異世界親父騒動記

マサカド

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第二章 親父たち大陸横断する

親父たち、爆進する

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 親父たちは、暴走族になっていた。
 理由はゴーレム馬車の蜘蛛が暴走しているからだ。
「教授。どうするんだ?」
「うむ、原因不明の故障により、暴走している」
「そんなのは、見ればわかる。どう対処するか、聞いているんだ。今の所は人のいない荒野だから、ひき逃げ事故は起きないが、時間の問題なのは確実だ」
「砂漠を乗り越えたと思ったら、今度はマシントラブルであります」
「すでに近くの村の人々は新種のモンスターが暴れているとパニックを起こしているでござる」
「影。いつの間にそんな事がわかったんだ。暴走してからずっと馬車の中にいただろう」
「忍者の技能の一つである“聞き耳”を使ったでござる。ブドウ殿」
「影の言う事が本当なら、まずいぞ」
「何がまずいのかね?村正」
「これまでの経験上こんな時に限って余計な奴らが来て状況を悪くするんだ」
 村正の勘は間違っていなかった。
 親父たちの乗っている馬車の後方から砂煙をあげて、馬に乗った集団が現れた。
「西部の警察隊が登場って所だな」
「四十人はいるようだが、どうする?馬車から身を乗り出してジェスチャーでもするか?」
「たぶん、身を乗り出した瞬間撃たれるであります」
「うむ、ここは馬車の中にいた方が安全だ」
「いまの所は、追いかけているだけのようでござるよ。聞き耳を使っても何の会話も聞こえてこないでござる」
「あの警察隊は監視の為に我々は追いかけているのか?」
「うむ、そのようだな。今の所は我々にとっても彼らにとっても安心だ」
 しかしこの時を楽観的解釈を後悔する事になる親父たちであった。

 一時間後。
「困ったな」
「困ったでござる」
「うむ、いったい彼らは何を考えているんだ?」
「肯定であります」
「警察隊の数が五倍にも増えるとは」
 そう親父たちの馬車を追いかける集団は最初の四十人から二百人に増えていたのだった。
「最初から監視ではなく、増援部隊を待っていただけのようだな」
「増援を待って新種のモンスターと思っている自分たちを一気に叩く作戦のようですが、妙であります?」
「なにが妙なんだ軍曹」
「最初の警察隊はともかく、増援の方はどうやって我々の位置がわかったのか?それが妙であります」
「うむ、言われてみれば、確かに妙だな。この広大な荒野で無線機はおろか、伝書鳩さえ持っているようには見えない彼らが我々の正確な位置を把握しているのは妙だ。我々の知らない何かを彼らは持っていることになる」
「聞き耳を使っても情報が入ってこないでござる」
「そんなことは、この場を逃げ切ってから考えればいい。奴らボウガンを構え始めたぞ」
 そんな会話をしている間にも状況は親父たちにとって悪い方向へと向かっていき、渓谷に追い詰められていった。
「まずいでござる!」
「何言っているんだ影。現在進行形で充分マズイ状況だろう」
「この先行き止まりでござる」
「な、何言っているんだ。この状況で悪い冗談はやめろ」
「本当でござる。この道はない行き止まりでござる」
「ほ、本当にそうなのか?まさかそれも忍者の技能って言うんじゃ……」
「そうでござる。忍者の技能の一つ“遠目”を使ったでござる」
「どうする教授。馬車は暴走しているし、馬車から飛び降りようにも、このスピードじゃ飛び降りれないし、飛び降りる幅はない。おまけに後ろの警察隊が矢の雨を降らせている」
「うむ、仕方がない」
 教授はそう言って、操作レバーの一つを倒した。
「馬車をオート(自動操縦)にした。全員馬車にしっかりと捕まっていたまえ」
「悪い予感しかしない」
「肯定であります」
「しかし、他に選択肢はない」
「しかたがないでござるよ」
 そう言って親父たちは馬車の様々な場所に捕まった。
 やがて馬車は行き止まりにまで辿り着き、あとは壁に猛烈なディープキスをくらうだけだと、親父たちは覚悟したが馬車は直角に進んだのだった。
「ど、どうなっているんだ?」
「馬車が壁を登っている?」
「肯定であります」
「壁走りをしているでござる」
 この光景を後ろから見ていた警察隊も驚いていた。
 そんな中、教授だけが余裕の表情で説明した。
「うむ、驚いたかね諸君。この馬車はオートにすると、自動的に障害物を避けたりするように作っていたのだよ。伊達に八本足をしているワケではないのだ」
「「「「そんな機能があるなら。最初に説明してくれ(ござる)」」」」
「説明したらこの手段に賛成したかね?」
「「「「…………」」」」
 教授の問いに全員が無言になる。
「そう言えば、警察隊はどうなったんだ?」
 そう言って村正が下を見ると、そこは地獄絵図だった。
 先頭の警察隊は親父たちの馬車に驚いて、壁とのディープキスは免れてたが、後方で状況を知らない警察隊と衝突していたのだった。
 そこにまた後方から来た警察隊が衝突する悪循環。
「車も馬も急には止められないを体を張ってみせている地獄の光景だな」
「うむ、さしずめ我々の状況は蜘蛛の糸と言うところだな」
「今夜、夢に出てきそうな光景だな」
「悪夢でござる」
「肯定であります」
 こうして親父たちは危機を脱したかに見えたが、ゴーレム馬車“蜘蛛”はいまだに暴走していた。

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