上 下
16 / 69

第16話『結城優紗』

しおりを挟む




◇◇◇◇◇


 将棋ボクシング文芸部を見学に行った次の日。
 俺は今日も教室で星屑ロンリーぼっちネスだった。
 丸出さんは遠くから俺を心配そうに窺っているが話しかけてくることはない。

 彼女には教室では俺と関わってこないようにと言い含めてあるのだ。
 今の俺と話すと彼女も奇異の目で見られてしまう。
 順調な高校生活を送っている丸出さんに迷惑をかけたくない。

 だけど、いつかは彼女と教室で堂々と会話できる、そんな綺麗な身体になりたいものだ。




 昼休み。

「ねえ、ちょっといい?」

 弁当を食べ終えた俺が机に伏せっていると、何者かが目の前に立ちはだかった。
 やべーやつと言われている今の俺に話しかけてくるなんてどこのどいつだ?
 声の高さだと女子っぽい感じだが……。

 顔を上げると、そこには赤茶色の髪をした美少女がいた。

「あれってA組の結城優紗ゆうきゆささん?」

「なんでうちのクラスに?」

「やっぱ可愛いなぁ……」

「足なげー」

「顔小せえー」

「モデルみてー」


 ………………。


 結城優紗。
 その名前は聞いたことがある。
 確か、他クラス合同でやった体育の時間に男子たちが遠目に噂していた人物だ。

 曰く――

 学年一の美少女ともっぱらの評判で、入学してまだ一ヶ月だというのに同学年・先輩問わず様々なイケメン男子たちから次々と告白をされて、それらをすべて容赦なく断っている高嶺の花だとか。

 ちなみに特定の恋人はいないらしい。

 須藤は『オレ、フリーならマジで結城さん狙っちゃうぜ!』と鼻息荒く語っていた。

 もちろん俺に語ってきたわけではない。

 彼がクラスの他の友人に話しているのを聞いただけだ。

 鳥谷先輩の加護で花園一派に絡まれる心配はなくなったものの、須藤とのコミュニケーションは未だに復活していないのである。

 まあ、コミュニケーションができていないのは彼に限った話ではないが……。

 悲しいことだね。

「あなたが新庄怜央よね? 少し顔を貸しなさいよ?」

 結城優紗とやらが腕を組みながら言ってきた。
 何か威圧的だなぁ……。
 高飛車ってこういう女の子のことを言うのだろうか?

 顔つきもキッとしていておっかない。

 整っていて美人ではあると思うんだけど。

「うーんと、何か用?」

 俺に話しかけてくれる同級生は今のところ貴重な存在なので若干の喜びはある。
 だが、彼女からは敵意めいたものを感じるといいますか。
 ぶっちゃけ、仲良くしましょうって態度には見えないんだよね。

 俺が躊躇していると、結城優紗は耳元まで顔を近づけてきた。

「いいから来なさい、魔王サイズオン」

「…………!?」

 そっと小声で囁かれたキーワード。
 それって俺の前世の名前じゃないすか……?
 どうしてこいつが知ってんの?

「ここじゃなんだから、違う場所に行くわよ?」

「…………」

 仕方がない。
 俺は黙って着いていくことにした。
 結城優紗の金魚の糞になって、ノロノロと教室を出ていく。

 振り返ると、丸出さんと目が合った。
 彼女はとても心配そうな表情していた。
 なあに、取って食われるわけじゃあるまいさ。

 俺は安心させるようにサムズアップで応じた。




 廊下に出ると、教室から声がワァッと聞こえてきた。


「結城さんが新庄と出て行ったぞ!? どうしてあいつと……?」

「金、暴力、女……とんでもない人……ッ!」

「これは憧れの美少女がDQNに寝取られる展開……ふぅ……」

 
 金……? 女? 寝取られ……? 身に覚えのない要素が新たに加わっている。

 俺は彼らの想像のなかで、またさらにとんでもないモンスターに格上げされてしまったのかもしれない。

 というか、寝取られって、結城優紗はお前の恋人なのか?
 彼女に恋人はいないはずだ。
 それはただの失恋と呼ぶのでは……?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生賢者の異世界無双〜勇者じゃないと追放されましたが、世界最強の賢者でした〜

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人は異世界へと召喚される。勇者としてこの国を救ってほしいと頼まれるが、直人の職業は賢者であったため、一方的に追放されてしまう。 だが、王は知らなかった。賢者は勇者をも超える世界最強の職業であることを、自分の力に気づいた直人はその力を使って自由気ままに生きるのであった。 一方、王は直人が最強だと知って、戻ってくるように土下座して懇願するが、全ては手遅れであった。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛
ファンタジー
~キャッチコピー~ クソ憎っくき糞ゴブリンのくそスキル【性欲常態化】! なんとかならん? は? スライムのコレも糞だったかよ!? ってお話……。 ~あらすじ~ 『いいかい? アンタには【スキル】が無いから、五歳で出ていってもらうよ』 生まれてすぐに捨てられた少年は、五歳で孤児院を追い出されて路上で物乞いをせざるをえなかった。 少年は、親からも孤児院からも名前を付けてもらえなかった。 その後、裏組織に引き込まれ粗末な寝床と僅かな食べ物を与えられるが、組織の奴隷のような生活を送ることになる。 そこで出会ったのは、少年よりも年下の男の子マリク。マリクは少年の世界に“色”を付けてくれた。そして、名前も『レオ』と名付けてくれた。 『銅貨やスキル、お恵みください』 レオとマリクはスキルの無いもの同士、兄弟のように助け合って、これまでと同じように道端で物乞いをさせられたり、組織の仕事の後始末もさせられたりの地獄のような生活を耐え抜く。 そんな中、とある出来事によって、マリクの過去と秘密が明らかになる。 レオはそんなマリクのことを何が何でも守ると誓うが、大きな事件が二人を襲うことに。 マリクが組織のボスの手に掛かりそうになったのだ。 なんとしてでもマリクを守りたいレオは、ボスやその手下どもにやられてしまうが、禁忌とされる行為によってその場を切り抜け、ボスを倒してマリクを救った。 魔物のスキルを取り込んだのだった! そして組織を壊滅させたレオは、マリクを連れて町に行き、冒険者になることにする。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...