上 下
31 / 69

第31話『対魔人』

しおりを挟む



「本当は一人でいるところを狙いたかったが、人通りの少ない場所はこの先にはないのでな」

 風魔先輩は俺たちに歩み寄りながら不穏な発言をする。
 狙うって何!? またストーカーなの!? 
 都会ってストーカー多いね!

「風魔先輩? どういうことなんですか? こいつに何か用なんですか?」

 結城優紗が訝しむように訊ねた。

「なに、大した用事ではないさ。ただ、そこにいる魔の者を滅却しようと思ってな」

「滅却……? え、待って下さい、こいつはそのアレな存在ではありますけど……消さなきゃいけないような悪いやつじゃないですよ!」

 おお、結城優紗が俺を擁護している。
 これは本格的に和睦が成立したと見てよさそうだ。
 平和な学園生活に一歩近づいた達成感で心がぴょんぴょんする。

「ふむ……彼を庇うということは、君は魔の者に魅入られてしまったのだな? ちょうどいい、ここで一緒に魔の瘴気を祓って救い出してやろう」

 一方、新たなストーカーである風魔先輩は会話が通じていない。
 結城優紗の説得が逆効果となって余計に使命感が刺激されてしまった様子。
 というかさ、なんなの。

 その恐らく俺のことを言っているであろうそれは。

「マの者ってなんですか?」

「とぼけるな!」

 ふえん、一喝された。
 理不尽だ。

「貴様は魔の気配を随分と巧妙に隠していたようだが……私にはわかるのだ! 貴様の肌に触れた瞬間、全身が震えるようなおぞましい力の波動を感じたのだ!」

 力の波動?
 それって結城優紗が俺を見つけた魔力の波形ってやつか?
 じゃあ、この人も勇者なのか?

「風魔先輩、こいつの魔力がわかるって先輩も勇者だったんですか?」

 俺が抱いた疑問を結城優紗も感じたらしい。

 先んじて訊いてくれた。

「勇者? 何の話だ? 私は対魔の力を受け継いだ古の一族……対魔人たいまにんだ!」

「た、対魔人だって!?」

 俺は大声を上げて後ずさる。
 そんな……勇者じゃなくて対魔人だなんて!

「あんた、知ってるの?」

「いや、知らないけど」

「紛らわしいわね!」

 だって、驚く場面かなって。そういう空気読むところかもしれないなって思って。

「白々しい! 魔の者ならば我らを知らぬはずがあるまい! 何百年にも渡って互いに殺し合ってきた宿命の敵同士なのだから!」

 その対魔人? とかいうのが先輩の虚言や妄想じゃなかったとして。
 俺は別に魔の者ではない。
 だからそんな宿命は知らぬのだ。

「先輩は俺が魔の者だって確実に言えるんですか? 魔の者に会ったことがあって、それと俺が同じだって間違いなく言えるんですか?」

「ふむ、確かに近年は魔の者もすっかり衰退し、実際に私が魔の者を見たのは随分と昔に一度きりしかないが――」

 ほらやっぱり。
 不確かな記憶しかないんじゃないか! 
 それでは俺がそうだと言い切れるわけがない。

「先程も言っただろう? 私は貴様に触れて力を感じたのだ。あの禍々しい力の波動は魔の者以外あり得ない」

 恐らく、風魔先輩は魔力やそれに類似する力を察知する能力があるのだろう。

 だから俺に流れる魔族の魔力を感知することができた。

 けど、風魔先輩が魔の者とかいうやつらに会ったのは一度だけらしいから、きっと魔族の魔力とそいつらの力の区別がつかなくて間違えているに違いない。

「我らは魔の者を祓い、人々を守ることが使命の一族だ。邪なる力を持つ者よ、観念して対魔の力で浄化されるがいい」

 勘違いをどうやって正そうかと思いつつ。
 現代日本にもこういう人たちいたんだなぁ……と俺は少し感動していた。
 要するに風魔先輩って陰陽師とかエクソシストとか、そういう系統の人だよね?

 宇宙人も実在したし、空想の産物もあながちバカにできないな。

 心霊特集って嘘っぽくて下らないと思ってたけど、本物がいるならこれからはもっと楽しく見れそうな気がする。

「奥義を習得してからは一回も会えたことがなかったからな……。これでようやく修行の成果を発揮することができる」

「…………」

 風魔先輩は喜色に満ちた表情を浮かべていた。

 あれ? この人、自分の力を試したいだけでは?


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

全マシ。チートを貰った俺の領地経営勇者伝 -いつかはもふもふの国-

のみかん
ファンタジー
地球にいる四人の男女が神から勇者に選ばれた。 勇者たちはそれぞれチートを貰い、異世界に行って魔王を倒すことを命じられる。 ある者は剣の才能を、ある者は弓の才能を、ある者は聖女の力を。 そして猫をもふもふすることが生き甲斐な25歳の男、広岡二郎(ひろおか じろう)は全てのスキルが盛り込まれた【全マシ。】チートを手に入れた。 チートのおかげで魔王は楽勝だけど、もふもふが摂取できないのは大問題だ。 もふもふがない? だったら手に入れるまでよ! 開き直った最強チートで無双。異世界を舐め腐って荒稼ぎ。そういう感じで生きていく。 転移した主人公が自重せずに魔王と戦ったり、辺境の領地を発展させたり、猫を大きく育てていったりする物語です。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...