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現実味のない話

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 殿下の言葉に驚いて、暫くの間殿下のお顔をまじまじと見つめてしまった。殿下は副団長の出自を知っているだろうなとは思っていたけれど、私がそれを知っていると殿下がご存じだった事に驚いたからだ。

「紫瞳を持たない王族の存在を認めさせるのは難しいだろう。だから妃には強い意志を持ち、私と同じ様に考えてくれる方をと考えているんだよ」

 なるほど、それでクラリスの人となりを…という訳か。確かに紫瞳を尊ぶ選民意識の強い令嬢は論外だろうし、批判に負ける弱い方も無理だろう。そういう意味ではクラリスなら問題ないと思う。でも…

「確かにルナール侯爵令嬢はしっかりしていますし、批判も受け流すタイプです。ですが、紫瞳についてどう考えているかまでは…」
「でも、自分の産んだ子が紫瞳でなかったら…その子を否定するような人だろうか?」
「それはあり得ません。彼女はそんな事で我が子を区別するような事はしません」

 そう、クラリスは情が深くて面倒見がいいから、我が子をそんな理由でいなかった事にするなど決して許さないだろう。子供のためなら他国にだって逃げそうな気がする。

「そうか。だったら安心だ」

 そう言って殿下が笑ったけど、これでいいのだろうか。でもまぁ、彼女ならどうしても嫌だったら嫌だと突っぱねるだろう。それくらい強くなければ王宮で働くなんて無理だし。でも…

「ああ、無理強いする事はないから安心して。彼女の気持ちを尊重すると約束しよう」
「あ、ありがとうございます」
「私の事はこれでいいとして…今度はエリー達の事だな」
「私、達?」
「アレクの事、実際どう思っているんだい?」
「……は?」

 それを聞かれるとは思わなくて直ぐに反応出来なかった。どうって…どうって…どういう意味?

「アレクはエリーの事が好きなのに、頑なに否定するからさ」
「………すっ?!」

 そ、それは一体…いや、公爵夫人もそれらしい事を仰っていたけど…

「アレクは…両親が祖父に頼んで見逃して貰った子だ。ただ、その代価として子が出来ない毒を飲まされた」
「ど…!」
「王家に伝わる秘毒だ。残念ながら解毒剤はない。そして私の影も務めている。子も出来ず、相手を危険に晒すからと、徹底して人を寄せ付けないんだ」
「……」

 確かにそのような立場なら…そう考えても不思議じゃない、と思う。私がその立場でも、同じように考えたかもしれない。でも…

(でも…す、好きって…私を?副団長が?)

 それこそあり得ないと思う。だって私は…それに…

「あ、あの、殿下?でも副団長には恋人が…」
「はぁ?恋人?アレクに?」

 何だろう、凄く驚かれてしまったのだけど。でも、あの二人の親密な様子を見ていなかったらそう思っても不思議ではないのかもしれない。

「恋人って…」
「あの…サラさんという美人さんです。副団長と親しそうでしたが…」
「サラだって?!」

 殿下もサラさんをご存じだったらしい。でも…どうして驚いているのだろう。もしかして殿下の前ではそんな素振りは見せていない、とか?

「エリー、あれは…男なんだ」
「…は?」

 お、男って…男性って事?あんなに美人なのに?

「あれは変装しているからで、れっきとした男だ。どこの誰かは言えないが…背も高いし声も低かっただろう?」

 そう言われてみれば…女性にしては背が高かったし声も低かったけど…あんな美人が男性だったなんて。そう言えば副団長はすごく否定していたけど…あれは照れ隠しでもなんでもなく、単なる私の早とちり…だった?

「アレクの側にいるのは楽じゃないだろう。でも、私にとってはたった一人の可愛い弟だ。エリーにこんな事を言える立場ではないのだけど…君がもし彼に好意を持っているのなら…前向きに考えてくれないかな?」

 最後にまた殿下に頭を下げられてしまったけど…あまりにも思いがけない話に、足元がふわふわして雲の上にいるみたいで、酷く現実味がなかった。



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