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第30話『ビビってるわけじゃないぞ!』

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「あの人、なんだったんだ……?」

 許さんぞ宣言をされた俺は困惑していた。
 四天王の一人みたいなことを言ってたのに。
 風紀がどうこう抜かしおった。

「あいつは風魔凪子って言ってさー。わたしの一個上なんだけど、会うたびに制服をちゃんと着ろとか騒ぐなとか、ガミガミうるさいんだよなー」

 鳥谷先輩が口を尖らせてブーブー言う。

 先生によく叱られてる小学生みたいだった。

「へえ、さっきの人が風魔先輩なんだ」

 知っているのか、結城優紗。

「鳥谷先輩と同じ、花鳥風月の三年生よ。四天王に入れられてるけど優等生で、あの人とあの人の率いる風紀委員のおかげでガラの悪い連中の抑止力になってるって聞いたわ」

 風魔凪子が目を光らせるようになってから、校内では素行不良な生徒たちによるカツアゲや暴力行為がめっきり数を減らしたらしい。

 へえ、四天王って不良ばかりじゃなかったんだな……。

「風魔のやつ、実家が道場かなんかでさ。剣道やら合気道やらやっててすげー強いんだ。まあ、いつかケチョンケチョンにしてやるつもりなんだけど!」

 ビビってるわけじゃないぞ! と強調して付け足す鳥谷先輩。

「…………」

「お、おい、なんだその目は! ホントに、全然ビビってないんだぞ……!」

 なるほど。

 確かに風魔凪子は抑止力になっているようだった。




 その後、結城優紗をなんやかんや部室に連行することに成功。

「結城さん! よかった! 全然顔を見せないからもう来てくれないのかと!」

「ううん、違うのー! ごめんねー! これからはちゃんと来るからー!」

 丸出さんに歓迎された結城優紗は高い声音できゃいきゃいと空々しいセリフをのたまい、そのまま部室の空気に溶け込んでいった。

 あれだけゴネてたのが嘘みたいな転身。
 朝、仕事行くの怠いなーと思ってても会社に行けば案外どうにかなるのと同じ理屈なのかな。
 会社勤めしたことないけど。




 夕刻。
 最後に残った江入さんに部室の戸締まりを任せて俺は下校していた。
 結城優紗と一緒に……。

 不運にも、俺と結城優紗は帰り道が同じ方向だったのである。

「部室にパワーラックがあるのはいいわね! ジムに通うお金が節約できて助かっちゃう!」

「…………」

 どうやら結城優紗も筋トレの民だったらしい。
 隣を歩きながら若干興奮気味に語っている。

「お前なぁ」

「どうしたの?」

 あれだけ突っかかってきてたのに今のコレは何なの?
 そう言おうと思ったが……。
 普通に同級生やれてるなら変に指摘してヤブヘビを突く必要ないか。

「何でもない」

 俺は楽な方に流れることにした。
 でも、鳥谷先輩、酒井先輩と三人で共通の趣味に意気投合してたのは少し羨ましかった。
 誰よりもパワーがあるがゆえ、筋トレの会話に入れない悲しみ……。

 これが強者の孤独ッ!

 俺が浸っていると結城優紗が口を開いた。

「それより、今日は助かったわ。あんたや鳥谷先輩が一緒に来てくれたおかげでだいぶ部室に溶け込みやすかったし」

「そうか?」

 こいつだけでも十分に馴染んで行けそうなコミュ力だったと思うけど。

 まあ、恩を感じてくれてるならそれだけ大人しくなりそうだしそういうことにしておこう。

「あのさ……」

「なんだ?」

「魔王だったあんたが勇者を元の世界に帰れるようにしてたって話。正直、聞いたときは意味がわからなかったんだけどさ」

「おう……?」

「あたし、こっちの世界でもあんたを討伐しようとして襲いかかったじゃない? それなのにあたしが頼んだら部室まで一緒に付き合ってくれてさ。こうやって何事もなかったように同級生として接してくれたりもして……なんか、そういうあんたなら勇者たちにお節介焼いてもおかしくないなって納得できちゃった」

 結城優紗が妙に好意的な笑みを向けてくる……。

 こいつ、何か変なモン食ったの?

「王子や姫があたしを騙してたとは思いたくないけど、あんたが勇者を殺さず元の世界に帰してあげそうなやつだってことは話してみてよくわかったのよ」

 召喚魔法の解除は暇潰しでやってただけなんだけどね……。
 同級生として接しているのは同じ部にいる以上、他にどうしようもないからだ。
 しかし、結城優紗は俺の人間性を随分と上方修正したらしい。

 俺に送られてくる視線が相当に柔らかなものに変貌している。
 いや、どうしてそうなった……。
 本人に抵抗されながらも部室に連れて行くという当初の頼みを根気強く遂行したから?

 迷惑かけても世話を焼いてくれる面倒見のいいやつみたいな評価をされたのだろうか。

「ところで、あんた転生したって言ってたわよね? じゃあ向こうで死んだってことでしょ? 誰かに討伐されて死んだの? なんていうか、あんたに勝てる勇者がいるって全然想像できないんだけど。もしかして寿命だったとか?」

 話は変わり、結城優紗は俺の転生について訊ねてくる。

「あーそれな。俺、実は前世でいつ死んだか覚えてないんだよ。入学式の前日にそういや魔王だったなーって思い出しただけで」

「え? 自分の最期を覚えてないってこと? そんなことある……?」

 そう言われても。
 覚えてないものは覚えてないのだからしゃーない。

「寝込みを襲われたとか? でも、それなら最後に寝たとこまでは覚えてるはずよね?」

「まあ、転生ってそういうもんじゃないの? そう都合よく全部は引き継げないって」

「自分の死に際のことなのにえらく他人事ね……」

 結城優紗が呆れたように言った。
 そうは言っても俺のなかでは終わったことだからなぁ。
 少なくとも、俺の中ではそれで片付いている。

 こうやって違う世界で生きているのに前世の記憶がそこまで重要とは思えない。

「あんたがいいならもう突っ込まないけど……」

「ようやく来たな、新庄怜央よ」

「ん?」

 チカチカッと点灯し始めた街灯の下から何者かが姿を現した。

「あんたは……」

 俺たちの前に出てきたのは黒髪ポニーテールの美少女。

 風紀委員にして四天王の風魔凪子先輩だった。




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