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公文書の取り交わし
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とりあえず自分が置かれた状況は理解した。まだ消化が追い付いていないけれど概ね理解したし、納得もした。ただ…だったら普通にそう説明してくれればよかったじゃないかと思ったのだけど、さすがに殿下の前でそれを問い詰めるのは憚られた。この件は後でじっくり問い詰めてやる、と心に誓った。
「ああ、そう言えば公文書を交わすんだったんだよね?」
「ええ、そうしないと協力しないと言い張るもので…」
そう言えば今日はその為にここに来たのだった…と思い出したけど…
(ちょっと、その言い方だと私が我儘を言っているみたいじゃない!)
こうなった原因は天敵の方にある、と私は思っているだけに心外だ。でも…
「エリーのその現実的でしっかりしたところ、いいよね」
「そ、そうでしょうか…」
意外にも殿下に褒められてしまった。これは褒め殺しとか社交辞令ではないと思いたい。有難い事に公文書は殿下の承認の上で恙なく交わせた。よかった、殿下が間に入って下さったのなら反故にされる心配はないだろう。それに、殿下の御ために働けるならそれは臣下として非常に光栄な事だ。
「ほかに何か気になる事はないかな?」
公文書を交わした後、何と殿下自らそうお尋ね下さった。下々の者にまで気を使って下さるなんて、何て立派な方なのだろう。高位貴族には威張り散らすのがあるべき姿だなんて思いこんでいる馬鹿が多いけど、殿下は腰が低くて気遣い上手で、まさに上司の鏡だと思う。奴のためではなく殿下のために働けるのも尊い…
「ありがとうございます。気になると言っても…」
そう言いかけて、私はとある事に気が付いた。でも…それをここで言ってしまっていいのだろうか…
「どうした?気になるなら言ってくれ。その方がお互いに気持ちよく過ごせるだろう?」
「あ、ありがとうございます。では、一つだけ…」
そう言って私は、王女殿下が奴との婚約を望んでいるという噂について尋ねた。もし本当なら殿下はどう思っていらっしゃるのかも聞いておきたい。自分の今後の立ち位置にも大きく影響するのだから。
「アリソンか…そう、だな」
何だろう、言い難い事なのだろうか…殿下も何だか言い難そうだし、奴も口を開こうとしないから、嫌な予感が増していった。
「…アリソンとアレクの婚約はあり得ないんだ。アリソンがいくら望んでもね」
「それは、一体…」
「…その理由は、アリソンも知っているんだけどね…」
そう言って殿下は力なく笑った。殿下の表情から何となくだけど、その理由は聞かれたくないように見えた。
「答えになっていないかもしれないけど、アリソンの事は気にしなくていい。いくらアリソンが望んでも陛下もお許しにならないし、アレクもその気はないから」
「そうですか」
とりあえず問題はないらしい。まだ王女殿下が諦めていないのが不安の種ではあるけれど、陛下がお許しにならない上、天敵も望んでいないのであればどうしようもないだろう。
侍従がそろそろお時間です、と殿下に声をかけられたので、私は見送ろうとして立ち上がった。
「アレクとの婚約は仮のものなんだろう?」
「もちろんです」
「この件が片付いたら白紙にする予定ですよ」
私が答え、奴もそれに同意した。これは期間限定の仮初のもので実はない。
「だったら、白紙になったらエリーに婚約を申し込もうかな」
「………は?」
殿下にそう言われたけど、またしてもその言葉の意味を直ぐに処理出来なかった。
「はぁ?こいつを王太子妃に、ですか?」
「ああ、婚約者とは実家の不正の発覚で白紙になったからね」
「いや、だからってこいつは…」
「エリーなら優秀だし立派に務められるだろう。母上もお喜びになるだろうし」
「あ、あの…殿下、何を…」
「ああエリー、返事は急がないから。考えておいてくれると嬉しいな」
そう言って殿下は笑顔を向けると、侍従に促されて部屋を出て行ってしまった。
(…え…え…ええええっ?!)
天敵と二人部屋に残された私だったけれど…私は暫く呆然と殿下が消えていったドアを眺めるしか出来なかった。
「ああ、そう言えば公文書を交わすんだったんだよね?」
「ええ、そうしないと協力しないと言い張るもので…」
そう言えば今日はその為にここに来たのだった…と思い出したけど…
(ちょっと、その言い方だと私が我儘を言っているみたいじゃない!)
こうなった原因は天敵の方にある、と私は思っているだけに心外だ。でも…
「エリーのその現実的でしっかりしたところ、いいよね」
「そ、そうでしょうか…」
意外にも殿下に褒められてしまった。これは褒め殺しとか社交辞令ではないと思いたい。有難い事に公文書は殿下の承認の上で恙なく交わせた。よかった、殿下が間に入って下さったのなら反故にされる心配はないだろう。それに、殿下の御ために働けるならそれは臣下として非常に光栄な事だ。
「ほかに何か気になる事はないかな?」
公文書を交わした後、何と殿下自らそうお尋ね下さった。下々の者にまで気を使って下さるなんて、何て立派な方なのだろう。高位貴族には威張り散らすのがあるべき姿だなんて思いこんでいる馬鹿が多いけど、殿下は腰が低くて気遣い上手で、まさに上司の鏡だと思う。奴のためではなく殿下のために働けるのも尊い…
「ありがとうございます。気になると言っても…」
そう言いかけて、私はとある事に気が付いた。でも…それをここで言ってしまっていいのだろうか…
「どうした?気になるなら言ってくれ。その方がお互いに気持ちよく過ごせるだろう?」
「あ、ありがとうございます。では、一つだけ…」
そう言って私は、王女殿下が奴との婚約を望んでいるという噂について尋ねた。もし本当なら殿下はどう思っていらっしゃるのかも聞いておきたい。自分の今後の立ち位置にも大きく影響するのだから。
「アリソンか…そう、だな」
何だろう、言い難い事なのだろうか…殿下も何だか言い難そうだし、奴も口を開こうとしないから、嫌な予感が増していった。
「…アリソンとアレクの婚約はあり得ないんだ。アリソンがいくら望んでもね」
「それは、一体…」
「…その理由は、アリソンも知っているんだけどね…」
そう言って殿下は力なく笑った。殿下の表情から何となくだけど、その理由は聞かれたくないように見えた。
「答えになっていないかもしれないけど、アリソンの事は気にしなくていい。いくらアリソンが望んでも陛下もお許しにならないし、アレクもその気はないから」
「そうですか」
とりあえず問題はないらしい。まだ王女殿下が諦めていないのが不安の種ではあるけれど、陛下がお許しにならない上、天敵も望んでいないのであればどうしようもないだろう。
侍従がそろそろお時間です、と殿下に声をかけられたので、私は見送ろうとして立ち上がった。
「アレクとの婚約は仮のものなんだろう?」
「もちろんです」
「この件が片付いたら白紙にする予定ですよ」
私が答え、奴もそれに同意した。これは期間限定の仮初のもので実はない。
「だったら、白紙になったらエリーに婚約を申し込もうかな」
「………は?」
殿下にそう言われたけど、またしてもその言葉の意味を直ぐに処理出来なかった。
「はぁ?こいつを王太子妃に、ですか?」
「ああ、婚約者とは実家の不正の発覚で白紙になったからね」
「いや、だからってこいつは…」
「エリーなら優秀だし立派に務められるだろう。母上もお喜びになるだろうし」
「あ、あの…殿下、何を…」
「ああエリー、返事は急がないから。考えておいてくれると嬉しいな」
そう言って殿下は笑顔を向けると、侍従に促されて部屋を出て行ってしまった。
(…え…え…ええええっ?!)
天敵と二人部屋に残された私だったけれど…私は暫く呆然と殿下が消えていったドアを眺めるしか出来なかった。
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