魔法少女と魔法少女♂

極度の甘党

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第一章『魔法少女レイラの試練』

第十八話『魔法少女と不審者』

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「で? 何でこんなことになってるんだ?」

部屋に着くと松根が干されていた。

比喩とかじゃなく、文字通りの意味で。

松根は家の中にある物干しに魔力の糸で吊されていた。

「それはコイツが変態だからよ!」

「変態じゃないよ、変態紳士だよ」

「あー、うん。レイラ、何がどうなってこうなった?」

文音さんは松根をゲシゲシ蹴り、松根はドヤ顔で逆さまに揺れている。

まるでホラーだ。

「え? うーん、よく分かんないけど、変態先輩が家捜しし始めて、文音ちゃんはそれを物理的に阻止してた……でいいのかな?」

うん。とりあえずギルティ。

「文音さん、ちょっと」

「なによ、私はこの変態に鉄槌を下さなくちゃいけないのよ」

邪魔するなら同罪だと言わんばかりに睨んでくる。

「流石恭一!心の友よ!」

「蹴ったりすると喜ぶから、とどめはキッチリ刺すようにするんだぞ」

「分かったわ!」

「おぃいぃ!?」

さて、松根は暫く放置で良いとして……腹減ったな。

「これから鍋料理を作るけどレイラもやるか?」

「はい! 全力でお手伝いします!」

いや、鍋作るだけなんだけど……

「じゃあ私は文音が暴走しないように見張っておくわね」

「おぉふ!? 膝が! 踵が!」

「いや、既に手遅れのような……」

松根は既にサンドバックになっている。

「ほぁ! しましま!?」

まあ、言葉とは裏腹に嬉しそうなんだが。

「恭一先輩、私は何を手伝ったら良いですか?」

「んー、そうだな。白菜を洗って一口サイズに切ってみようか」

「はい!」

その間に人参や椎茸とかの野菜を下処理するか。

「恭一先輩、白菜はどんな感じで洗えば良いんですか?」

レイラはハーフカットされた白菜を持ち上げて首を傾げている。

「白菜は外側の葉を一枚ずつ剥がして、水で汚れを落とすんだ」

「みかんの皮をむく感じですね!」

あー、まあ似たようなものか。

「そんな感じ。で、洗い終わったら縦に半分に切って横に2~3センチくらいの間隔で切ると一口サイズになると思うよ」

「はい、やってみます!」

少し手つきが危なっかしいが、慣れてなければこんな感じだろう。

野菜を洗ったり切ったりするのはレイラに任せるとして……

「お、こうすれば痛くない?」

「なんで! あんたが! 物理結界を! 使えるのよ!」

「分からん!」

松根が物理結界?を使えるようになってしまった。

あいつ、これ以上耐久力を上げてなにをしたいのか……

「恭一先輩、白菜終わりました」

「お、じゃあ次に移るか」

「はい!」

やる気満々のレイラに教えながら鍋を作っていく。

暫くして味付けまで終わったところで文音さんが白旗を揚げた。

「ど、どうなってんのよ……あいつ硬すぎでしょ!?」

「防御だけならB級悪魔よりも上かもしれないわね」

肩で息をしている文音さんと本気で驚いている華本さん。

「元々がアレでアレだからな。害はないんだし放してやったら良いんじゃないか?」

鍋もほぼ出来上がったことだし、飯を食べている間は大人しいだろ。

「はぁ、仕方ないわね……でも、変態行動をしたら追い出すからね!」

ココは俺の家なんだが。

文音さんは松根に巻き付いていた魔力を分散させる。

「へぶっ!? お、落とすなら先に言ってくれ……」

「落とすわよ」

「遅せーよ!?」

「お前ら……いつまでも騒いでいると食わせないぞ」

効果は劇的だった。

「「はい!大人しくします!」」

テーブルの前に正座で座る二人。

こんだけシンクロしてたら相性良さそうなんだけどな。

「恭一の料理は上手いからな! 当然だ!」

「そうです! 当然です!」

この二人は食欲でシンクロするし……。

「まあ、私は先輩側の立場だから……ある程度は察するわ」

「はぁ、とりあえず……食うか」

俺が自分の分を取り終わるとお玉と菜箸の争奪戦が始まった。

お前ら……鍋を食うのに魔法使うんじゃねぇよ。

バカ騒ぎは鍋を食べ終わってからも暫く続いていた。

「じゃあ私はそろそろ帰るわね」

時刻は夜8時過ぎ。

アパートやマンション住まいだと尚更だが、騒ぎすぎると迷惑になりそうな時間帯だ。

「そうか、気をつけて……て部屋に直通だったか」

「そういうこと。文音とレイラも遅くならないうちに帰りなさいよ?」

「分かってるわよ。レイラと一緒に帰るから」

レイラは隣の部屋だから一緒にするのはどうかと思うぞ。

「俺は泊まっていくぞ! ここにいると旨い飯が食えるからな!」

迷惑だ。

「あんたは帰りなさいよ! この変態!」

「はっはっは! 変態ではない! 変態紳士だっ!」

無駄に似合うドヤ顔は止めろ。

あと煩い。

「騒ぎすぎて迷惑はかけないようにね」

「はーい。そっちも気をつけてね」

文音さんと華本さんは一瞬だけ真剣な表情になる。

何かあるのか?

今のところ怪しい気配はない。

「そうね、じゃあまた明日」

青い膜が波打ち、華本さんは帰っていった。

「で、あんたは気づいてる?」

「何が?」

「この部屋、誰かに見張られてるみたいなのよ」

え?

見張られてる?

「どういうことだ?」

「それが分かれば苦労しないわよ。気付いたのはついさっきね」

ふむ……魔力の反応はなさそうだけど、文音さんと華本さんが言うなら何かあるのだろう。

「手を出してくる気配はないから大丈夫だと思うけど、誰が標的なのか……」

文音さんは明らかに俺を見ている。

色々心当たりはあるが……妖弧とかならこんな回りくどいことはしないと思うし、悪魔関係者か?

「まあ、今日はレイラの部屋にいるから何かあったら教えなさいよ」

「そうだな、何も無いと良いんだけど」

魔力の反応がないのが気になるが、そもそも魔力を使い始めて日が浅い俺より文音さん達の方が信用できる。

念のため武器になりそうな物とか近くに置いておくか。

あと見張りとかした方が良いのか?

「恭一! ゾンビゲーやろーぜ!」

「私も混ぜるのだ! 近接スラッシャーは最強なのだ!」

美桜ちゃんがヌルッと影から出てくる。

いつの間にそんなことが出来るようになったんだ?

「巣 ラッシャーな! 巣で区切んないとダメなんだぜ!」

ああ、これは見張りというか寝ずの番だな。

色々と和訳がおかしい洋ゲーをやりながら朝まで過ごすことになりそうだ。

「私達は明日も学校だから日付が変わる前に帰るわね」

「分かった。朝飯はいるか?」

「適当に食べるから大丈夫よ。って本当、お母さんみたいね」

そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃないか。

「よく言われるけど普通じゃないか?」

一人分作るなら多少増えたところであんまり変わらないし。

「いやいや、あんたは自分の女子力の高さに気付きなさいって」

呆れる文音さんはレイラと美桜ちゃんを見てため息をついた。

「この状況じゃ自然にそうなるか……」

「ん? どうしたんですか文音ちゃん、難しい顔して」

「なんでもないわ。得することはあっても損はしないし」

いまいち話の分かっていないレイラと一緒に、松根と美桜ちゃんがプレイし始めた洋ゲー観戦を始めた。

もちろん俺も洗い物を済ませて合流する。

今日は長い一日になりそうだ。
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