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恋愛スキルは子供以下

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 あの後、戻ってきた副団長は直ぐに王太子殿下に付き添ってどこかへ行ってしまった。どんな顔で会えばいいのかと戸惑っていたところなので、酷くホッとした私だった。
 クラリスの事も、副団長の気持ちも、子供が出来ない原因も、サラさんが男性だという事も、一つだけでも衝撃的なのにこんなに重なると、消化するのに時間がかかりそうだ…
 その後も殿下の訪問の影響で慌ただしく一日が過ぎたけれど、副団長と顔をわせる事はなかった。

 湯あみを済ませ、寝る準備を済ませたら一気に疲労感が押し寄せてきた。力なくベッドに倒れ込んだ。色んな新事実があったけれど、仕事中は忙しくて思い出す暇もなかった。こうして一人になってようやく、それらの事を考えられる…最初に浮かんだのは…やはり副団長の事だった。

(私を…好き…)

 心の中で繰り返してみたけれど、やっぱり信じられない気持ちだった。彼の態度から私への好意を感じた事がなかったからだ。そりゃあ、今は上司と部下としての関係は悪くないと思うけど、ふりとは言え婚約者というにはあまりにもドライな関係だと思う。ふりをする機会がないのもある。

(そう言えば、婚約はどうなったんだっけ?)

 先日、母達を交えて報酬の話し合いがあった。あの時は母が激高して、結局あの話は有耶無耶のまま…だ。母達は責任を取って結婚しろの一点張りだし、副団長はそれを拒否して話は平行線のまま終わっていた。あれから母達は舞踏会に行くと張り切っているけど…
既に目的は達したし、婚約も白紙になるのではないだろうか…もう終わる関係なら一緒に舞踏会に出るのもおかしな話だ…そう思うと一気に寂しさに襲われた。

(マズいなぁ…嫌な女になっちゃいそう…)

 はぁ…と大きなため息が出た。自覚したくなかったけれど、母達が責任をとれと副団長に詰め寄っているのを嬉しく感じる自分がいる。母を強く諫められなかったのは、私の弱さとズルさのせいだ。そんな形で結婚しても、誰も幸せになんかなれないのに…

(アリソン様だったら…喜んで受け入れたんだろうなぁ…)

 ふと、彼を慕っていた彼女を思い出した。今は幽閉されている彼女を哀れに思う一方で、一心に思いのままに突撃出来るあの行動力が羨ましくも思えた。私は色々考え過ぎて結局動けないから。今だって、こうしてうだうだ考えているだけだ…

(…そう言えば…)

 以前、副団長に貰った、首から下げているネックレスを手に取った。彼が魔術で作ったと言う青い石は彼の瞳の色と同じで、その中に彼と同じ髪色の金が煌めいていた。アリソン様に攫われた時、これのお陰で私の居場所が分かったと聞いて驚いたけれど…

(本当に、お守りだったわね)

 もしこれがなかったらあの破落戸たちに襲われて、殺されていたかもしれない。ジョエルも助からなかっただろう。そういう意味でも本物のお守りだ。そして、私と副団長を繋ぐ唯一の糸のようにも思えた。

(好き…好きです…)

 石を両手で包み込み、その手を口元に持ってきて、祈る様に心の中で呟いた。何となく、声に出すとこの石を介して彼に伝わってしまいそうだったから、それは出来なかった。でも、思うだけなら大丈夫だろう。

 ふと、殿下の言葉が蘇った。私を好きだと言うのが本当なら、この想いを諦めなくてもいいのだろうか…結婚しないで仕事に生きると決めていた。結婚どころか恋愛だって自分には無縁のものだと思っていたから。でも、思いがけず好きだと自覚して、二度も関係を持ってしまったから、その思い出だけで十分だと思っていたけれど…

「…好き、です。副団長、好き…」

 思い切って、声に出してみた。私にとってはとてつもなく勇気が要る事だったけれど、殿下に踊らされているような気もしたけれど、これは私の偽りのない本心だ。馬鹿馬鹿しいほどに小さな、小さすぎる一歩だったけれど、何だか清々しい、吹っ切れた気持ちになった。

(私の恋愛スキルって、子供以下かも…)

 十歳児の方がもっと恋らしい恋が出来ているような気がする。そう思ったけれど、これが私なのだから仕方がない。その日は副団長の事を想いながら眠りについた。どうかこの想いが通じますように…ポンコツな私が一歩を踏み出せますようにと願いながら。



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