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第35話『江入杏南の様子』
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その日の放課後は部室に行く前に丸出さんから集合がかかっていた。
呼び出された場所は人通りの少ない裏庭。
集まっているのは俺と丸出さんと結城優紗の三人。
一体何の用件だろう。
この三人だけで話すこととは?
一年生という括りなら江入さんだけハブかれてるし。
「実は皆に相談したいのは江入さんのことなの」
丸出さんは神妙な表情で俺たちに言った。
「前から思ってたんだけど、近頃の江入さんは様子がおかしいわよね?」
「ああ、そのことね……」
丸出さんの言葉に頷く結城優紗。
彼女には思い当たるフシがあるようだ。
だが――
「そんなに前と違ってるかな……」
そこまで江入さんを注視していなかった俺はピンとこなかった。
俺に喧嘩を吹っ掛けて敗北してからは大人しく高校生をしてるだけに見えるけど。
「全然違うわよ! 前まではちゃんと手入れされたサラサラの髪だったのに今は寝癖をつけたまま登校してくるしボサボサで艶もなくなってるし! あと、制服のブラウスもしっかりアイロンかけて糊付けまでしてあったのが皺だらけで……」
結城優紗が変更ポイントをグチグチ言ってくる。
そんなにいろいろ違うのか……。
そうやって例を具体的に出されると、気づかなかった俺が節穴みたいな感じになってくる。
丸出さんも俺にジト目を向けてきていた。
結城優紗はともかく、丸出さんからこういう視線を頂くのはつらい。
「極めつけは中間テストの結果ね。入学直後の実力テストでは学年で一桁台だったのに今回は全科目赤点だったらしいのよ。ありえない下がり方でしょう? 授業中に当てられても答えられなくなってたし。生徒指導室にも呼び出されていたわ」
結城優紗曰く、体育の授業でも入学時から見せていた万能の運動神経が見る影もないという。
足の速さなどの身体能力は変わりないらしいが。
「それとわたしからも一つ。ここ数週間、江入さんと対局をしても以前のようなAIじみた正確無比な指し回しじゃなくなってるのよ。弱くなったとか調子が悪いとかの次元じゃなくて、本当に別人みたいに将棋が変わってしまっているというか……」
丸出さんは部活の将棋部分を司る立場ならではの視点で違和感を伝えてくる。
二人してそんなに異変を感じているのか。
俺は深く関わりたくない一心だったからよく見えていなかったのかもしれない。
「もしかして家出とかをしてるんじゃないかって思ってるんだけど……」
丸出さんが僅かに声を震えさせて言う。
家出ねえ……。
確かに年頃の少女が家に戻らずフラフラしていると考えたら心配もするだろう。
それが同じ部活のメンバーなら余計に。
けど、江入さんは普通の女の子じゃないからなぁ……。
彼女は宇宙なんとか帝国から地球を調査しにきた宇宙人なのだ。
いざとなればあの鎧とかを着て身を守るだろう。
あれ? 家といえば、江入さんって普段どこで暮らしてるんだ?
地球に潜伏するにあたっていろいろ偽装してるとは思うんだけど。
てか、地球に残っているということはまだ侵略を諦めていないのかな?
まあとにかく、江入さんの生活態度やパーソナリティが別人のようになってしまって、丸出さんたちはそれが気になっているということか。
「なあ、江入さんがおかしくなったのはどれくらい前からなんだ?」
「大体、三週間とか……一ヶ月くらい前かな?」
「あたしも教室でおかしいって感じたのはそれくらいね」
丸出さんと結城優紗の意見が一致しているということは概ね正しい時期なのだろう。
ん? 三週間から一ヶ月前? あれ? 確かその辺で……。
俺は何となく嫌な予感がした。
「家の事情かもしれないから強く踏み込むべきじゃないとは思うんだけどね……。もし訊いてみて話してくれるようならなるべく力になってあげたいの」
俺たちは部室に入って江入さんと話すことにした。
江入さんは部室の椅子に腰掛けて読書に勤しんでいた。
入部当初からいつも見ている姿である。
だが、言われてみればかつての彼女より髪質が悪くなっていて制服もヨレていた。
ついでに読んでる本が前よりエンタメ系寄りになっている。
部室には他に酒井先輩がいて、サンドバッグを一心不乱に殴りつけていた。
鳥谷先輩は来ていない模様。
鳥谷先輩はフリーダムだから来たりこなかったりなんだよな。
丸出さんが先程の懸念を江入さんに問う。
すると、江入さんはパタリと本を閉じて一言。
「彼だけなら話す」
俺を見て静かにそう告げた。
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