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西丸下
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二日後の昼八ツ頃、羽織袴に身を包んだ紀堂と藤五郎は、西丸下の飯田堀家上屋敷にいた。
藤五郎を玄関近くの溜の間に留め、家士は紀堂を奥まった座敷に案内した。
真っ白に輝く障子の明かりが、広い座敷に強い陰影を刻んでいる。上座に二人の重役の姿があった。堀家用人と大和守の公用人を務める杉本庫八と、大和守の側近であるお側頭兼お部屋番の柳田東助である。
紀堂が二人に向かって平伏すると、杉本の声が響いた。
「大鳥屋紀堂。久しいの。近う寄れ」
無言で頭を下げた紀堂は、膝行して再び叩頭した。
「面をあげよ」
茫洋とした声が降ってくる。
浅く顔をあげると、一間ほど先の上座から、髪に白い物が目立つ杉本がこちらを見下ろしている。
「此の度は為替金支払方の申し出、大義であった。よく励むがよい」
「有難き幸せにございます。杉本様におかれましても、ご機嫌麗しく祝着至極に存じます。行き届きませぬが、精一杯お役を務めさせていただきます」
紀堂は恐縮しつつ懇篤に述べた。
「で……大鳥屋。本日、当家重役に目通りを願い出たのはいかなるわけか。ただ礼を申すためではあるまい。違うか」
杉本が聡明そうな目でこちらを見下ろす。
すると、隣の柳田も口を開いた。
「……その方、ご権門に出入りして何を企んでおる。越前守様はともかく、石翁様にも近づいておるとか」
まだ四十になるかどうかと思われる柳田の、張りのある声を聞きながら、紀堂は黙って目を伏せていた。水野老中の一派と石翁は互いに権勢を争いあう仲だ。大鳥屋が石翁に近づいていると知って、いい気はしないだろう。
「石翁様に玉泉園を献上したなどという話まで聞こえておるが、まことか」
疑わしげに柳田が言う。
「──仰せの通りにございます」
清涼な声で答えると、二人が絶句した。
「……どういうつもりなのだ、お主。いったい何を考えておる?」
信じ難いような、呆れたような表情で柳田がこちらを凝視する。
「……千川家の件か。そうであろう」
杉本が静かに嘆息した。
「大鳥屋よ。その方の忠義のほどはまことに見上げたものじゃ。しかしお家は既になく、できることは最早ない。いつまでこの件にこだわるのだ」
「──お家の再興を成すまでにございます」
ゆっくりと顔を上げて言うと、二人が額を曇らせた。
「大鳥屋。かような罪を得てご改易となったお家の再興がいかに困難であるか、そなたにはわかるまい。町人に何ができると申す。ましてご当主もご嫡子もあらぬとあっては……」
「それは、真実でございましょうか?」
紀堂が不意に声を上げたので、柳田が鼻白んだ。
「それはいかなる意味か」
「実は……聞き逃せぬ話を耳に致しましてございます」
紀堂は艶麗な両目に柳田が怯むような気迫をゆらりと立ち昇らせ、声を低めた。
「千川様の若殿様が、ご存命であられるらしい、との話でございます」
「なに……」
杉本と柳田の目が驚愕に見開かれ、はっとしたように表情を消すのを、紀堂は見逃さなかった。
「何を申すか。そのような与太話……若殿様はお亡くなりになったのを忘れたか。気を確かに持て」
「与太話ではございませぬ。手前が直接、ある者より話を聞きましてございます。あの夜、若殿様が何者かに助けられ、逃げ延びられるのを見た者から、この耳で聞きましたのです」
二人が頬を引きつらせ、言葉を失う。ねっとりとした汗が、二人の額にみるみる浮かんでくる。
「彼らは越前守様と大和守様のお指図にて参ったと、そう申しておりましたそうにございます」
うっ、と二人が喉で呻いた。
もちろん張ったりだが、彼らを揺さぶるには充分のはずだ。
動揺を取り繕うこともできずに顔色を失う二人を、瞬きもせずに凝視した。
「で……でっち上げだ。くだらぬ!」
「我が殿がご公儀を謀り、大罪人に手を貸したなどという言いがかりをつける気か、貴様!」
狼狽を隠そうとするかのような罵声を浴びながら、紀堂はゆっくりと、唸るように言った。
「それでは、この話は余人に打ち明けても構いませぬので……?」
「何……」
柳田が息を飲み、次いで何かを覚ったように目を剥いた。
「貴様……よもや石翁様に打ち明けようなどと思料しておるのではあるまいな!? 許さぬぞ、そのような……!」
氷のような瞳で見返すと、柳田が思わずというように腰を浮かせ、殺気も露に脇差を手で探る。「よせ」とそれを制した杉本も激しい逡巡を目に浮かべ、顎をふるわせている。
「若殿様にお目にかかりとうございます」
鋭く言って両手をついた。
「どうか、若殿様にお目通りをお願い申し上げます」
「──世迷い言を申すな」
柳田がこめかみに青筋を浮かせ、真っ青になりながら吐き捨てる。
「広衛様をなにゆえ当家が匿うのだ。妄言も甚だしいぞ、貴様」
「薩摩の隠密衆に、越前守様や大和守様にお力添えをしておる者がおりますね。村上啓吾、奥田玄蕃、滝村司……お心当たりの名はございますか?」
「な……なに……!?」
柳田が両目を剥き、杉本が顔を土気色に変える。
「越前守様は、大塩平八郎の建議書を秘す見返りに将軍宣下を支持するという約定を、千川家のご当主様と交わしておられた。大久保加賀守様がご逝去の後も、お殿様が約定を堅持なされたことを、越前守様は恩義に感じて下されたのではございませんか。そこで隠密に若殿様の救出を命じ、どこかへお匿い申し上げている。そうではございませぬか」
「大鳥屋、だ、黙れ。どこで、それを」
杉本が周囲を伺うように目を泳がせ、手を上げて制する。
紀堂は身を乗り出して畳み掛けた。
「若殿様は、どちらにおられるのですか」
「──申せぬ」
杉本が脂汗を額に光らせながら呻いた。
「申せぬのだ。会わせることは叶わぬ。分を弁えよ」
「……ご存命で、おられるのでございますね?」
二人が沈黙で答えるのを、紀堂は頬に血を登らせて見詰めた。
広衛……。
激しい感情が胸に渦を巻き、喉の奥を熱くする。
ごうごうと耳の奥で血潮が騒ぐのを聞きながら、杉本と柳田を瞬きもせずに見据えた。
「すべてを仕組んだのは……誰なのですか?」
二人が抜き身を突きつけられたように身を引こうとする。
「ご承知でおられるはずだ。誰なのですか。島津の背後で糸を引き、千川家を滅ぼそうと企んだのは、何者なのですか?」
「話にならぬ。下がれ。今すぐ、下がれ」
柳田が怒気も露に言った。
「……お答えをいただけませぬか」
「下がれと申したのだ。これ以上の無礼は許さぬぞ」
「どこまで踏み込めば満足なのだ? 貴様、仇討ちでも企むつもりか。何故、そこまで……」
杉本が声を荒げ、己の言葉に息を飲む。
「──まさか。その方、仇を取ろうなどと考えておるのか……?」
鋼のような表情で見詰め返す青年に、公用人は驚愕に青ざめながら目を瞠った。
「……気でも触れておるのか。大鳥屋店主ともあろうものが……町人の身で、何故そこまでする……? わからぬ。何故だ」
斬りつけるように杉本を凝視する紀堂の胸に、ふと鋭い悲しみが過った。
溺れるような悲しみが、後から後から湧き上がる。張り詰めた双眸に涙の膜が張る。二人の侍の輪郭がぼやけそうになる。
「……私が、千川広忠の子であり、広衛の兄であるからにございます」
囁く声が、座敷に沁みるように広がった。二人が石と化したかのように動きを止め、呆けたように顎を落とす。
「私の名は……千川広彬と申します。二十五年前、父と千川家家臣の娘であった高田紫野との間に生まれた、庶子にございます」
風が出てきたらしかった。座敷の外で、庭木の葉が潮騒のように枝葉を打ち鳴らすのが聞こえていた。
けれども、座敷の内は、静寂がすべてのものを凍りつかせていた。
誰も、動かなかった。
「……伊予守様の」
やがて、杉本が金縛りに抗うように、ぎこちなく唇を動かした。
「……ご子息であると……」
生白くなった顔をふるわせながら、柳田がごくり、と喉仏を動かす。
「証は。証は、どちらに……」
「境様が一切をご承知でおられます。ご家老様にお目通りをお許し下されば、証をお立て下さいましょう。……お目通りを、お許しいただけましょうか」
落ち着いた声でそう述べると、杉本と柳田は顔を見合わせ、初めて目の前に現れた者を見るかのように、紀堂を声もなく見詰めた。
藤五郎を玄関近くの溜の間に留め、家士は紀堂を奥まった座敷に案内した。
真っ白に輝く障子の明かりが、広い座敷に強い陰影を刻んでいる。上座に二人の重役の姿があった。堀家用人と大和守の公用人を務める杉本庫八と、大和守の側近であるお側頭兼お部屋番の柳田東助である。
紀堂が二人に向かって平伏すると、杉本の声が響いた。
「大鳥屋紀堂。久しいの。近う寄れ」
無言で頭を下げた紀堂は、膝行して再び叩頭した。
「面をあげよ」
茫洋とした声が降ってくる。
浅く顔をあげると、一間ほど先の上座から、髪に白い物が目立つ杉本がこちらを見下ろしている。
「此の度は為替金支払方の申し出、大義であった。よく励むがよい」
「有難き幸せにございます。杉本様におかれましても、ご機嫌麗しく祝着至極に存じます。行き届きませぬが、精一杯お役を務めさせていただきます」
紀堂は恐縮しつつ懇篤に述べた。
「で……大鳥屋。本日、当家重役に目通りを願い出たのはいかなるわけか。ただ礼を申すためではあるまい。違うか」
杉本が聡明そうな目でこちらを見下ろす。
すると、隣の柳田も口を開いた。
「……その方、ご権門に出入りして何を企んでおる。越前守様はともかく、石翁様にも近づいておるとか」
まだ四十になるかどうかと思われる柳田の、張りのある声を聞きながら、紀堂は黙って目を伏せていた。水野老中の一派と石翁は互いに権勢を争いあう仲だ。大鳥屋が石翁に近づいていると知って、いい気はしないだろう。
「石翁様に玉泉園を献上したなどという話まで聞こえておるが、まことか」
疑わしげに柳田が言う。
「──仰せの通りにございます」
清涼な声で答えると、二人が絶句した。
「……どういうつもりなのだ、お主。いったい何を考えておる?」
信じ難いような、呆れたような表情で柳田がこちらを凝視する。
「……千川家の件か。そうであろう」
杉本が静かに嘆息した。
「大鳥屋よ。その方の忠義のほどはまことに見上げたものじゃ。しかしお家は既になく、できることは最早ない。いつまでこの件にこだわるのだ」
「──お家の再興を成すまでにございます」
ゆっくりと顔を上げて言うと、二人が額を曇らせた。
「大鳥屋。かような罪を得てご改易となったお家の再興がいかに困難であるか、そなたにはわかるまい。町人に何ができると申す。ましてご当主もご嫡子もあらぬとあっては……」
「それは、真実でございましょうか?」
紀堂が不意に声を上げたので、柳田が鼻白んだ。
「それはいかなる意味か」
「実は……聞き逃せぬ話を耳に致しましてございます」
紀堂は艶麗な両目に柳田が怯むような気迫をゆらりと立ち昇らせ、声を低めた。
「千川様の若殿様が、ご存命であられるらしい、との話でございます」
「なに……」
杉本と柳田の目が驚愕に見開かれ、はっとしたように表情を消すのを、紀堂は見逃さなかった。
「何を申すか。そのような与太話……若殿様はお亡くなりになったのを忘れたか。気を確かに持て」
「与太話ではございませぬ。手前が直接、ある者より話を聞きましてございます。あの夜、若殿様が何者かに助けられ、逃げ延びられるのを見た者から、この耳で聞きましたのです」
二人が頬を引きつらせ、言葉を失う。ねっとりとした汗が、二人の額にみるみる浮かんでくる。
「彼らは越前守様と大和守様のお指図にて参ったと、そう申しておりましたそうにございます」
うっ、と二人が喉で呻いた。
もちろん張ったりだが、彼らを揺さぶるには充分のはずだ。
動揺を取り繕うこともできずに顔色を失う二人を、瞬きもせずに凝視した。
「で……でっち上げだ。くだらぬ!」
「我が殿がご公儀を謀り、大罪人に手を貸したなどという言いがかりをつける気か、貴様!」
狼狽を隠そうとするかのような罵声を浴びながら、紀堂はゆっくりと、唸るように言った。
「それでは、この話は余人に打ち明けても構いませぬので……?」
「何……」
柳田が息を飲み、次いで何かを覚ったように目を剥いた。
「貴様……よもや石翁様に打ち明けようなどと思料しておるのではあるまいな!? 許さぬぞ、そのような……!」
氷のような瞳で見返すと、柳田が思わずというように腰を浮かせ、殺気も露に脇差を手で探る。「よせ」とそれを制した杉本も激しい逡巡を目に浮かべ、顎をふるわせている。
「若殿様にお目にかかりとうございます」
鋭く言って両手をついた。
「どうか、若殿様にお目通りをお願い申し上げます」
「──世迷い言を申すな」
柳田がこめかみに青筋を浮かせ、真っ青になりながら吐き捨てる。
「広衛様をなにゆえ当家が匿うのだ。妄言も甚だしいぞ、貴様」
「薩摩の隠密衆に、越前守様や大和守様にお力添えをしておる者がおりますね。村上啓吾、奥田玄蕃、滝村司……お心当たりの名はございますか?」
「な……なに……!?」
柳田が両目を剥き、杉本が顔を土気色に変える。
「越前守様は、大塩平八郎の建議書を秘す見返りに将軍宣下を支持するという約定を、千川家のご当主様と交わしておられた。大久保加賀守様がご逝去の後も、お殿様が約定を堅持なされたことを、越前守様は恩義に感じて下されたのではございませんか。そこで隠密に若殿様の救出を命じ、どこかへお匿い申し上げている。そうではございませぬか」
「大鳥屋、だ、黙れ。どこで、それを」
杉本が周囲を伺うように目を泳がせ、手を上げて制する。
紀堂は身を乗り出して畳み掛けた。
「若殿様は、どちらにおられるのですか」
「──申せぬ」
杉本が脂汗を額に光らせながら呻いた。
「申せぬのだ。会わせることは叶わぬ。分を弁えよ」
「……ご存命で、おられるのでございますね?」
二人が沈黙で答えるのを、紀堂は頬に血を登らせて見詰めた。
広衛……。
激しい感情が胸に渦を巻き、喉の奥を熱くする。
ごうごうと耳の奥で血潮が騒ぐのを聞きながら、杉本と柳田を瞬きもせずに見据えた。
「すべてを仕組んだのは……誰なのですか?」
二人が抜き身を突きつけられたように身を引こうとする。
「ご承知でおられるはずだ。誰なのですか。島津の背後で糸を引き、千川家を滅ぼそうと企んだのは、何者なのですか?」
「話にならぬ。下がれ。今すぐ、下がれ」
柳田が怒気も露に言った。
「……お答えをいただけませぬか」
「下がれと申したのだ。これ以上の無礼は許さぬぞ」
「どこまで踏み込めば満足なのだ? 貴様、仇討ちでも企むつもりか。何故、そこまで……」
杉本が声を荒げ、己の言葉に息を飲む。
「──まさか。その方、仇を取ろうなどと考えておるのか……?」
鋼のような表情で見詰め返す青年に、公用人は驚愕に青ざめながら目を瞠った。
「……気でも触れておるのか。大鳥屋店主ともあろうものが……町人の身で、何故そこまでする……? わからぬ。何故だ」
斬りつけるように杉本を凝視する紀堂の胸に、ふと鋭い悲しみが過った。
溺れるような悲しみが、後から後から湧き上がる。張り詰めた双眸に涙の膜が張る。二人の侍の輪郭がぼやけそうになる。
「……私が、千川広忠の子であり、広衛の兄であるからにございます」
囁く声が、座敷に沁みるように広がった。二人が石と化したかのように動きを止め、呆けたように顎を落とす。
「私の名は……千川広彬と申します。二十五年前、父と千川家家臣の娘であった高田紫野との間に生まれた、庶子にございます」
風が出てきたらしかった。座敷の外で、庭木の葉が潮騒のように枝葉を打ち鳴らすのが聞こえていた。
けれども、座敷の内は、静寂がすべてのものを凍りつかせていた。
誰も、動かなかった。
「……伊予守様の」
やがて、杉本が金縛りに抗うように、ぎこちなく唇を動かした。
「……ご子息であると……」
生白くなった顔をふるわせながら、柳田がごくり、と喉仏を動かす。
「証は。証は、どちらに……」
「境様が一切をご承知でおられます。ご家老様にお目通りをお許し下されば、証をお立て下さいましょう。……お目通りを、お許しいただけましょうか」
落ち着いた声でそう述べると、杉本と柳田は顔を見合わせ、初めて目の前に現れた者を見るかのように、紀堂を声もなく見詰めた。
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