番が見つかったら即離婚! 王女は自由な平民に憧れる

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
82 / 85
【書籍化記念】番外編

王妃に忍び寄る不穏な影~ベルタ

しおりを挟む
 離宮の周辺は自然な森をイメージした庭になっていた。これはこの離宮の最初の主になった番様が辺境の出身で、生まれ育った森を懐かしんだことから故郷の雰囲気に似せて作ったのだと言われている。実際にはきちんと計算されて作られているらしいが、素人の私にはそんな風には見えない。それでも、警備の点からいえば納得だった。警備しやすいように、一方で外からは見えにくいようになっているのだ。

「ベルタ様」

 庭に出て暫く歩いていると、護衛騎士のアレンに声をかけられた。彼は熊人で体格がいいが穏やかな性格の持ち主だ。それでもルーベルト兄さんに見込まれただけあって、勘が鋭く気が利く。穏やかそうに見えるが、小さな変化も見逃さない点が評価されていた。

「どうした、アレン殿?」
「少々気になる点が。数日前からこのエリアに近づく者が」
「この離宮にか?」
「いえ、離宮とは距離がありますが、これまではここの近付くこともありませんでした。日に二、三度、業務の合間の気晴らしに散策しているように見えますが……」

 彼にも怪しいという確信はないのだろう。それでもこの離宮とその周辺はエリサ様が滞在されているので王宮の者はあえて近づかない。そんな中で近づこうとする者を警戒するのは当然だろう。

「それで、一体誰が?」
「エッダとです」
「エッダが?」

 エリサ様を侮っている彼女がここに近づくなど不信感しかない。それとも別の理由があるのか……

「彼女がここに近づく理由に心当たりは?」
「特には……」
「そうか。一応警戒しておいてくれ」
「はっ」

 念のため警戒を促してアレンと別れた。彼なら細かく指示を出さなくても適切に動いてくれるだろう。陛下がご不在の今、警戒し過ぎることはないのだ。



 その日の夜、私はラウラの部屋のすぐ隣の部屋で一夜を明かした。ここなら何かあってもすぐに察知出来るだろうと思ったからだ。そして幸いにも何事もなく済んだ。
 一方でラウラの熱は上がったり下がったりを繰り返していて、エリサ様はずっとラウラに付き添っていた。寝不足を心配したが、ここではしなければならないことは何もないからと笑っておられた。確かにエリサ様には王妃としての公務はなく、今はユリアの授業くらいしかやることはない。しかもそれは離婚した後のためだというのだから、つくづく欲のない方だなと思った。

「エリサ様、ラウラの様子はいかがですか?」

 熱を出した二日目、ユリアがお見舞いにやってきた。エリサ様は凄くお喜びになっていたが、ユリアのお見舞いの品もネネリの実だと知って苦笑されていた。私が持ってきた分もまだ残っているから困ったと思われたのかもしれない。

「こんなにあると、食べきる前に傷んでしまうかしら?」

 二人分で籠いっぱいになったネネリの実を眺めながら、エリサ様が首を傾げた。

「大丈夫ですよ、エリサ様」
「ネネリの実は日持ちしますからね」
「そうなんですか?」
「はい。皮が固い分、傷むのも時間がかかりますよ。あと皮をむいて乾燥させて干しネネリにすると一月は持ちます」
「まぁ、乾燥できるの?」

 エリサ様の表情が途端に明るくなった。果物を乾燥すると甘みが増すので、お菓子作りに使えるのだという。エリサ様はお菓子作りが趣味で、こちらに来てからはよくラウラと作っているのだという。最近はマルダーンにはない材料を試しているのだと笑った。



「ベルタ様、動きが……」

 ラウラの部屋の隣で休んでいた私に声をかけたのはアレンだった。外はすっかり暗闇に包まれ、昼間とは一転して小雨が降っていた。こんな夜は音が雨音に消されるので襲撃には適している。今夜にも動きがあるかと思っていたが、予想通りだった。

「雨に紛れ込んだか」
「はっ。賊は三人のようです。王妃様の部屋の外に……」
「そうか。そちらに向かったなら好都合だな」

 エリサ様はご自身の部屋とは反対側の侍女たちの部屋のエリアにいる。エリサ様の部屋にもラウラ用の控室はあるけれど、そちらは仮眠用で手狭だから今はラウラの本来の部屋だ。そこなら少々騒ぎになってもエリサ様の耳には届かないだろう。
 私はそっと部屋を抜け出した。ラウラの部屋を静かに覗くと、エリサ様は近くのソファで眠っていらっしゃるようだった。

「兄……ルーベルト隊長は?」
「既に連絡済です」
「そうか。これから迎え撃つが音は立てるな。エリサ様たちに気付かれないようにしろ」
「畏まりました」

 エリサ様の部屋に侵入させるわけにはいかない。狙うは生け捕りにしてその裏で糸を引く人物を引きずり出すことだ。私はそっと愛用の剣に手をかけた。



しおりを挟む
感想 822

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

転生したら竜王様の番になりました

nao
恋愛
私は転生者です。現在5才。あの日父様に連れられて、王宮をおとずれた私は、竜王様の【番】に認定されました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。