番が見つかったら即離婚! 王女は自由な平民に憧れる

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
73 / 85
番外編

番外編⑧ 人それぞれ

しおりを挟む
こちらは本編の中盤、「キッチンが出来ました」の後くらいです。
完全にお遊びで書いたものなので、広い心でお楽しみください。

- - - - - - 

「何の音かしら?」

 いつもの女子会をしている時でした。何やら固い物がぶつかるような音に私は首をかしげました。ここは王宮の奥まった場所で、誰でも近づける場所ではないため、基本的にひっそりとしています。そんな中で響く異質な音に、私は興味を惹かれました。キッチンの工事は既に終わっていますが、他にも何かあるのでしょうか…

「あ~もしかして、陛下達かな?」
「陛下達、ですか?」
「うん、時々執務の合間に鍛錬をしているんだよ。ずっと執務室に籠っていると気が滅入るからって」
「そうなのですか」

 執務の合間に鍛錬とは、何だか不思議な感じですわ。でも、確かにこの国の王の条件は強さですし、側近の皆さんも何気に強そうな方ばかりですわね。宰相様もあんな風ですが、竜人なのでお強いのでしょうし。

「…見に行ってみる?」
「え?いいのですか?」
「別に見るだけならいいと思うよ。近づくと危ないって止められるだろうけど」

 ベルタさんがそう言うので、私達は音のする方へと向かいました。そこは陛下の執務室の下の庭で…そこでは陛下と宰相様、レイフ様とエリック様がいらっしゃいました。今は陛下がエリック様と剣で打ち合っています。

「凄い…」

 お二人は執務服のまま、剣を振っていらっしゃいました。こういう時は着替えるものだとばかり思っていましたが、ベルタさん曰く、刺客に狙われる事も多いから、普段の服装でも鍛錬しているのだとか。確かに刺客は着替えるのを待ってはくれませんわね、納得です。それにしても…

「早すぎて何してるかわかりません~」
「本当だわ。エリック様が優勢…なのかしら?」
「ううん、陛下の方が優勢だよ」

 ラウラとユリア先生がお二人の様子を見てそう言いましたが、ベルタさんの意見は逆でした。

「ええ?どう見ても陛下が押されているように見えるけど…」
「そんな事ないよ。まぁ、見てて」

 私も陛下が押され気味な気がしましたが…ベルタさんがそういう事は、何か理由があるのでしょう。ベルタさんは騎士ですから、何か感じていらっしゃるのでしょうか…

「あ!」
「え?」

 次の瞬間、あっという間に形勢逆転、陛下がエリック様の剣を弾き飛ばしてしまわれました。早すぎて何が起きたのかわからなかったほどです。私の目には、いきなり明後日の方向に飛んでいく剣と、喉元に剣を突きつけられたエリック様、そして陛下の背中が見えただけでした。

「凄い…」
「ベルタの言ったとおりになったわ…」
「でしょ?陛下の強さは群を抜いているんだ。エリック様も十分すぎる程強いんだけどね」

 ラウラもユリア先生も驚いていましたが、ベルタさんはお二人の実力差をご存じだったのですね。ベルタさんの話では、一番強いのは陛下で、その次がレイフ様、エリック様…と続くのだとか。宰相様は滅多に剣を持たれないので実力のほどはわからないそうですが、決して弱くはないそうです。それにしても…陛下がこんなにも強かったなんて…知りませんでしたわ。そ、それに…

「エリサ殿?」

 急に名を呼ばれて、私は飛び上がりそうになりました。ど、どうやら目の前の光景にすっかり気を取られていたみたいです。いえ、別にのぞき見していたわけじゃありませんし、やましい事は何もないのですが…でも…

「どうされた、この様な場所に?」
「え?い、いえ…その…」

 何がと言うわけではないのですが…私はしどろもどろになっている自分に気が付きました。ど、どうしたと言うのでしょうか…陛下を見ていると、何だかドキドキするのですが…と、特に、そのお姿は…

「だ、ダメですッ!」

 思わず私はダッシュでそこから駆けだしてしまいました。エリサ様?!と後ろでベルタさん達が戸惑いを含んだ声で私を呼ぶ声がしますが…今はそれどころじゃありません。何だか訳が分かりませんが、なぜかあの場所にいるのが酷く恥ずかしいと言うか、居たたまれなくなってしまったのです。ど、どうしたと言うのでしょうか…

「エリサ殿?!」

 後ろから呼ぶ声がしたと思った瞬間、私は腕を取られて止められました。腕を掴んでいるのは…私よりも背が高くて、青銀色の髪がとても綺麗で…今はシャツの間から…

「ひゃああぁっ!」

 あまりの刺激の強さに、私はその場に座り込んでしまいました…




「…エリサ様、胸板フェチだったんですね…」

 ラウラにそう言われましたが、その言葉の意味が分かりませんでした。現在私は、自室に戻って女子会のみんなに囲まれていました。

「フェチって…」
「だって、陛下の胸板を見て逃げ出したじゃないですか」
「に、逃げてなんて…」
「じゃ、何でいきなり走り出したんですか?」

 うう、そう言われると返事のしようもないのですが…でも、あの後陛下は、いつのも上着を脱いだ上にシャツの前を寛げていたのです。汗をかいたせいだとは思いますが、そこから陛下のお身体が見えていたのです…って、思い出したら何だか頬が火照ってきましたわ…ど、どうしたのでしょう、私…

「もしかしてエリサ様って…男性の生の身体、見た事ないの?」
「う~ん、私の知っている限りでは、ないですね。王宮にいた時は近くに男性は護衛くらいしかいませんでしたし、小屋に追いやられてからは尚更…」
「なるほど…男性に免疫が皆無だと…」
「それは間違いないですね。側にいるのはきっちり服を着こんだ男性ばかりでしたし」

 た、確かにラウラの言う通りですが…だからと言ってフェチってなんですか、フェチって…私、そんな特殊な趣味はないはずです…

「でもエリサ様、フェチは悪いものじゃありませんわ!ちなみに私は筋肉フェチですから」
「あ~ラウラはそうだよね。兄さんたちの筋肉、いつも凝視してるし」
「ええ、お二人とも、素敵ですわ…」
「ちなみにユリアは首よね」
「…違うわ、首じゃなくて喉仏よ」
「同じじゃない」
「全く違うわ!」

 ユリア先生が力説し始めました。ちなみにベルタさんは髭だそうですが…ちょっと待ってください、皆さん。さも当然のように言っていますが…何でそんなにはっきり決まっているのでしょう…

「別に私はそういうんじゃ…」
「今までエリサ様はある意味、厳重封印されていた箱入りでしたから、男性の生のお姿を見る事もありませんでしたものね」
「そっか、なんか納得」

 うう、ラウラったら言いたい放題ですわね…しかもベルタさんまで…そりゃあ、私は母国ではラウラ以外の人とは滅多に話をする事もなかったし、身近にいる男性は護衛の方くらいでしたが…

「でも、意外でしたわ、エリサ様が胸板フェチだったなんて」
「だから、そういうんじゃありませんわ」
「でも、陛下の胸、ず~っと見てましたよね?」
「そ、それは…」

 うう、私にもよくわかりませんのに…酷いですわ、ラウラったら…それに…あんな風に逃げ出してしまって、陛下達に変に思われたじゃないですか…

「…陛下達に…合わせる顔がありませんわ…」
「ああ、そっちは大丈夫だよ。エリサ様が初心だって事で収まってるから」
「な…!」
「そうね、王女様だからそんなもんだろう、ってみんな仰っていたわね。だから大丈夫よ」
「大丈夫って…」

 何だかちっとも大丈夫な気がしないのですが…それに、私が胸板フェチだなんて認識が広まっているのもどうかと思いますわ…確かに刺激が強すぎて、鼻血が出そうになりましたけど…

 ここだけの話で終わる筈でしたが…実はこの話は後を引いたのは言うまでもありません。陛下を前にすると、あの光景が思い出されて、私は一人悶絶する羽目になったのです。き、きっと、ええ、きっとラウラ達が胸板フェチだなんて連呼したせいですわ。

しおりを挟む
感想 822

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。