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第一章 勇者誕生

第十四話 来ないでモフモフの村

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前回までのあらすじ
勇者に覚醒したモフちゃんと共に、次の国へ向かう為に国境に向かったシンタローたちだったが……。

 うっそうと茂る森の中を俺達は歩いていた。
「あのシンタローさん?」
「なんだ?エドモント」
「なんで我々はこんな森の中を歩いているんですか?」
「モフちゃんが先頭を歩いているからだ!」
「そうだよ。エドモントは物忘れが激しいね!」
「ノエルさん!私が言いたいのは、なんでモフちゃんさんの暴走を止めないのか、シンタローさんに聞いているんです」
「そこで漫才しているなら、置いて行くぞ!」
 そう言って俺は、モフちゃんを見つめた。
 モフちゃんは相変わらず、俺の作った冠とマントを装備している。
 そして、その表情はどこか嬉しそうだった。
 数時間前に俺達は国境に向かってサバイバルカーを走らせていたのだが、突然モフちゃんが興奮状態に陥り、車を停止したら、外に出てこの森に入っていた。
 俺達はそんなモフちゃんを追いかける形で森に入って今の状態にある。
「シンタローさん!森の奥が光っていますよ!」
「やっと森を抜けるようだな!」
「あ、モフちゃんの足が速くなった!」
 俺達はモフちゃんに合わせて森を抜けた。
 森を抜けた先には村があった。
 ただし、そこは人の村ではなく、レッサーベアの村だった。
「もしかしてここが、モフちゃんの故郷?」
「シンタローさん!これはすごいですよ!」
「エドモント!そんなに興奮して、何がすごいんだ?」
「長年のレッサーベアに関する生態系の謎が解き明かされたんですよ。これを学会で発表すれば歴史に名が残ります」
「そんなにすごいことなのか?」
「ええ、レッサーベアが独自の文化を持っているかもしれないと、長い年月議論されてきましたが、一気に解決したんですよ。やはりレッサーベアは高い知能を持った生き物でした」
「それ、モフちゃんを見ていたら、わかることじゃないのか?」
 モフちゃんは俺たちの言葉を理解しているし、ノエルの世話や道具も使いこなしているのを俺達は見ている。
「いいえ、モフちゃんさんだけ特別(勇者)なのかもしれなかったので、ここにいるレッサーベア達によって立証されました!」
 俺はエドモントの興奮を理解することはするよりも、モフちゃんがどこに行ったのか?辺りを見回した。
 すぐに見つかった。
 俺の作った勇者装備をしたまま、モフちゃんよりも一回り大きな二匹のレッサーベアに抱きしめられている。
「もしかしてモフちゃんの両親か?」
「感動の再開ですね!」
 その光景を見ていた周りのレッサーベアも「よかったね」という鳴き声を上げていた。
 しかし、一つの疑問が浮かんだ。
「エドモント!」
「なんですか?シンタローさん」
「ノエルはどうしたんだ?」
「そういえば、やけに静かですね?」
 モフモフを愛してやまないノエルが静かなのはおかしいと思った俺達は振り向くと、ノエルはそこにいた。
 しかし目が血走っていた。
「ノエル!落ち着け!!」
 俺の大声と共にレッサーベアたちは一斉に俺たちの方向を見た。
 レッサーベア達は本能的に危険を察知し、俺の後ろに全員が隠れた。
 そう全員が隠れた。
「何で?エドモントまで俺の後ろに隠れるんだ!しかも一番後ろに!」
「だって、ノエルさんが怖いんですよ!」
「お前が襲われる心配ないだろうが、少しはレッサーベア達を見習え!」
 レッサーベアたちは大人が前に出て、子供を後ろに隠し、子供達は自分たちより年下の子たちを守るように並んでいた。
「モ……フ……モ……フ……!」
 ノエルはゾンビのような足取りで、両手はワキワキと動かしている。
 完全に危ない人だ。
「ノエル!やめろ!」
 俺はレッサーベアに向かってくるノエルを体を張って止めるがノエルはそのまま前進を止めない。
「ノエル!落ち着け、それでも勇者(見習い)か!」
「モ……フ……」
 俺の説得の言葉をノエルは全く聞いていない。
「シンタローさん!今のノエルさんはレッサーベア達をモフモフすることしか頭にありません!」
「つまり、ノエルの暴走を止めるにはレッサーベア達を犠牲にするしかないのか?」
 レッサーベアの大人たちは怯えながら、スクラムを組み、子供を守るように固まっていたが、一匹だけ、俺たちの方向へ飛び出した。
「「モフちゃん(さん)!」」
 モフちゃんは俺の体をよじ登り、ノエルの顔面にモフモフした尻尾を当てた。
「モフモフ!!」
 効果は抜群。
 ノエルに効いているだが、決定打ではない。
 モフちゃんを抱き締めたまま、ノエルは前進する。
 おびえるレッサーベア達、何もしていないエドモント、ブロックが役立たない俺。
 だが、次の瞬間、奇跡が起きた。
 モフちゃんが大きくなった。
「「え?」」
 俺とエドモントが呆気にとられているのをよそに、大きくなったモフちゃんは体全体を使ってノエルを包むように抱き締めた。
「モフモフ天国!」「モフモフ天国!」「モフモフ天国!」「モフモフ天国!」「モフモフ天国!」「モフモフ天国!」「モフモフ天国!」「モフ天国!」「天国!」「国!」
 天国と連呼するノエル。
 やがて天国と連呼していたノエルの声が聞こえなくなり、モフちゃんは元のサイズに戻った。
 俺と安全だと判断したのか?エドモントがモフちゃんも
「モフちゃん。大丈夫か!」
「モフちゃんさん。ソレはどうしたんですか?」
 見ればモフちゃんの胸からお腹にかけて、血がついていた。
「モフちゃん!まさかノエルのせいで怪我を……ノエル!お前何考えている……」
 俺がノエルに対して怒りをぶつけようとするが、すぐさま否定するモフちゃん。
 ノエルの方を見れば、ノエルは恍惚した表情で鼻血を流していた。
「……モフちゃん。もしかしてソレはノエルの返り血ならぬ返り鼻血がついただけなのか?」
 首を縦に振り、すぐさま肯定するモフちゃん。
 俺とエドモントは緊張の糸が切れて、ズッコケた。
「はた迷惑な勇者(見習い)だ!」
「確かにこんなのが勇者(見習い)じゃ、世も末ですね!」
 俺達はこの後、鼻血を垂れ流すノエルの手当てや、鼻血がついたモフちゃんの洗浄に追われることになるのだった。
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