番が見つかったら即離婚! 王女は自由な平民に憧れる

灰銀猫

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【書籍化記念】番外編

王女の素顔~ベルタ

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 ラウラが熱を出しているので、エリサ様の離宮に泊ることにした。ルーベルト兄さんから聞いた襲撃の話が気になったからだ。今日みたいにいつもと違う時こそ狙われるのはお約束だ。

「ベルタさん、そこまでしなくてもいいですよ」
「いえ、こういう時は人手が多い方がいいのですよ」

 エリサ様は私が心配して泊まりこむと思われたらしいが、それだけではない。それでも襲撃の可能性をルーベルト兄さんもエリサ様に知らせるつもりはなかったし、私も言うつもりはなかった。エリサ様が騎士並みにお強いのなら話す選択肢もあるが、そうではない以上、わざわざ不安にさせる必要もない。こういうことは周りの者がしっかりお守りすれば済む話だ。

「それに王宮のこともよく知っていますから、いざという時にはお役に立てるでしょう」
「確かにそうですね。ありがとうございます」

 やはり不安があったのだろう。エリサ様の笑顔が力の抜けたものになった。ここにいる侍女や護衛も馴染んできているようだが、立場もあってまだ気を許せるほどではないのだろう。
 それに、今日私がここに泊るとなれば、襲撃犯も手を出しにくいだろう。狼人は聴覚が鋭いから不審者の足音も聞き逃さないし、竜人に次ぐ身体能力と戦闘力を持つ。騎士でもあるここに私がいるだけで、相手に心理的な圧を掛けることが出来るだろう。やはり泊って正解だと思う。

 ラウラの熱は高かったが、侍医の診断では流行り病などではなく、ただ疲れが出ただけだろうと言った。二人ともここに来た頃よりは血色も肉付きもよくなってきたが、それでもまだまだ痩せすぎの域を出ていない。そんな状態では体力も抵抗力も落ちるから、しっかり休んで養生するようにと言われたと聞いた。
 実際、二人とも痩せすぎと言えるほどに細かった。食も細いようで、一度にたくさん食べられないらしいことは侍女からも聞いていた。母国での食生活に問題があったのは明らかだ。体重を増やすため、侍女たちは食事の間にも軽食かそれに準ずるお菓子を出すようにしているのだと言った。

「ベルタさん、ネネリの実、ありがとうございました」

 離宮のサロンでお茶を頂きながら侍女達と話をしていると、ラウラの部屋から戻って来たエリサ様にお礼を言われた。

「ラウラがとても喜んでいましたわ」
「そうでしたか」
「ええ。その前に飲んだお薬がかなり苦かったらしくて……凄く美味しく感じたそうです」
「ああ、薬が苦いのは人族も同じなんですね」
「そうみたいですね」

 そう言ってエリサ様が微笑んだ。屈託のない、素の笑顔が可愛らしい。

「じゃ、余計にネネリの実は美味しかったでしょうね。私も子供の頃はネネリの実のジュースが飲みたくて薬を飲んだものですから」
「ふふっ、みんな同じなんですね」

 こうして話をすると、王女というよりも市井に住む普通の少女のようだった。威厳や気品は感じないけれど、素朴で温かみのある人柄はずっと好ましく思えた。

「あの、ベルタさん。ここでは普通に話して貰えませんか?」
「いえ、ですが……」
「確かに私は王妃の立場にありますが、それも形だけです。いずれは離婚して平民になる予定ですから」

 笑顔でそう言われてしまうと、何だか複雑な気分だった。我が国の王妃の座に思い入れがないと言われるとちょっと寂しい。そりゃあ、陛下の妃は番様だけだと十分承知しているけど。贅沢もせず我儘も言わないエリサ様のような方がそうだったらいいのにと思う一方で、それを不安に感じる自分もいた。

(これは先代陛下の反動だろうか……)

 先代陛下の番様も人族だったけれど、陛下に心を開くことはなかったと言われている。番様が最期の時まで望んだのはかつての婚約者だったとも。その後に続いた悲惨な事件もあって、獣人の中では人族が番になるのに不安も根強かった。

 エリサ様はラウラの側に居たそうだったので、私は自分の部屋に戻ることにした。仲良くなりたいとは思うけれど、慌てても意味がないだろう。それに、エリサ様にとっての一番は圧倒的にラウラなのは明らかだ。

(本当に、姉妹と言ってもいいくらいに仲がいいものなぁ……)

 私には兄しかいなかったから、ずっと姉か妹が欲しいと思っていた。そういう意味ではあの二人の姉妹のような関係は少し羨ましくも思えた。

(さて、少し周りを見てくるか)

 気が付けば辺りが薄暗くなってきた。襲撃の可能性があるだけに、完全に暗くなる前に離宮の周りを見ておいた方がいいだろう。私は愛用の剣を腰に下げると部屋を後にした。



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