機会だから言ってみた。

「くっ……確かにさっきのは助かったけどよ……」

 なんだか歯の奥にものが詰まったような言い方である。

 はっきりありがとうって言えばいいのに。

「つーかよ、元はといえばお前のせいでこんなことになってんだぞ!」

「そうだ! むしろ責任取れよ!」

「花園さんがいればあんなやつらから逃げる必要もなかったんだ!」

 ええ……?
 なんなのこいつら……。
 というか責任取れってさぁ。

 それ、この間も言われて厄介なことになったばかりのやつなんですけど。
 嫌な予感がする。

「俺のせいってどういうこと? 心当たりが全然ないんだけど」

 俺が訊ねると、

「お前、こんなことになってるってのに……。ふん、まあいいだろう。教えてやる。すべてはお前が花園さんを病院送りにしたところから始まったのさ……」

 巨漢デブが語り始めた。
 どこか感傷的な口調なのが少しシャクに障る。
 こう、古強者が過去の戦いの歴史を語るような雰囲気出してるのがなんかね?




「馬飼四天王はこの辺りじゃ最強の代名詞だった……。それはお前も知ってるよな? けど、花園さんが一年生のお前に倒されたことでその威光にヒビが入っちまった。これまで絶対的と思われていた四天王が無名の新入生に負けた事実は他校の連中に隙を見せる形になったんだ」

「ふーん?」

 それでこいつらは今までのお礼参りで追われてたわけ?
 幅を効かせていた強者が落ちぶれて狩られる側になる。
 正直、自業自得なのではないかという感想が……。

「しかも新庄怜央、お前、どうやったのか鳥谷だけじゃなく風魔まで誑かしやがっただろ?」

「誑かす?」

 何のことを言っているのやら。

「あの堅物の風魔が校舎でお前を見かけると積極的に話しかけに行くじゃねえか」

 あれは俺が魔の者の性へk……性質を取り戻していないか確認しにきているだけなんだが。

 いろいろと誤解を生んでいるようだ。

「女子の四天王とは目立った争いもせず懐柔したってんで、他校から見たお前は女の扱いが上手いタラシということになってる。おかげで花園さんは軟派な一年にしてやられた情けないヤツ扱いよ……」

「鳥谷と風魔も四天王なんて言われてたけど、結局は女だったとかなんとか言われて実力を疑われ始めてんだ」

「お前の外での評判は狡猾に要領よく花園さんを病院送りにした女タラシの一年坊主。そんなお前に制圧された馬飼学園の四天王はメッキが剥がれたって見くびられちまったのよ」

 鳥谷先輩は最初から友好的だったが、あくまで戦力として俺を引き入れたにすぎない。
 風魔先輩との戦いは人払いがされていたから目撃者がいないだけ。
 なのにそんな捉え方をされているなんて……。

 さっきのやつらが言っていたタラシ野郎とはそういうことか。

月光つきみつの野郎もなんでか学校に来ねえから、お前にビビって逃げたってコトになってるし」

 月光っていうのは四天王で俺がまだ会ってない最後の一人のことか?

 そういや有名人のはずなのに校内でそれっぽい人物を一度も見かけた覚えがない。

 なるほど。
 そもそも学校自体に来てなかったんだな。
 何で来てないんだろう?

 まさか本当に俺にビビってるわけじゃあるまいし。

「お前だって他人事じゃねえはずだぜ? なにせ、オレたちが全滅したら次は鳥谷の派閥が狙われるはずだからな」

 どこか自分には関係ないと思って聞いていた俺の内心を悟ったのか、巨漢デブが釘を刺すように言ってきた。

 なんだと? 鳥谷先輩が狙われる……?

 それは看過できないことである。

「当たり前だろ? お前が掻き回したせいで舐められたのは花園さんだけじゃねえんだ。馬飼学園の四天王そのものが大したことないって思われちまったんだからな!」

 他校の不良たちがターゲットにしているのは花園一派だけではないらしい。

 手始めにボス不在の花園一派から崩されているというだけで、馬飼学園の四天王すべてが対象になっているそうだ。鳥谷先輩や風魔先輩にも刺客が送られるのは時間の問題だろうと……。まさか花園を病院送りにしたことがそんな余波を生み出しているとは思わなかった。

「花園さんが入院中で、鳥谷と風魔は侮られて。月光も消息不明の今が馬飼学園を落とす好機と見たんだろう。やつらはここぞとばかりに動き出したんだ」

 花園一派もボス不在のなかで抵抗を続けていたが、少しずつ数が削られていき、今ではこの三人だけになってしまったらしい。

 俺が高校生活を送ってる裏でそんな抗争が繰り広げられていたのか……。
 数十分前まで期末テストが近いから勉強しなきゃとか考えてたのに。
 世界観の落差が激しい。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

全マシ。チートを貰った俺の領地経営勇者伝 -いつかはもふもふの国-

のみかん
ファンタジー
地球にいる四人の男女が神から勇者に選ばれた。 勇者たちはそれぞれチートを貰い、異世界に行って魔王を倒すことを命じられる。 ある者は剣の才能を、ある者は弓の才能を、ある者は聖女の力を。 そして猫をもふもふすることが生き甲斐な25歳の男、広岡二郎(ひろおか じろう)は全てのスキルが盛り込まれた【全マシ。】チートを手に入れた。 チートのおかげで魔王は楽勝だけど、もふもふが摂取できないのは大問題だ。 もふもふがない? だったら手に入れるまでよ! 開き直った最強チートで無双。異世界を舐め腐って荒稼ぎ。そういう感じで生きていく。 転移した主人公が自重せずに魔王と戦ったり、辺境の領地を発展させたり、猫を大きく育てていったりする物語です。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

Rich&Lich ~不死の王になれなかった僕は『英霊使役』と『金運』でスローライフを満喫する~

八神 凪
ファンタジー
 僕は残念ながら十六歳という若さでこの世を去ることになった。  もともと小さいころから身体が弱かったので入院していることが多く、その延長で負担がかかった心臓病の手術に耐えられなかったから仕方ない。  両親は酷く悲しんでくれたし、愛されている自覚もあった。  後は弟にその愛情を全部注いでくれたらと、思う。  この話はここで終わり。僕の人生に幕が下りただけ……そう思っていたんだけど――  『抽選の結果あなたを別世界へ移送します♪』  ――ゆるふわ系の女神と名乗る女性によりどうやら僕はラノベやアニメでよくある異世界転生をすることになるらしい。    今度の人生は簡単に死なない身体が欲しいと僕はひとつだけ叶えてくれる願いを決める。  「僕をリッチにして欲しい」  『はあい、わかりましたぁ♪』  そして僕は異世界へ降り立つのだった――

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...