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【書籍化記念】番外編
マルダーン王女との邂逅~ベルタ
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「ベルタ、彼女があなたと一緒にエリサ様にお仕えするユリアです」
後日、そう言ってトール様が紹介したのは人族の女性だった。陛下の側近の一人、ケヴィン様の縁者だと言われた。そう言えば何度か夜会などで姿を見たことはある。言葉を交わしたことはなかったが。
胡桃色の髪をほつれなくきっちりと結んだ姿と眼鏡に、神経質で有能そうな印象が強く表れていた。深緑の瞳には警戒心と好奇心が混じっているように見える。正直言って、上手くやっていけるのだろうかと不安が過った。お堅くて真面目過ぎる相手は苦手だったからだ。
「ベルタです、よろしく」
「ユリアです。よろしくお願い致します」
きっちりした礼をされて、仲良くできる自信がまた削られた。会話も続きそうにないし、居心地が悪い。年も立場も私の方が上だけど、立ち居振る舞いは向こうの方が上のように感じられた。
ユリアとの対面の後、トール様に案内されてエリサ王女が住む離宮に向かった。ここは数代前の王の番が余生を送った場所で、こじんまりとしていながらも相応の品格が感じられた。自然な森をイメージした庭に見えるが、その実厳重な警備をすることを前提に作られていて、確かに王女が過ごすにはうってつけだろう。
王妃でありながらも番ではないエリサ王女は、真の意味で妻になることはない。それは竜人の習性によるものだった。獣人だって番でない相手を伴侶にすることはあるけれど、竜人の陛下にはそれが難しいことは周知の事実だった。陛下は特に番への想いが強かったからだ。今だって政務を側近に任せて番探しの旅に出られているのだ。それは竜人の悲願でもあり上位種族共通のもので、私もその気持ちは痛いほどにわかった。
訪れた離宮には、エリサ王女とマルダーン人の侍女らしき少女、そして我が国の侍女と護衛がいた。彼らはルーベルト兄さんの部下で王宮の影とも呼ばれる諜報部隊のメンバーだ。兄の部下でもあり同じ騎士団に属する彼らのことは以前から知っていた。
「エリサ殿下、こちらが新しく殿下にお仕えすることになった、ベルタとユリアです」
初めてお会いしたエリサ様は、金の髪にうっすらと紅を差したような不思議な髪色をお持ちだった。聞けば亡国の王族の血を引いていて、マルダーンでも珍しいのだという。新緑色の鮮やかな瞳はぱっちり綺麗な二重に、高すぎない鼻と小ぶりな唇を持つ整った顔立ちだったが、頬はこけて驚くほどに華奢な女性だった。
いや、女性というよりもまだ少女と言っていいお年だろう。聞けば十七歳という。人族の四倍近くの寿命を持つ私たち狼人の感覚だと、十七歳はまだまだ子供だ。このような年で単身敵国にやって来た事を思うと、気の毒を通り越して哀れにすら思えた。
そしてその後ろに控えているのは、この国でもあり触れた茶色の髪に透き通る様な水色の瞳を持つ少女で、丸顔なせいかエリサ様よりも幼く見えた。そして彼女もまた、エリサ様同様に痩せすぎるように見えた。
「お初お目にかかります。騎士団に所属しているベルタと申します。何なりとお申し付けください」
「ユリアにございます。陛下からはエリサ様の家庭教師を申し付かりました。気になることがありましたらお尋ねください」
相手は敵国とはいえ一国の王女だ。今度こそ無礼は許されない。トール様がいることもあって自ずと緊張感が湧いた。
「はじめまして、マルダーンから来ましたエリサです。こちらは私の専属侍女のラウラですわ。どうぞよろしくお願いしますね」
控えめな笑顔を浮かべて挨拶をしたエリサ様は、王女らしい威厳は見られなかったが、素朴で素直な人柄に見えた。それはラウラも同じで、とても王族とその侍女には見えなかった。我が国の市井に住む人でもここまで質素にはしていないだろう。事前にケヴィン様がまとめたマルダーンでの様子を聞いていたけど、どうやら間違いはなさそうだった。
後日、そう言ってトール様が紹介したのは人族の女性だった。陛下の側近の一人、ケヴィン様の縁者だと言われた。そう言えば何度か夜会などで姿を見たことはある。言葉を交わしたことはなかったが。
胡桃色の髪をほつれなくきっちりと結んだ姿と眼鏡に、神経質で有能そうな印象が強く表れていた。深緑の瞳には警戒心と好奇心が混じっているように見える。正直言って、上手くやっていけるのだろうかと不安が過った。お堅くて真面目過ぎる相手は苦手だったからだ。
「ベルタです、よろしく」
「ユリアです。よろしくお願い致します」
きっちりした礼をされて、仲良くできる自信がまた削られた。会話も続きそうにないし、居心地が悪い。年も立場も私の方が上だけど、立ち居振る舞いは向こうの方が上のように感じられた。
ユリアとの対面の後、トール様に案内されてエリサ王女が住む離宮に向かった。ここは数代前の王の番が余生を送った場所で、こじんまりとしていながらも相応の品格が感じられた。自然な森をイメージした庭に見えるが、その実厳重な警備をすることを前提に作られていて、確かに王女が過ごすにはうってつけだろう。
王妃でありながらも番ではないエリサ王女は、真の意味で妻になることはない。それは竜人の習性によるものだった。獣人だって番でない相手を伴侶にすることはあるけれど、竜人の陛下にはそれが難しいことは周知の事実だった。陛下は特に番への想いが強かったからだ。今だって政務を側近に任せて番探しの旅に出られているのだ。それは竜人の悲願でもあり上位種族共通のもので、私もその気持ちは痛いほどにわかった。
訪れた離宮には、エリサ王女とマルダーン人の侍女らしき少女、そして我が国の侍女と護衛がいた。彼らはルーベルト兄さんの部下で王宮の影とも呼ばれる諜報部隊のメンバーだ。兄の部下でもあり同じ騎士団に属する彼らのことは以前から知っていた。
「エリサ殿下、こちらが新しく殿下にお仕えすることになった、ベルタとユリアです」
初めてお会いしたエリサ様は、金の髪にうっすらと紅を差したような不思議な髪色をお持ちだった。聞けば亡国の王族の血を引いていて、マルダーンでも珍しいのだという。新緑色の鮮やかな瞳はぱっちり綺麗な二重に、高すぎない鼻と小ぶりな唇を持つ整った顔立ちだったが、頬はこけて驚くほどに華奢な女性だった。
いや、女性というよりもまだ少女と言っていいお年だろう。聞けば十七歳という。人族の四倍近くの寿命を持つ私たち狼人の感覚だと、十七歳はまだまだ子供だ。このような年で単身敵国にやって来た事を思うと、気の毒を通り越して哀れにすら思えた。
そしてその後ろに控えているのは、この国でもあり触れた茶色の髪に透き通る様な水色の瞳を持つ少女で、丸顔なせいかエリサ様よりも幼く見えた。そして彼女もまた、エリサ様同様に痩せすぎるように見えた。
「お初お目にかかります。騎士団に所属しているベルタと申します。何なりとお申し付けください」
「ユリアにございます。陛下からはエリサ様の家庭教師を申し付かりました。気になることがありましたらお尋ねください」
相手は敵国とはいえ一国の王女だ。今度こそ無礼は許されない。トール様がいることもあって自ずと緊張感が湧いた。
「はじめまして、マルダーンから来ましたエリサです。こちらは私の専属侍女のラウラですわ。どうぞよろしくお願いしますね」
控えめな笑顔を浮かべて挨拶をしたエリサ様は、王女らしい威厳は見られなかったが、素朴で素直な人柄に見えた。それはラウラも同じで、とても王族とその侍女には見えなかった。我が国の市井に住む人でもここまで質素にはしていないだろう。事前にケヴィン様がまとめたマルダーンでの様子を聞いていたけど、どうやら間違いはなさそうだった。
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