17 / 116
神様、詰め込み過ぎです!
しおりを挟む
あの後、アルノワ殿は鬼と化した団長に魂が抜けるほど叱られたあと、丸一日懲罰牢に入れられた。それから始末書と二度と暴力を振るわないとの誓約書の提出、そして三か月の減給処分となった。
「団長、アルノワ殿への処分、軽すぎませんか?」
憤ってくれたのはエミール様だった。天使の外見をした彼は性格も優しく、私の事なのにわが身の様に怒ってくれた。そしてアルノワ殿に強く言えなかった事を謝られてしまった。可愛い…そして尊い…
「俺としてももう少し重い処分を…と思ったんだが、騎士同士だとこんなもんだからな。それにああいうタイプは逆恨みするだろう?ミュッセ嬢の安全を思うとな…」
「それは…そうですけど…」
なおも不満のエミール様だったけれど、そんな風に言って貰えただけでも私としては十分だった。前の職場では何かあっても誰も庇ってくれなかったから。
それに団長の言う通りだった。ああいうタイプは無駄にプライドだけは高く、逆恨みするとしつこくて面倒くさいのだ。だからこの件は後で団長に相談するつもりだった。団長のお人柄なら、彼に気付かれない様に上手く対応してくれると思ったから。
「アルノワにもきつく言っておいたから、もう絡んでくることはないだろう。もし何かあったら俺に直ぐに言ってくれ」
「ありがとうございます」
団長ってばイケメンだけど、中身もイケメンだった。頼りがいのある上司、なんて素敵な響きだろう。騎士団に異動になってよかった、と思えた瞬間だった。
実際、団長に何を言われたのか、彼が私に絡んでくることもなくなった。平和で有難い。このまま絡む事なくどこかに行ってくれればいいのに、と思う。
そして、もう一つ予想外な事があった。あの天敵が何かと私に構うようになったのだ。その始まりは、アルノワ殿に殴られた直後からだろうか…
「ほら、座って」
「は?」
「いいから。座ったらそのままじっとして」
「な、なにを…」
「何って、治療。女性が顔を腫らしたままなんてダメだろう?」
「ええっ?」
アルノワ殿が懲罰牢に連れていかれた後、執務室で私はソファに座らされた。何かと思って見上げたら、奴の手のひらの前にほんのりと何かが光っているように見えた。
「…そ、それって…」
「ああ、治癒魔法。初めて?」
「…え、あ、はい…」
こいつが魔力持ちだとは知っていたけれど、まさか治癒魔法が使えるとは思わなかった。この世界では魔力を持って生まれる者がいるけど、とても希少で珍しいのだ。我が国でも何人いるか…というレベルで、その中でも治癒魔法が使えるのはもっと貴重だと聞いた。そんなレアな力を、この男が…?
(どこまで神様は依怙贔屓してんのよ…!)
顔も頭もよく、公爵家の出で剣の才能もあり、しかも魔法もって…神様、こいつに詰め込み過ぎだろう…ズルいなんて言うのは幼稚だとは思うけど、何も持たない身としてはやさぐれたくなるレベルだ…
「さ、出来た。これでもう大丈夫だ」
「……え?もう?」
「ああ。どうだ?痛みや違和感はないか?」
私が心の中でこいつと神様に毒づいている間に、治療が終わったらしい。
「違和感、特には…え?あれ、痛く、ない?」
恐る恐る頬に触れてみたけど、さっきまでの熱を持った痛みが引いている気がした。触るどころか軽く抓っても…痛くない。
「あ、ありがとう、ございます」
ここはきちんとお礼を言うべきだろう。いくら天敵でもそれとこれとは話が別だし。
(でも…最近は女性との噂も聞かないし…本当にマシになった?)
そう思ってしまうくらいには女性の影がなかった。浮ついた噂も聞かないし、見直してやってもいいのかもしれない…
「いや、でも治せるのは簡単なものだけなんだ。だから気にしないでくれ」
「な…」
そう言って奴はふわっとした笑みを浮かべたが…心臓に悪かった、とだけ言っておこう。決して絆されたりなんかしていない。積年の恨み辛みは、そう簡単には消えないのだから…
「団長、アルノワ殿への処分、軽すぎませんか?」
憤ってくれたのはエミール様だった。天使の外見をした彼は性格も優しく、私の事なのにわが身の様に怒ってくれた。そしてアルノワ殿に強く言えなかった事を謝られてしまった。可愛い…そして尊い…
「俺としてももう少し重い処分を…と思ったんだが、騎士同士だとこんなもんだからな。それにああいうタイプは逆恨みするだろう?ミュッセ嬢の安全を思うとな…」
「それは…そうですけど…」
なおも不満のエミール様だったけれど、そんな風に言って貰えただけでも私としては十分だった。前の職場では何かあっても誰も庇ってくれなかったから。
それに団長の言う通りだった。ああいうタイプは無駄にプライドだけは高く、逆恨みするとしつこくて面倒くさいのだ。だからこの件は後で団長に相談するつもりだった。団長のお人柄なら、彼に気付かれない様に上手く対応してくれると思ったから。
「アルノワにもきつく言っておいたから、もう絡んでくることはないだろう。もし何かあったら俺に直ぐに言ってくれ」
「ありがとうございます」
団長ってばイケメンだけど、中身もイケメンだった。頼りがいのある上司、なんて素敵な響きだろう。騎士団に異動になってよかった、と思えた瞬間だった。
実際、団長に何を言われたのか、彼が私に絡んでくることもなくなった。平和で有難い。このまま絡む事なくどこかに行ってくれればいいのに、と思う。
そして、もう一つ予想外な事があった。あの天敵が何かと私に構うようになったのだ。その始まりは、アルノワ殿に殴られた直後からだろうか…
「ほら、座って」
「は?」
「いいから。座ったらそのままじっとして」
「な、なにを…」
「何って、治療。女性が顔を腫らしたままなんてダメだろう?」
「ええっ?」
アルノワ殿が懲罰牢に連れていかれた後、執務室で私はソファに座らされた。何かと思って見上げたら、奴の手のひらの前にほんのりと何かが光っているように見えた。
「…そ、それって…」
「ああ、治癒魔法。初めて?」
「…え、あ、はい…」
こいつが魔力持ちだとは知っていたけれど、まさか治癒魔法が使えるとは思わなかった。この世界では魔力を持って生まれる者がいるけど、とても希少で珍しいのだ。我が国でも何人いるか…というレベルで、その中でも治癒魔法が使えるのはもっと貴重だと聞いた。そんなレアな力を、この男が…?
(どこまで神様は依怙贔屓してんのよ…!)
顔も頭もよく、公爵家の出で剣の才能もあり、しかも魔法もって…神様、こいつに詰め込み過ぎだろう…ズルいなんて言うのは幼稚だとは思うけど、何も持たない身としてはやさぐれたくなるレベルだ…
「さ、出来た。これでもう大丈夫だ」
「……え?もう?」
「ああ。どうだ?痛みや違和感はないか?」
私が心の中でこいつと神様に毒づいている間に、治療が終わったらしい。
「違和感、特には…え?あれ、痛く、ない?」
恐る恐る頬に触れてみたけど、さっきまでの熱を持った痛みが引いている気がした。触るどころか軽く抓っても…痛くない。
「あ、ありがとう、ございます」
ここはきちんとお礼を言うべきだろう。いくら天敵でもそれとこれとは話が別だし。
(でも…最近は女性との噂も聞かないし…本当にマシになった?)
そう思ってしまうくらいには女性の影がなかった。浮ついた噂も聞かないし、見直してやってもいいのかもしれない…
「いや、でも治せるのは簡単なものだけなんだ。だから気にしないでくれ」
「な…」
そう言って奴はふわっとした笑みを浮かべたが…心臓に悪かった、とだけ言っておこう。決して絆されたりなんかしていない。積年の恨み辛みは、そう簡単には消えないのだから…
115
お気に入りに追加
3,736
あなたにおすすめの小説
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
死にたがり令嬢が笑う日まで。
ふまさ
恋愛
「これだけは、覚えておいてほしい。わたしが心から信用するのも、愛しているのも、カイラだけだ。この先、それだけは、変わることはない」
真剣な表情で言い放つアラスターの隣で、肩を抱かれたカイラは、突然のことに驚いてはいたが、同時に、嬉しそうに頬を緩めていた。二人の目の前に立つニアが、はい、と無表情で呟く。
正直、どうでもよかった。
ニアの望みは、物心ついたころから、たった一つだけだったから。もとより、なにも期待などしてない。
──ああ。眠るように、穏やかに死ねたらなあ。
吹き抜けの天井を仰ぐ。お腹が、ぐうっとなった。
誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。
それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。
誰にも信じてもらえず、罵倒される。
そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。
実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。
彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。
故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。
彼はミレイナを快く受け入れてくれた。
こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。
そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。
しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。
むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる