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冬の日
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久しぶりに、義父の夢を見た。
年の瀬も近い冬の日だ。江戸の町は深い雪に覆われ、すべての音が吸い込まれたような静寂に包まれている。
入念に温められた寝間の床に横たわった義父の側を、まだ広之助である紀堂は片時も離れずにいた。もう数日前から、義父はものを口にするのも困難になっていた。
かんかんに熾した長火鉢の炭が、きりりきりりと硬質な音を立てるのをかすかに聞きながら、これは夢なのだとどこかで覚っている。ああ、そうだ。これは、義父が亡くなる五日ほど前のことだった。
「……えらく、いい匂いがする」
ふと、落ち窪んだ瞼を開いて義父が呟いた。
「金木犀かい」
「いえ、柊ですよ」
義父の顔を覗き込んで紀堂がやわらかく応じると、ああ、と病人がうっすら笑う。
「真冬だもんな。もうすぐ、年の瀬だったな」
床の間の小ぶりな壷に、嵯峨菊と一緒に活けた柊が白い花をつけていて、金木犀に似た甘い香りを仄かに漂わせている。それをしばし寝床から見やり、義父は掠れた声で言った。
「なんだ、お前さんもいたのかい」
障子の前に座している藤五郎の姿に気づいたらしい。小さく会釈する大番頭から顔を戻すと、
「年越しの準備は、万端かい」と訊ねる。
「はい。藤五郎が采配してくれていますし、万事抜かりありません」
「そうだろうよ。一昨年大番頭になって、張り切っているからな」
濁りの目立つ目に笑いが浮かぶ。
藤五郎の父、前の大番頭であった平五郎は、紀堂が大坂から戻った次の年に隠居して、藤五郎が新たな大番頭となっていた。
「それじゃあ、年明けまで頑張らねぇとな。正月が台無しになったら藤五郎にどやされちまう」
「……年明けじゃあ早すぎますよ。こんな若造の若旦那を押し付けられたら困るって、藤五郎が怒り狂いますよ」
「怖いねぇ。おちおち死んでられねぇじゃないか」
「そりゃあもう、大鳥屋の閻魔ですからね」
ずきずきと胸が痛むのをこらえて軽口を叩くと、
「──お二人とも、私がここにいるのをお忘れじゃあございませんでしょうね」
と大番頭のひんやりとした声が響いてきた。
四代目は、ふ、ふ、と喉を軋ませるようにしてひとしきり笑った。
「お前さんも馬鹿だねぇ。とっとと祝言をあげちまえばよかったのに。私が死んだらしばらくできんじゃないか。女の一年は長いんだよ。あんまり待たせると有里さんに愛想を尽かされちまうぜ」
紀堂は冷や汗なのかなんなのかわからぬ汗をかいて、口をぱくぱくさせる。
「わ……わかっております。きちんと話し合っていますので、大丈夫です。待っていると言ってくれました」
「そいつはご馳走さん」
義父がにやりとするのでかっかと頬が火照る。
「……喉が乾きませんか」
紀堂の問いにゆっくりと首をふり、義父は笑いを収めてこちらを見上げた。
「なぁ、広之助」
「はい」
「……好きに、やんなさい。この店も、何もかも、もう、お前さんの好きにしなさいよ」
「親父さん」
面食らった紀堂が返事に窮するのを見て、四代目は乾いた唇に笑みを浮かべる。胃に腫物が出来て、もはや腕のいい蘭方医にもなす術が無いと告げられていた。
養子に入ってから義父をどう呼んだものかと迷っていた紀堂に、親父でいいよ、と煮売り屋の店主のような調子で言った人だった。おとっつぁんと呼ぶのは躊躇われたが、大店の店主を親父と呼ぶのもいかがなものか。紀堂は首をひねったが、四代目はそれでいいと言い張った。それから、義父はずっと「親父さん」だった。四代目は小柄の団子鼻だが颯爽とした男で、粋で頭が切れ、そして、やさしい親父だった。
「いいかい、藤五郎。若旦那がしたいように、させてやってくれ。私の頼みだ。聞いてくれるかい」
黙って座していた藤五郎がすっと目を上げる。
「……なさりたいことの内容次第でございます」
「そこは、へぇもちろんです、旦那様のご遺言だ、何でもおっしゃってくださいまし、って言いながら泣くところだろうよ。石頭め」
しかめ面を作った義父に、紀堂は思わず小さく笑った。
「……なぁ広之助。お前さんは名跡の若殿だってのに、さんざんしごかれてもよく耐えてきたもんだ。偉いもんさ」
土気色の顔をした四代目紀堂は目で笑い、そっと舌で唇を湿らせる。
「お前さんは心根が真っ直ぐで、何しろ頭がいいからね、教え込むのが楽しかったよ。おまけに肝っ玉も座ってる上に、役者顔負けの男っぷりだろう。お江戸中の大店から娘をもらってくれって引きも切らなくてさ。ああ、いい気分だったねぇ。それでお前さんを養子に迎えた元は取ったってもんだ。たっぷりお釣りがくるくらいだよ」
「何を言っているんですか」
悲しげに頬を緩める若旦那を見て、ふふ、と病人が笑う。
「そういうわけだから、大鳥屋への義理は返したと思いなさいよ。もう立派に一人前なんだから、何だってできる。有里さんと幸せになりな。お侍に戻ったっていい。好きなように、生きていいんだ」
「やめて下さい。俺は五代目なんですよ。今更放り出されたら困っちまうじゃありませんか。ずいぶん冷血な父親ですね」
鼻の奥がぎゅっと痛む。紀堂は目が腫れぼったくなるのを堪えて義父を睨んだ。
「死に際の親父を冷血呼ばわりとは、ひどい息子だねぇ」
いがらが絡んだような声で、義父はがらがら笑った。薄い胸が夜着の下で上下すると、かさかさと衣が擦れる乾いた音が立つ。
「……その顔を見てると紫野様を思い出す。よく涙を堪えて、じっと耐えていらっしゃった」
紀堂は思わず身を固くする。
「けれどまぁ、そこだけ春が来たようなお美しさだったよ。健気で、賢いお方だった。お前さんは親からいいところをもらったねぇ。お前さんが生まれた時には、朦朧としていなさるのに、ずっと抱いて離そうとなさらなかった。……お亡くなりになる間際には、一人にしてすまないと、千川のお殿様の子として立派に育っておくれと、おっしゃった」
耳朶がかっと熱を帯び、視界が曇りそうになる。紫野の話など、滅多に口に上らせぬ人だった。そっくりな顔だから悲しくなっていけないよ、と折々言っていた。そんなに似ているのかと思った紀堂は、少年の頃母が恋しくなると、よく手水鉢にこっそり己の顔を映し込んでみたものだった。
「お殿様は……いつもお前さんがお屋敷を訪れるのを、心待ちになすっておられた。お永様や若殿様やご家臣方の手前、ぐっと堪えていらしたけどね。さぞ人目を憚らず名を呼んで、手を取ってやれたらと、思っていらしただろう。私は本当に、お労しくて、切なかった。……お前さんがお父上とお母上を恋しがって、けれど決して口に出したりしないのも、不憫だった」
膝に置いた両手がふるえていた。義父の顔がぼやけて、目に厚い膜が張ったようだ。頭の中に嵐が吹き荒れている。けれども、義父の声は刻みつけるかのように耳に明瞭に響いた。
「お殿様はお前さんを心から愛おしんでおられる。ひとつも偽りはない。それは決して疑っちゃならねぇよ。離れていちゃ難しいかもしれないが、私が言うんだから真実さ」
喉の奥が軋む。慌てて口の中を噛んで、無言で頷いた。四代目は、うん、と満足げだった。
「それなのにさ、私は楽しくてたまらなかった。お前さんがでっかくなっていくのを見ているのが、嬉しくて堪らないのさ。ひどいもんだろう?」
唇の脇を滑り落ちたものが、手の甲をやさしく叩く。
出入りの商家だというだけで、計り知れぬような懐の深さを示してくれた人だった。自分のような厄介者を、実の子のように愛情を傾けて育ててくれた。それなのに、感謝の言葉を口にすることが出来なかった。そんなことを言えば、義父が目の前から去っていくのを認めるような気がして、恐ろしかった。
「ひどい親父ですね。でも、私も楽しかったから、似たもの親子でしょうよ」
掠れた声で言い返すと、見慣れた笑みが深くなる。
「ろくでもないところが似ちまったもんだ。お殿様と紫野様に叱られるかな」
「なに、この店をもらいますから、帳消しにして下さいますよ。天下の大鳥屋ですからね」
「──はは、違いない」
こいつは一本取られた、と四代目は楽しそうに笑った。
藤五郎は身じろぎもせず、二人を静かに見つめている。
幾筋も頬に涙を伝わせながら、紀堂は夜着の下の手を握った。義父は目で頷きながら、乾いて筋張った手に力を込めて、仄かなあたたかさを伝えるように握り返してくる。
天翔る龍が鳴くかのような笛の音が、どこか遠くに鳴り響くのを聞きながら、紀堂はその手を惜しむように握り締めていた。
二年前の、年の終わりのことだった。
年の瀬も近い冬の日だ。江戸の町は深い雪に覆われ、すべての音が吸い込まれたような静寂に包まれている。
入念に温められた寝間の床に横たわった義父の側を、まだ広之助である紀堂は片時も離れずにいた。もう数日前から、義父はものを口にするのも困難になっていた。
かんかんに熾した長火鉢の炭が、きりりきりりと硬質な音を立てるのをかすかに聞きながら、これは夢なのだとどこかで覚っている。ああ、そうだ。これは、義父が亡くなる五日ほど前のことだった。
「……えらく、いい匂いがする」
ふと、落ち窪んだ瞼を開いて義父が呟いた。
「金木犀かい」
「いえ、柊ですよ」
義父の顔を覗き込んで紀堂がやわらかく応じると、ああ、と病人がうっすら笑う。
「真冬だもんな。もうすぐ、年の瀬だったな」
床の間の小ぶりな壷に、嵯峨菊と一緒に活けた柊が白い花をつけていて、金木犀に似た甘い香りを仄かに漂わせている。それをしばし寝床から見やり、義父は掠れた声で言った。
「なんだ、お前さんもいたのかい」
障子の前に座している藤五郎の姿に気づいたらしい。小さく会釈する大番頭から顔を戻すと、
「年越しの準備は、万端かい」と訊ねる。
「はい。藤五郎が采配してくれていますし、万事抜かりありません」
「そうだろうよ。一昨年大番頭になって、張り切っているからな」
濁りの目立つ目に笑いが浮かぶ。
藤五郎の父、前の大番頭であった平五郎は、紀堂が大坂から戻った次の年に隠居して、藤五郎が新たな大番頭となっていた。
「それじゃあ、年明けまで頑張らねぇとな。正月が台無しになったら藤五郎にどやされちまう」
「……年明けじゃあ早すぎますよ。こんな若造の若旦那を押し付けられたら困るって、藤五郎が怒り狂いますよ」
「怖いねぇ。おちおち死んでられねぇじゃないか」
「そりゃあもう、大鳥屋の閻魔ですからね」
ずきずきと胸が痛むのをこらえて軽口を叩くと、
「──お二人とも、私がここにいるのをお忘れじゃあございませんでしょうね」
と大番頭のひんやりとした声が響いてきた。
四代目は、ふ、ふ、と喉を軋ませるようにしてひとしきり笑った。
「お前さんも馬鹿だねぇ。とっとと祝言をあげちまえばよかったのに。私が死んだらしばらくできんじゃないか。女の一年は長いんだよ。あんまり待たせると有里さんに愛想を尽かされちまうぜ」
紀堂は冷や汗なのかなんなのかわからぬ汗をかいて、口をぱくぱくさせる。
「わ……わかっております。きちんと話し合っていますので、大丈夫です。待っていると言ってくれました」
「そいつはご馳走さん」
義父がにやりとするのでかっかと頬が火照る。
「……喉が乾きませんか」
紀堂の問いにゆっくりと首をふり、義父は笑いを収めてこちらを見上げた。
「なぁ、広之助」
「はい」
「……好きに、やんなさい。この店も、何もかも、もう、お前さんの好きにしなさいよ」
「親父さん」
面食らった紀堂が返事に窮するのを見て、四代目は乾いた唇に笑みを浮かべる。胃に腫物が出来て、もはや腕のいい蘭方医にもなす術が無いと告げられていた。
養子に入ってから義父をどう呼んだものかと迷っていた紀堂に、親父でいいよ、と煮売り屋の店主のような調子で言った人だった。おとっつぁんと呼ぶのは躊躇われたが、大店の店主を親父と呼ぶのもいかがなものか。紀堂は首をひねったが、四代目はそれでいいと言い張った。それから、義父はずっと「親父さん」だった。四代目は小柄の団子鼻だが颯爽とした男で、粋で頭が切れ、そして、やさしい親父だった。
「いいかい、藤五郎。若旦那がしたいように、させてやってくれ。私の頼みだ。聞いてくれるかい」
黙って座していた藤五郎がすっと目を上げる。
「……なさりたいことの内容次第でございます」
「そこは、へぇもちろんです、旦那様のご遺言だ、何でもおっしゃってくださいまし、って言いながら泣くところだろうよ。石頭め」
しかめ面を作った義父に、紀堂は思わず小さく笑った。
「……なぁ広之助。お前さんは名跡の若殿だってのに、さんざんしごかれてもよく耐えてきたもんだ。偉いもんさ」
土気色の顔をした四代目紀堂は目で笑い、そっと舌で唇を湿らせる。
「お前さんは心根が真っ直ぐで、何しろ頭がいいからね、教え込むのが楽しかったよ。おまけに肝っ玉も座ってる上に、役者顔負けの男っぷりだろう。お江戸中の大店から娘をもらってくれって引きも切らなくてさ。ああ、いい気分だったねぇ。それでお前さんを養子に迎えた元は取ったってもんだ。たっぷりお釣りがくるくらいだよ」
「何を言っているんですか」
悲しげに頬を緩める若旦那を見て、ふふ、と病人が笑う。
「そういうわけだから、大鳥屋への義理は返したと思いなさいよ。もう立派に一人前なんだから、何だってできる。有里さんと幸せになりな。お侍に戻ったっていい。好きなように、生きていいんだ」
「やめて下さい。俺は五代目なんですよ。今更放り出されたら困っちまうじゃありませんか。ずいぶん冷血な父親ですね」
鼻の奥がぎゅっと痛む。紀堂は目が腫れぼったくなるのを堪えて義父を睨んだ。
「死に際の親父を冷血呼ばわりとは、ひどい息子だねぇ」
いがらが絡んだような声で、義父はがらがら笑った。薄い胸が夜着の下で上下すると、かさかさと衣が擦れる乾いた音が立つ。
「……その顔を見てると紫野様を思い出す。よく涙を堪えて、じっと耐えていらっしゃった」
紀堂は思わず身を固くする。
「けれどまぁ、そこだけ春が来たようなお美しさだったよ。健気で、賢いお方だった。お前さんは親からいいところをもらったねぇ。お前さんが生まれた時には、朦朧としていなさるのに、ずっと抱いて離そうとなさらなかった。……お亡くなりになる間際には、一人にしてすまないと、千川のお殿様の子として立派に育っておくれと、おっしゃった」
耳朶がかっと熱を帯び、視界が曇りそうになる。紫野の話など、滅多に口に上らせぬ人だった。そっくりな顔だから悲しくなっていけないよ、と折々言っていた。そんなに似ているのかと思った紀堂は、少年の頃母が恋しくなると、よく手水鉢にこっそり己の顔を映し込んでみたものだった。
「お殿様は……いつもお前さんがお屋敷を訪れるのを、心待ちになすっておられた。お永様や若殿様やご家臣方の手前、ぐっと堪えていらしたけどね。さぞ人目を憚らず名を呼んで、手を取ってやれたらと、思っていらしただろう。私は本当に、お労しくて、切なかった。……お前さんがお父上とお母上を恋しがって、けれど決して口に出したりしないのも、不憫だった」
膝に置いた両手がふるえていた。義父の顔がぼやけて、目に厚い膜が張ったようだ。頭の中に嵐が吹き荒れている。けれども、義父の声は刻みつけるかのように耳に明瞭に響いた。
「お殿様はお前さんを心から愛おしんでおられる。ひとつも偽りはない。それは決して疑っちゃならねぇよ。離れていちゃ難しいかもしれないが、私が言うんだから真実さ」
喉の奥が軋む。慌てて口の中を噛んで、無言で頷いた。四代目は、うん、と満足げだった。
「それなのにさ、私は楽しくてたまらなかった。お前さんがでっかくなっていくのを見ているのが、嬉しくて堪らないのさ。ひどいもんだろう?」
唇の脇を滑り落ちたものが、手の甲をやさしく叩く。
出入りの商家だというだけで、計り知れぬような懐の深さを示してくれた人だった。自分のような厄介者を、実の子のように愛情を傾けて育ててくれた。それなのに、感謝の言葉を口にすることが出来なかった。そんなことを言えば、義父が目の前から去っていくのを認めるような気がして、恐ろしかった。
「ひどい親父ですね。でも、私も楽しかったから、似たもの親子でしょうよ」
掠れた声で言い返すと、見慣れた笑みが深くなる。
「ろくでもないところが似ちまったもんだ。お殿様と紫野様に叱られるかな」
「なに、この店をもらいますから、帳消しにして下さいますよ。天下の大鳥屋ですからね」
「──はは、違いない」
こいつは一本取られた、と四代目は楽しそうに笑った。
藤五郎は身じろぎもせず、二人を静かに見つめている。
幾筋も頬に涙を伝わせながら、紀堂は夜着の下の手を握った。義父は目で頷きながら、乾いて筋張った手に力を込めて、仄かなあたたかさを伝えるように握り返してくる。
天翔る龍が鳴くかのような笛の音が、どこか遠くに鳴り響くのを聞きながら、紀堂はその手を惜しむように握り締めていた。
二年前の、年の終わりのことだった。
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