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百物語(四)
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蝙蝠が飛び交う青い夕闇の中、猪牙舟を雇って木場の屋敷への帰途についた。
鍬を担いで物憂げに項垂れる娘と、鳥籠を抱えて涼しい顔をしている通人風の青年を乗せた若い船頭は、二人の風体を見回しては、一体全体どういうお客なのかとしきりに首を捻っていた。
大川を渡り、佐賀町を貫く油堀川にかかる中之橋をくぐったところで、
「兄さん、済まないんだが……」
と仙一郎が口を開いた。
「ちょいと寄り道して黒船稲荷へ寄ってくれるかい?」
「黒船ですかい。へぇ、承知しやした」
船頭は威勢よく答え、千鳥橋をくぐったところで油堀川を逸れて右に曲がり、加賀町と伊沢町の間にかかる緑橋の下をくぐった。そのまま堀を南下して、どん詰まりの松平下総守のお屋敷を左に曲がれば、じきに黒船稲荷神社に行き着く。
「すぐに戻るよ」と言って、黒船橋の袂で仙一郎は身軽に河岸に上がり、すでに黒々とした森の輪郭しか見て取れぬ神社の奥へと消えて行った。
何をしているのだろうか。温い風にざわざわと揺れる森の梢の音と、時折囀る鳥の声、それに、ちゃぷ、ちゃぷ、と舟の腹を揺らす水音を聞きながら不審に思っていると、いくらもせぬうちに予告通り青年が戻ってきた。
「……何をなさっていらしたんですか?」
「決まっているだろう。鶴屋先生のところへ寄ってきたのさ」
ひょいと舟に乗り込んで、出しておくれ、と鷹揚に船頭に声をかける。
はぁ、と要領を得ない顔で薄闇を透かして仙一郎を眺めると、上ってきた月の朧な明かりをつるつるした両目に映した主は、何かをしまってあるらしい懐をぽんぽんと叩いて、にやりと笑ったらしかった。
***
「……旦那様、そんなものをいつまで読んでいらっしゃるんですか」
茶の間でお江津と膳を片付けていたお凛は、夕餉を済ませた途端ごろりと畳に転がって、呑気に戯作本を読みふけっている主に眉を吊り上げた。新吉のことなどまるで頭にない様子ではないか。夕餉もお替わりをした上に燗酒までつけて優雅なものだ。今頃大番屋へ送られて、牢につながれてふるえているであろう哀れな板前のことなど、毛ほども案じていないのではなかろうか。
「これかい。例の怪談話だよ。ほら、差配の銀次郎さんが書いたっていう、『浅草血塗女地獄』。筆名は黒船東西。大南北にあやかったのかなぁ」
へ、とお凛は目を白黒させた。
「どういう話なのか気になるだろう? 借りてきたんだよ」
ほくほくしながら、ほれ、と本を畳に置いてお凛に向ける。うっ、とお凛は眉をしかめた。題名通りの凄まじい絵が描かれている。血塗れの女の死体がいくつも折り重なっていて、断末魔の呻き声までもが聞こえてくるかのようだ。
「嫌だ、そんな本誰が読もうと思うんですか? 書く人も書く人ですよ」
「そう? 先生は結構褒めてたよ。銀次郎さんにしちゃあよく書けてるってさ。実際、結構面白かったぜ」
類は友を呼ぶ、とお凛はげっそりした。表紙を見ないようにして、指先で本を主の方へ押しやる。
「どういう筋かというとだ」お凛の腰が引けているのにも構わず、よいしょ、と身を起こした仙一郎は嬉々として語り出した。「浅草は猿若町の甘酒屋で奉公する娘と、上野の大きな料理茶屋の跡取り息子が心中をする。親に結婚を反対されて、思いつめた末に互いの手首を縛り、山谷堀に身を投げるのさ。それが今戸橋の袂に引っかかっているのが見つかった」
相対死は重罪である。遺骸は埋葬も許されず、着物を剥ぎ取られた上近くの寺の墓地に放置されるのが常であった。近くで死なれた寺にとってもとてつもない悲劇であるが、お上の法であるから従うより他にない。そういうわけで、二人の遺骸は橋に近い慶養寺の墓地に投げ込まれたのだ。
「ところが、投げ込まれた直後に、その墓地から娘の遺骸が消えた」
「消えた……? どうやって」まさか、生き返ってとことこ歩き去ったわけではなかろう。背筋がぞわぞわするのに耐えながら訊ねると、主はあっさりと答えた。
「盗まれたのさ」
今戸町に住む貧乏絵師に、豊州という男がいた。長年修行に励んできたが、一向に名が売れぬ。決して下手ではない。公平に見て、美麗で繊細な画風はなかなかのものだと自負している。しかし、師匠に言わせると「お前の絵には魂が入っておらん。小奇麗だが、血が通っていない」というのだ。思い悩んでいた豊州の元に、ある日幽霊画の依頼が舞い込んだ。張り切って描き上げたが、「まるで気の抜けた幽霊だ」と客に突っ返されてしまう。幾度描き直しても気に入らぬと言う。弱りきった豊州は、夜の墓地をさまよって、どうにか霊感を得ようと試みる……。
「で、慶養寺に打ち捨てられた二人を見つけるわけだ」仙一郎が身を乗り出して囁いた。
──これだ、と豊州は慄然とした。青白い、哀れで凄まじい女の姿。愛慕と狂気、至福と苦痛とが同居する、これこそが我が幽霊の姿だ。
「豊州は娘に自分の着物を着せて、こっそり長屋へ背負って戻った……」
「……それで……?」
ごくり、と喉を鳴らしてお凛が顔を引きつらせると、主はすうっと凍風のような微笑を唇に浮かべた。
「見事な幽霊画を描いて、たちまち大評判になった」
恋しい男を取り殺し、愛憎にもがき苦しむ血塗れの女の霊。師匠が青ざめるほどに真に迫った、腐臭漂う生々しい絵であった。
「──で……それがすっかり癖になっちまったんだな」
煙管を取り出しながら、仙一郎は茫漠とした目で噛み締めるように言った。
「相対死が出たと聞いちゃあ、こっそり死体を連れて帰る。その度に描いた絵が評判を呼び、豊州の名声は高まるばかり。やめられないよねぇ。……だがとうとう、死体を盗んで夜道を歩いていたところをお縄になった」
町方が豊州の長屋をあらためると、床下からはおびただしい数の白骨が掘り出されたという……。
「……お、お話なんですよね。ただの。差配さんの、作り話で……」口の中が干上がるのを感じながら、お凛はぎこちなく訊ねた。
「まぁ、そうだ。それに出来はよくないねぇ。陳腐な筋書きで欠伸が出そうになっちまったよ」
とんとんと指先で本を突きながら、あっけらかんと主は感想を述べる。
「……しかし、死体の描写だけはいいね。実に真実味があってさ。……まるで、見てきたみたいに克明で、強烈なんだよ」
お凛は顔をしかめ、胸の悪くなるような想像を押さえつけた。
「そ、そんなことより……新吉さんはどうなるんですか? 早くなんとかしないと死罪になってしまうじゃありませんか。本を読んでいる場合じゃ……」
「いや、そんなこと言ったってさ、もうどうしようもないよ。私にどうこう出来るわけじゃなし。お茶」
青年は取りつく島もなく言い捨てて、再びごろりと転がるとぼりぼりと右足で左足を掻いた。
美女相手でないといつもこれだ。額から角が生えそうな心地でお凛がもう一言言ってやろうと口を開きかけた時、
「あれ……?」
突如、仙一郎が声を上げた。
「これは……いや、しかし……あれぇ?」
本を覗き込んではしきりと首を捻っている。
「何ですか、どうかなさったんですか?」
「──うーん……これはどういう……」
今度は天井を睨んで、一心不乱に何ごとかを考え込んでいた主は、やおら本を懐に突っ込むなり立ち上がった。
「ちょっと出掛けてくる」
「え、今から……?」
「富蔵、富蔵、駕篭屋を呼べ!」
ばたばたと茶の間を出て行く青年を、お凛はお江津と共にぽかんとして見送った。
***
翌朝、大川の川面にはあえかな霞がかかっていた。
きい、きい、ちゃぷ、ちゃぷ、と耳をくすぐるかすかな音が尻の下から響いてくる。霞を透かした下流を見れば、永代橋の向こう側に、江戸湊へ向かう弁才船の白い帆が幾つも風をはらんでいるのが望め、上流を向けば、荷を満載にした荷足舟や猪牙舟、釣り舟などが上り下りする様が朝日に浮かび上がって見える。時折、どこかの木から散ったのであろう桜の薄い花弁が花筏となって流れてきては、戯れるように船腹にまとわりついた。
お凛たちの乗った猪牙舟が澪を引いて進む側で、中洲や川の端の葦の茂みから、舟に驚いた水鳥が羽で水面を打っては飛び立っていく。その度に、仙一郎の膝の上で鳥籠の中の赤い鳥が落ち着きなく囀った。
猪牙舟には、お凛と仙一郎、留七親分、それに差配の銀次郎が乗っている。
「親分さん、うまいもんですねぇ。猪牙を漕げるなんてすごいじゃありませんか」
額に汗して水に竿を差している留七を見上げ、仙一郎が呑気に手を叩いた。
「ひい、はぁ、餓鬼の頃に船頭になろうと思って、ちょいと齧って以来だがよ。いや、結構きついもんだな。ていうかよ、仙一郎の旦那、なんで朝っぱらから舟なんぞ漕がなきゃならねえんだ?」
「いやだって、まさかこの私にやれってんですか? この細腕で漕げるわけないでしょ?」
「そういう意味じゃねぇ……」
やけくそのように竿を差し、親分が唸る。
今朝早く、珍しく早起きをしてきた仙一郎は、お凛を伴い堀江町の貸本屋に押しかけて御用聞きの留七を叩き起こした。その足で昨日訪ねたばかりの長介店へ向かうと、朝餉の途中の差配を強引に猪牙舟に連れ込んだのであった。
「それなら、差配さんにお願いしましょうか。ねぇ、銀次郎さん? 舟の扱いは船頭並みだそうですね。はい、よろしく」
留七から竹竿を取るなり、それを差配に押し付ける。勝手に話を進める青年を、銀次郎は訝しげに見た。
「……あのう、こいつはいったいどういうことなんでしょう? あたしたちはどこへ向かっているんで……?」
「そりゃあなた、差配さんの寮に決まってるでしょう。皆でお招きに与ろうかと思って」
けろりと答える仙一郎に、差配が唖然とした。
「はぁ……?」
「せっかく鳥も連れてきたんだし、ね?」
何が、ね?、なのだかとんとわからぬ文脈で主が言うと、銀次郎は額を強張らせた。
「そいつは以津真天じゃありませんか。あたしの家なんぞへ連れていってどうしようっていうんで……?」
「まぁまぁ。それより差配さん、『浅草血塗女地獄』、なかなかよかったですよ」
「……あれ、お読みになったんですか?」
ぐい、と危なげのない身ごなしで川底を突きながら、差配がすっとどんぐり眼を細くした。
「そうなんです。昨日、鶴屋先生からお借りしてきたんですよ。ほら」
懐からおどろおどろしい表紙の本をちらりとのぞかせ、仙一郎は無邪気に白い歯を零した。
「いや、相対死の場面も凄いが、死体の描写の凄まじいこと。挿絵もいいですね。差配さん、絵の方も達者なようで。なるほど鶴屋先生が気に入ったわけですな」
「──そう思いますか」
うふ、と粘っこい笑みが差配の唇に浮かぶのを見て、お凛は狭い舟の中で思わず身じろぎをした。
「あれはね、我ながらよく書けていると思うんですよ。なんでしょうねぇ、霊感が降りるっていうんでしょうか? 目の前に見ているかのように、生々しく情景が思い浮かんだんですよ」
「ほほう」
興が乗ったように主は身を乗り出した。
「なるほど、確かに死体の重さを肌に感じるような描写でしたね。ああいうのは、頭の中で考えているだけではなかなか書けるもんじゃないでしょうねぇ」
唇に笑みを張り付かせたまま、差配は光のない黒い穴のような瞳で青年を凝視している。
「それで私思い出したんですけど、三年くらい前に、浅草でそういう事件があったんですよ。『柳亭』を訪ねたら兄が話していたのを思い出して、昨晩実家へ行って確かめてきたんです。そうしたらね、心中した男女の遺骸が今戸橋のあたりで上がって、その上、近くの寺に投げ込まれた娘の遺骸が消えたっていうんですよ」
お凛は顔を撥ね上げて主を見上げた。昨夜屋敷を飛び出していったのは、それを確かめに行っていたのか。
「でね、柳亭がお世話になっている御用聞きの弥助親分にも話を聞きにいったら、もっと面白いことがわかったんです。なんと、つい先月に浅草で死体泥棒が出たそうなんですよ。差配さん、留七さん、ご存知でしたか?」
死体泥棒!? 何の前振りもなしに言うので、お凛の心ノ臓が危うく喉から飛び出そうになった。
「え!? そ、そうなんですか?」
「うん、そう。柳亭でも騒ぎになってたよ。親分が言うには、最近墓荒らしの噂が立っていたもんで、心配した亭主が、つい数日前に死んだおかみさんの墓を見張っていたそうなんですよ。そこに盗人が現れて、墓をくつがえしておかみさんを盗み出そうとしたからもう大変。亭主が取っ組み合って止めたそうなんですけどね、犯人には逃げられちまったらしいんだな」
それを聞いた留七親分も頷いた。
「ああ……俺も須藤様にそんな話を伺ったぜ。それがどうかしたのかい」
「どうかしたどころじゃなくて、そりゃあもう大変なんですよ」
と仙一郎が嬉しそうに言う。銀次郎は竿を置いて櫓に持ち替え、ぎい、ぎい、と漕いでは白い朝日が流れていく川面に視線を置いている。
「その時にね、その盗人が落し物をしていったんですよ。弥助親分に無理を言って貸してもらったんですけどね。それで死体泥棒が誰なのか、私にはピンと来ちまったんです」
お凛と留七は、えっ、と主をまじまじ見詰めた。
……仙一郎は何を言わんとしているのだろうか。なぜ突然と、死体泥棒事件の謎解きなぞをはじめたのだろうか。さっぱりついていかれない。
仙一郎は、「何だと思います?」と春の陽射しのごとく爽やかな笑みを浮かべた。
銀次郎は櫓をぐいと押しながら、相変わらず貝のように黙り込んでいる。
和やかな春の大川に、ちゃぷ、ちゃぷ、という耳に心地よい水音が響く。それなのに、舟の上は冷たい北風が吹きつけているかのように寒く、暗く感じられてならない。これは、一体何なのだ。お凛は船縁を両手で掴み、ぞくぞくと背筋を這い上る怖気に身震いしていた。
「……これが、落ちていたんですよ」
仙一郎が油紙に包まれた薄いものを懐から取り出した。かさかさと広げて中身を取り出すと、紙の束のように見える。犯人と揉み合った時に亭主が必死に掴んだのか、あちらこちらにくしゃくしゃと皺が寄り、無残に破れた項も見える。それを青年がゆっくりと広げると、絵と文字が綴ってあるのが目に入った。訝しげにそれを見詰めた瞬間、お凛ははっと息を飲んだ。
──『浅草血塗女地獄』
「それからこれが、差配さんが鶴屋先生に差し上げた本。先生にお聞きしましたけど、二冊作って、一冊を先生に差し上げたんだそうですね?」
仙一郎はもう一冊の本も取り出した。二冊はほとんど同一のものに思われた。いかにも素人の手による自筆の文字と、自作の挿絵。抜け落ちた項があるらしいが、この世に二つとしてこれほど瓜二つのものはなかろう。
「どういうわけで、死体泥棒が、この世にあと一冊しかないあなたの本を持っていたんでしょうね……?」
驚きとも疑いともつかぬ調子で、御用聞きが喉で唸る。銀次郎は口を噤んだまま、黙々と体を曲げ伸ばししながら櫓を漕ぐ。
誰も、口を開かない。
いつの間にか、山谷堀の入り口が左手に近づいている。その対岸に視線を向ければ、薄紅色の花弁を惜しげもなく散らす墨堤の桜並木が、ゆるい弧を描いて長く伸びる様が見渡せた。
***
今戸橋を過ぎ、日本堤に並ぶ料理茶屋の裏手にずらりと浮かぶ猪牙舟を左手に、右手に田畑と寺院を見ながら川を遡って行く。浅草寺や吉原の歓楽街が広がる日本堤とは対照的に、左岸は畑が広がり、寺社の屋根や森ばかりが目についた。
やがて元吉町が見えてきたところで、差配は舟を船着場に寄せた。岸に上がって田畑と緑の木立の中を少し歩くと、ほどなくして竹垣と枝折戸に囲われた、茅葺き屋根のこぢんまりとした屋敷が現れた。
「……どうぞ」
ぼそりと呟き、銀次郎が枝折戸を入っていく。勝手口に回り、懐から取り出した細い金棒を戸の隙間に差し入れてがたがたと揺すった。
「戸締りは厳重かい」
「いいえ、ただの心張り棒ですよ」
留七にヒヤリとした声で応じると、戸の内側で、ごとん、と棒が転げる音が聞こえた。
「あばら家ですが、お入りください」
戸を引いた男の背中が、すうっと土間の暗がりに消える。三人は無言で顔を見合わせると、留七を先頭に、静まり返った家へと足を踏み入れた。
仙一郎が抱えた鳥籠の中で、鸚哥が一声、麗々しく鳴いた。
鍬を担いで物憂げに項垂れる娘と、鳥籠を抱えて涼しい顔をしている通人風の青年を乗せた若い船頭は、二人の風体を見回しては、一体全体どういうお客なのかとしきりに首を捻っていた。
大川を渡り、佐賀町を貫く油堀川にかかる中之橋をくぐったところで、
「兄さん、済まないんだが……」
と仙一郎が口を開いた。
「ちょいと寄り道して黒船稲荷へ寄ってくれるかい?」
「黒船ですかい。へぇ、承知しやした」
船頭は威勢よく答え、千鳥橋をくぐったところで油堀川を逸れて右に曲がり、加賀町と伊沢町の間にかかる緑橋の下をくぐった。そのまま堀を南下して、どん詰まりの松平下総守のお屋敷を左に曲がれば、じきに黒船稲荷神社に行き着く。
「すぐに戻るよ」と言って、黒船橋の袂で仙一郎は身軽に河岸に上がり、すでに黒々とした森の輪郭しか見て取れぬ神社の奥へと消えて行った。
何をしているのだろうか。温い風にざわざわと揺れる森の梢の音と、時折囀る鳥の声、それに、ちゃぷ、ちゃぷ、と舟の腹を揺らす水音を聞きながら不審に思っていると、いくらもせぬうちに予告通り青年が戻ってきた。
「……何をなさっていらしたんですか?」
「決まっているだろう。鶴屋先生のところへ寄ってきたのさ」
ひょいと舟に乗り込んで、出しておくれ、と鷹揚に船頭に声をかける。
はぁ、と要領を得ない顔で薄闇を透かして仙一郎を眺めると、上ってきた月の朧な明かりをつるつるした両目に映した主は、何かをしまってあるらしい懐をぽんぽんと叩いて、にやりと笑ったらしかった。
***
「……旦那様、そんなものをいつまで読んでいらっしゃるんですか」
茶の間でお江津と膳を片付けていたお凛は、夕餉を済ませた途端ごろりと畳に転がって、呑気に戯作本を読みふけっている主に眉を吊り上げた。新吉のことなどまるで頭にない様子ではないか。夕餉もお替わりをした上に燗酒までつけて優雅なものだ。今頃大番屋へ送られて、牢につながれてふるえているであろう哀れな板前のことなど、毛ほども案じていないのではなかろうか。
「これかい。例の怪談話だよ。ほら、差配の銀次郎さんが書いたっていう、『浅草血塗女地獄』。筆名は黒船東西。大南北にあやかったのかなぁ」
へ、とお凛は目を白黒させた。
「どういう話なのか気になるだろう? 借りてきたんだよ」
ほくほくしながら、ほれ、と本を畳に置いてお凛に向ける。うっ、とお凛は眉をしかめた。題名通りの凄まじい絵が描かれている。血塗れの女の死体がいくつも折り重なっていて、断末魔の呻き声までもが聞こえてくるかのようだ。
「嫌だ、そんな本誰が読もうと思うんですか? 書く人も書く人ですよ」
「そう? 先生は結構褒めてたよ。銀次郎さんにしちゃあよく書けてるってさ。実際、結構面白かったぜ」
類は友を呼ぶ、とお凛はげっそりした。表紙を見ないようにして、指先で本を主の方へ押しやる。
「どういう筋かというとだ」お凛の腰が引けているのにも構わず、よいしょ、と身を起こした仙一郎は嬉々として語り出した。「浅草は猿若町の甘酒屋で奉公する娘と、上野の大きな料理茶屋の跡取り息子が心中をする。親に結婚を反対されて、思いつめた末に互いの手首を縛り、山谷堀に身を投げるのさ。それが今戸橋の袂に引っかかっているのが見つかった」
相対死は重罪である。遺骸は埋葬も許されず、着物を剥ぎ取られた上近くの寺の墓地に放置されるのが常であった。近くで死なれた寺にとってもとてつもない悲劇であるが、お上の法であるから従うより他にない。そういうわけで、二人の遺骸は橋に近い慶養寺の墓地に投げ込まれたのだ。
「ところが、投げ込まれた直後に、その墓地から娘の遺骸が消えた」
「消えた……? どうやって」まさか、生き返ってとことこ歩き去ったわけではなかろう。背筋がぞわぞわするのに耐えながら訊ねると、主はあっさりと答えた。
「盗まれたのさ」
今戸町に住む貧乏絵師に、豊州という男がいた。長年修行に励んできたが、一向に名が売れぬ。決して下手ではない。公平に見て、美麗で繊細な画風はなかなかのものだと自負している。しかし、師匠に言わせると「お前の絵には魂が入っておらん。小奇麗だが、血が通っていない」というのだ。思い悩んでいた豊州の元に、ある日幽霊画の依頼が舞い込んだ。張り切って描き上げたが、「まるで気の抜けた幽霊だ」と客に突っ返されてしまう。幾度描き直しても気に入らぬと言う。弱りきった豊州は、夜の墓地をさまよって、どうにか霊感を得ようと試みる……。
「で、慶養寺に打ち捨てられた二人を見つけるわけだ」仙一郎が身を乗り出して囁いた。
──これだ、と豊州は慄然とした。青白い、哀れで凄まじい女の姿。愛慕と狂気、至福と苦痛とが同居する、これこそが我が幽霊の姿だ。
「豊州は娘に自分の着物を着せて、こっそり長屋へ背負って戻った……」
「……それで……?」
ごくり、と喉を鳴らしてお凛が顔を引きつらせると、主はすうっと凍風のような微笑を唇に浮かべた。
「見事な幽霊画を描いて、たちまち大評判になった」
恋しい男を取り殺し、愛憎にもがき苦しむ血塗れの女の霊。師匠が青ざめるほどに真に迫った、腐臭漂う生々しい絵であった。
「──で……それがすっかり癖になっちまったんだな」
煙管を取り出しながら、仙一郎は茫漠とした目で噛み締めるように言った。
「相対死が出たと聞いちゃあ、こっそり死体を連れて帰る。その度に描いた絵が評判を呼び、豊州の名声は高まるばかり。やめられないよねぇ。……だがとうとう、死体を盗んで夜道を歩いていたところをお縄になった」
町方が豊州の長屋をあらためると、床下からはおびただしい数の白骨が掘り出されたという……。
「……お、お話なんですよね。ただの。差配さんの、作り話で……」口の中が干上がるのを感じながら、お凛はぎこちなく訊ねた。
「まぁ、そうだ。それに出来はよくないねぇ。陳腐な筋書きで欠伸が出そうになっちまったよ」
とんとんと指先で本を突きながら、あっけらかんと主は感想を述べる。
「……しかし、死体の描写だけはいいね。実に真実味があってさ。……まるで、見てきたみたいに克明で、強烈なんだよ」
お凛は顔をしかめ、胸の悪くなるような想像を押さえつけた。
「そ、そんなことより……新吉さんはどうなるんですか? 早くなんとかしないと死罪になってしまうじゃありませんか。本を読んでいる場合じゃ……」
「いや、そんなこと言ったってさ、もうどうしようもないよ。私にどうこう出来るわけじゃなし。お茶」
青年は取りつく島もなく言い捨てて、再びごろりと転がるとぼりぼりと右足で左足を掻いた。
美女相手でないといつもこれだ。額から角が生えそうな心地でお凛がもう一言言ってやろうと口を開きかけた時、
「あれ……?」
突如、仙一郎が声を上げた。
「これは……いや、しかし……あれぇ?」
本を覗き込んではしきりと首を捻っている。
「何ですか、どうかなさったんですか?」
「──うーん……これはどういう……」
今度は天井を睨んで、一心不乱に何ごとかを考え込んでいた主は、やおら本を懐に突っ込むなり立ち上がった。
「ちょっと出掛けてくる」
「え、今から……?」
「富蔵、富蔵、駕篭屋を呼べ!」
ばたばたと茶の間を出て行く青年を、お凛はお江津と共にぽかんとして見送った。
***
翌朝、大川の川面にはあえかな霞がかかっていた。
きい、きい、ちゃぷ、ちゃぷ、と耳をくすぐるかすかな音が尻の下から響いてくる。霞を透かした下流を見れば、永代橋の向こう側に、江戸湊へ向かう弁才船の白い帆が幾つも風をはらんでいるのが望め、上流を向けば、荷を満載にした荷足舟や猪牙舟、釣り舟などが上り下りする様が朝日に浮かび上がって見える。時折、どこかの木から散ったのであろう桜の薄い花弁が花筏となって流れてきては、戯れるように船腹にまとわりついた。
お凛たちの乗った猪牙舟が澪を引いて進む側で、中洲や川の端の葦の茂みから、舟に驚いた水鳥が羽で水面を打っては飛び立っていく。その度に、仙一郎の膝の上で鳥籠の中の赤い鳥が落ち着きなく囀った。
猪牙舟には、お凛と仙一郎、留七親分、それに差配の銀次郎が乗っている。
「親分さん、うまいもんですねぇ。猪牙を漕げるなんてすごいじゃありませんか」
額に汗して水に竿を差している留七を見上げ、仙一郎が呑気に手を叩いた。
「ひい、はぁ、餓鬼の頃に船頭になろうと思って、ちょいと齧って以来だがよ。いや、結構きついもんだな。ていうかよ、仙一郎の旦那、なんで朝っぱらから舟なんぞ漕がなきゃならねえんだ?」
「いやだって、まさかこの私にやれってんですか? この細腕で漕げるわけないでしょ?」
「そういう意味じゃねぇ……」
やけくそのように竿を差し、親分が唸る。
今朝早く、珍しく早起きをしてきた仙一郎は、お凛を伴い堀江町の貸本屋に押しかけて御用聞きの留七を叩き起こした。その足で昨日訪ねたばかりの長介店へ向かうと、朝餉の途中の差配を強引に猪牙舟に連れ込んだのであった。
「それなら、差配さんにお願いしましょうか。ねぇ、銀次郎さん? 舟の扱いは船頭並みだそうですね。はい、よろしく」
留七から竹竿を取るなり、それを差配に押し付ける。勝手に話を進める青年を、銀次郎は訝しげに見た。
「……あのう、こいつはいったいどういうことなんでしょう? あたしたちはどこへ向かっているんで……?」
「そりゃあなた、差配さんの寮に決まってるでしょう。皆でお招きに与ろうかと思って」
けろりと答える仙一郎に、差配が唖然とした。
「はぁ……?」
「せっかく鳥も連れてきたんだし、ね?」
何が、ね?、なのだかとんとわからぬ文脈で主が言うと、銀次郎は額を強張らせた。
「そいつは以津真天じゃありませんか。あたしの家なんぞへ連れていってどうしようっていうんで……?」
「まぁまぁ。それより差配さん、『浅草血塗女地獄』、なかなかよかったですよ」
「……あれ、お読みになったんですか?」
ぐい、と危なげのない身ごなしで川底を突きながら、差配がすっとどんぐり眼を細くした。
「そうなんです。昨日、鶴屋先生からお借りしてきたんですよ。ほら」
懐からおどろおどろしい表紙の本をちらりとのぞかせ、仙一郎は無邪気に白い歯を零した。
「いや、相対死の場面も凄いが、死体の描写の凄まじいこと。挿絵もいいですね。差配さん、絵の方も達者なようで。なるほど鶴屋先生が気に入ったわけですな」
「──そう思いますか」
うふ、と粘っこい笑みが差配の唇に浮かぶのを見て、お凛は狭い舟の中で思わず身じろぎをした。
「あれはね、我ながらよく書けていると思うんですよ。なんでしょうねぇ、霊感が降りるっていうんでしょうか? 目の前に見ているかのように、生々しく情景が思い浮かんだんですよ」
「ほほう」
興が乗ったように主は身を乗り出した。
「なるほど、確かに死体の重さを肌に感じるような描写でしたね。ああいうのは、頭の中で考えているだけではなかなか書けるもんじゃないでしょうねぇ」
唇に笑みを張り付かせたまま、差配は光のない黒い穴のような瞳で青年を凝視している。
「それで私思い出したんですけど、三年くらい前に、浅草でそういう事件があったんですよ。『柳亭』を訪ねたら兄が話していたのを思い出して、昨晩実家へ行って確かめてきたんです。そうしたらね、心中した男女の遺骸が今戸橋のあたりで上がって、その上、近くの寺に投げ込まれた娘の遺骸が消えたっていうんですよ」
お凛は顔を撥ね上げて主を見上げた。昨夜屋敷を飛び出していったのは、それを確かめに行っていたのか。
「でね、柳亭がお世話になっている御用聞きの弥助親分にも話を聞きにいったら、もっと面白いことがわかったんです。なんと、つい先月に浅草で死体泥棒が出たそうなんですよ。差配さん、留七さん、ご存知でしたか?」
死体泥棒!? 何の前振りもなしに言うので、お凛の心ノ臓が危うく喉から飛び出そうになった。
「え!? そ、そうなんですか?」
「うん、そう。柳亭でも騒ぎになってたよ。親分が言うには、最近墓荒らしの噂が立っていたもんで、心配した亭主が、つい数日前に死んだおかみさんの墓を見張っていたそうなんですよ。そこに盗人が現れて、墓をくつがえしておかみさんを盗み出そうとしたからもう大変。亭主が取っ組み合って止めたそうなんですけどね、犯人には逃げられちまったらしいんだな」
それを聞いた留七親分も頷いた。
「ああ……俺も須藤様にそんな話を伺ったぜ。それがどうかしたのかい」
「どうかしたどころじゃなくて、そりゃあもう大変なんですよ」
と仙一郎が嬉しそうに言う。銀次郎は竿を置いて櫓に持ち替え、ぎい、ぎい、と漕いでは白い朝日が流れていく川面に視線を置いている。
「その時にね、その盗人が落し物をしていったんですよ。弥助親分に無理を言って貸してもらったんですけどね。それで死体泥棒が誰なのか、私にはピンと来ちまったんです」
お凛と留七は、えっ、と主をまじまじ見詰めた。
……仙一郎は何を言わんとしているのだろうか。なぜ突然と、死体泥棒事件の謎解きなぞをはじめたのだろうか。さっぱりついていかれない。
仙一郎は、「何だと思います?」と春の陽射しのごとく爽やかな笑みを浮かべた。
銀次郎は櫓をぐいと押しながら、相変わらず貝のように黙り込んでいる。
和やかな春の大川に、ちゃぷ、ちゃぷ、という耳に心地よい水音が響く。それなのに、舟の上は冷たい北風が吹きつけているかのように寒く、暗く感じられてならない。これは、一体何なのだ。お凛は船縁を両手で掴み、ぞくぞくと背筋を這い上る怖気に身震いしていた。
「……これが、落ちていたんですよ」
仙一郎が油紙に包まれた薄いものを懐から取り出した。かさかさと広げて中身を取り出すと、紙の束のように見える。犯人と揉み合った時に亭主が必死に掴んだのか、あちらこちらにくしゃくしゃと皺が寄り、無残に破れた項も見える。それを青年がゆっくりと広げると、絵と文字が綴ってあるのが目に入った。訝しげにそれを見詰めた瞬間、お凛ははっと息を飲んだ。
──『浅草血塗女地獄』
「それからこれが、差配さんが鶴屋先生に差し上げた本。先生にお聞きしましたけど、二冊作って、一冊を先生に差し上げたんだそうですね?」
仙一郎はもう一冊の本も取り出した。二冊はほとんど同一のものに思われた。いかにも素人の手による自筆の文字と、自作の挿絵。抜け落ちた項があるらしいが、この世に二つとしてこれほど瓜二つのものはなかろう。
「どういうわけで、死体泥棒が、この世にあと一冊しかないあなたの本を持っていたんでしょうね……?」
驚きとも疑いともつかぬ調子で、御用聞きが喉で唸る。銀次郎は口を噤んだまま、黙々と体を曲げ伸ばししながら櫓を漕ぐ。
誰も、口を開かない。
いつの間にか、山谷堀の入り口が左手に近づいている。その対岸に視線を向ければ、薄紅色の花弁を惜しげもなく散らす墨堤の桜並木が、ゆるい弧を描いて長く伸びる様が見渡せた。
***
今戸橋を過ぎ、日本堤に並ぶ料理茶屋の裏手にずらりと浮かぶ猪牙舟を左手に、右手に田畑と寺院を見ながら川を遡って行く。浅草寺や吉原の歓楽街が広がる日本堤とは対照的に、左岸は畑が広がり、寺社の屋根や森ばかりが目についた。
やがて元吉町が見えてきたところで、差配は舟を船着場に寄せた。岸に上がって田畑と緑の木立の中を少し歩くと、ほどなくして竹垣と枝折戸に囲われた、茅葺き屋根のこぢんまりとした屋敷が現れた。
「……どうぞ」
ぼそりと呟き、銀次郎が枝折戸を入っていく。勝手口に回り、懐から取り出した細い金棒を戸の隙間に差し入れてがたがたと揺すった。
「戸締りは厳重かい」
「いいえ、ただの心張り棒ですよ」
留七にヒヤリとした声で応じると、戸の内側で、ごとん、と棒が転げる音が聞こえた。
「あばら家ですが、お入りください」
戸を引いた男の背中が、すうっと土間の暗がりに消える。三人は無言で顔を見合わせると、留七を先頭に、静まり返った家へと足を踏み入れた。
仙一郎が抱えた鳥籠の中で、鸚哥が一声、麗々しく鳴いた。
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