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番外編

番外編 年越しそばとお年玉

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 野営地で俺はある料理を作っていた。
 そう今日は大晦日。
「シンタローさん。今日の晩御飯のコレはなんですか?」
 エドモントが俺にそう訊ねて来た
「これは俺の世界でいうところの年越しそばというものだ」
「年越しそば?」
「今日は俺の世界では大晦日だからな。年越しそばを食べるのが、風習になっているんだ」
「そうなんですか?変わったた食べ物ですね」
「ハシが駄目ならフォークを使ってくれ、今日は大晦日だから奮発して、大きな海老の天ぷらをそれぞれのそばに二尾のせた」
「海老の天ぷらとはなんですか?」
「甲殻類の揚げ物だ。せっかくの料理が冷めるから黙って食べろ」
 こうして食事が始ったが、俺は驚愕することになるエドモントとノエルはフォークを使って、そばを食べているが、モフちゃんが意外にもハシを器用に使っていた。
「モフちゃん。ハシが使えるのか?」
 俺の質問にモフちゃんは「もちろん」という鳴き声をあげて答えた。
「シ、シンタローさん!!」
「今度は何だ?エドモント」
 エドモントが俺に詰め寄って来た。アンデッドで表情がわからないはずなのに、俺にはその顔が驚愕していることを理解した。
「こ、この海老の天ぷら……」
「なんだアンデッドなのに、海老アレルギーだったのか?」
「めちゃくちゃおいしいです。お代わりください」
「ボクも」
「キュル」
「そっちか!しかもノエルもモフちゃんも海老の天ぷらだけお代わりしたいと!」
 全員が無言で首を縦に振り、俺は無言の圧力に屈し、ポイントを使ってえび天を取り寄せた。
「まさか異世界でも海老の天ぷらでチャップリンと同じようなことがおきるとは?」
 そう言って、俺は三人に一本ずつ海老の天ぷらをを渡したが、問題はそれだけで終わりにはならなかった。

 次の日の元旦。
 初日の出を拝むために俺は夜明け前に起きて、朝食とある物の準備をしていた。
 やがて朝日は昇り、朝食の手伝いをしていたモフちゃんと睡眠が必要としないエドモントの三人で異世界の初日の出を見た。
「シンタローさんの世界では変わった風習がありますね。朝日を見るために早起きするなんて!」
「縁起をかつぐ民族だからな、徹夜する人もいるし、珍しいことではないさ。ノエルを起こして、朝ごはんにしよう」
「そうですね」
「キュル」
 俺の今日の朝ごはんはこの流れなら、雑煮とおせちになるはずだったのだが、昨夜の海老の天ぷらの影響を考慮して、普通のパンとスープにした。
 またお代りを要求されたら、ポイントがいくらあっても足りない。
 朝ごはんを食べ終えた俺はモフちゃんにある物を渡した。
「モフちゃん。ちょっとこっち気に来なさい」
「キュル?」
 モフちゃんは首を傾げ、俺の所に来た。
「モフちゃん。これからやることは俺の世界での風習だから、黙って受け取るように」
 モフちゃんは「わかった」という鳴き声で答えてくれた。
「では、モフちゃん。お年玉をあげよう」
 俺はモフちゃんにティッシュで包まれたある物を渡した。
 モフちゃんはそれを受け取って、中身を確認。
 予想通りモフちゃんは驚きの目で俺を見つめた。
「シンタローさん。一体モフちゃんさんに何を上げたんですか?」
「お年玉だ」
「だから、そのお年玉とはなんですか?」
「俺の世界の風習でお正月と呼ばれる時期に大人が子供にお金をあげる風習があるんだ」
「そうなのですか?でもモフちゃんさんにお金をやっても意味はありませんよ?」
「そこは別の物を用意して対処した。俺も小さい頃もらった物だ」
「モフちゃんさん。一体何をもらったんですか?」
 エドモントの質問にモフちゃんはティッシュから取り出したのは飴だった。
「それはハチミツ飴だ。小さい頃はお年玉はお菓子をもらう物だと思っていたからな。甘味の方がモフちゃんも喜ぶって、ノエルとエドモントなんだその手は……まさか?」
「「お年玉頂戴!!」」
「またクリスマスの繰り返しか!」
 ノエルとエドモントは両手を出して期待の眼差しを向ける。
「クリスマスの時から予想していたが、まさかここまで予想通りとは」
 俺はため息を吐きながら、あらかじめ二人に用意していたハチミツ飴を渡した。
 二人とも喜んだが、何となく納得がいかない俺にモフちゃんが同情してくれた。

※チャールズ・チャップリン
イギリス出身の喜劇王。日本に来た時、某天ぷら屋さんで海老の天ぷらを一度に三十尾以上食した記録の持ち主。
エドモント「わ、我々の十倍」
ノエル「ニンゲンユルスマジ」
シンタロー「ノエル。おまえ本当に勇者(みならい)か?」
モフちゃん「キュル」(やれやれ)

教訓 異世界でも食べ物の恨みは怖い。
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