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父王との話合い

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 父王との話し合いは、以前異母兄やカミラ達と対面したあの部屋で行われました。私はジーク様や宰相様、ケヴィン様と一緒に部屋に向かいましたが、そこには既に父王と異母兄がいました。王妃とカミラの姿がありませんが…もしかしてまだ貴族牢に入れられたままなのでしょうか…
 父王は強行軍でやって来たせいか、疲れを顔に滲ませていました。書簡だけではなく、昨日の騒ぎもかなりの心労だったと思います。それでも、昔母国で見た時の、無気力で何も目に映していなかった面影はありませんでした。
 一方の異母兄も、疲れは見えますが何だか楽しそうな雰囲気を纏っています。昨日のパーティーでは何かしらの収穫があったのでしょうか。または…トラブルメーカーの二人がいなくてほっとしているのかもしれませんね。

「昨夜は王妃と王女が大変な無礼を働いた。すまなかった」

 話合いは意外にも、父王の謝罪から始まりました。こんなにも素直に頭を下げるような方だったでしょうか…何だか私が知っている父王とはイメージがかけ離れていて不思議な感じがします。それでもこの場合、謝らないよりはずっといいのでしょうね。王は頭を下げるべきではないと聞いていますが、それで話が拗れては意味がありませんから。

 話合いは主に宰相様と異母兄が主導して、それにそれぞれの王が答える形で進みました。どうやら宰相様と異母兄の間では、これまでも話し合いが続いていたようですわね。二人の間は、最初とは比べものにならないほど打ち解けた空気を感じました。

「この国に来てから出された書簡に関しては、愚妹が出したものと判明しました。側仕えの者に確認したところ、高齢の侍従から、自分の言った通りに書くよう命じられたとの証言が得られました」
「そうか」
「それと…昨夜、妹の荷物を調べたところ、これが出てきました」

 そう言って異母兄が出してきたのは、何も書かれていない無地の用紙二枚でした。あれだけかと思いましたが…まだ二枚も隠し持っていたのですね。

「どうやって手に入れたかはこれから調べなければなりませんが…通し番号からして、五月程前に紛失した物で間違いないと思います」
「五月前ですか」
「ええ、王の書簡が盗まれたと騒ぎになりましたからよく覚えています」

 王が書簡に使う用紙を紛失するのはかなり問題だと聞きました。あの用紙は王が国の内外に命令を出すときにも使うものです。悪用されれば、それこそ国がひっくり返るほどの問題が起きる可能性もあるのです。一体どんな管理をしていたのでしょうか…

「その書簡を盗み出した人物は?」
「恥ずかしながら、その時ははっきりとしなかったのです。ただ…」
「ただ?」
「盗まれた時、父の執務室に出入りした人物の中に、妹の名もありました。あの時は本人も否定し、王妃である母もそんな事はないと断言したため、容疑者からは外れていましたが…」
「こうなると、間違いなさそうですね」
「ええ、お恥ずかしながら…」

 宰相様と異母兄の会話を聞きながら、私は王妃とカミラがグルだったのだろうと漠然と感じました。いえ、もしかしたらカミラの独断で、王妃は庇っただけかもしれませんが。どちらにしてもカミラを甘やかし、野放しにした王妃にも責任があるでしょう。

「では、この二つの書簡も、カミラ王女の可能性が高いと?」
「まだ断定は出来ませんが…通し番号からしても、妹が関わっていたのは間違いないでしょう。詳しい調査は帰国してからになりますが、この筆跡はカミラや侍従のものではないので…誰か代わりに書いた者がいる筈です」
「そうですね。そして…書いた者が黒幕の可能性もありますね」

 宰相様の指摘に、異母兄は困ったような笑顔を浮かべました。彼もきっと宰相様と同じ事を考えているのでしょう。ここまでくると、カミラの有罪は確定で間違いなさそうです。
 とは言っても、これはマルダーンの問題のため、ここで二人を裁くわけにもいきません。カミラと王妃の罪は、今のところ昨夜の一件くらいです。あれだけでも十分に不敬罪に問えるものですが…どうやらジーク様達はその事をどうこう言うつもりはないように見えます。それよりも今は、マルダーンの方針をはっきりと聞き、今後どうするかを考える方に意識が向いているように見えます。

「ジークヴァルト陛下、妃と娘は国に帰り次第、こちらで調査した上で必ず裁こう。勿論、貴国の王妃陛下への無礼も上乗せするつもりだ」
「それに関しては、王が望むようにされるがよろしかろう」

 父王がそう言うと、ジーク様は口を挟むつもりがない事を示しました。さすがにマルダーンの事をここではっきりさせる事は出来そうにありませんわね。
 でも、仕方がりません。ラルセンも下手に口を出して、内政干渉していると思われたくないのでしょう。マルダーンの事に口を出したとなれば、他の国から必要以上に警戒される可能性もあります。それでなくてもつい最近まで敵だった国同士となれば、今回は踏み込まないのがお互いのためなのでしょう。

「この件が片付いたら…私は退位しようと考えている」

 いきなりの父の発言に、私は驚いて思わず声が出そうになりました。そんな重要な事を、他国の王や重臣の前で言ってしまってもいいのでしょうか…
 しかし、私の戸惑いに反して、異母兄もジーク様も宰相様も、特に驚いた風には見えませんでした。もしかしたら何か聞いていたのでしょうか。

「私は政を蔑ろにし過ぎた。そして、時流を見極める力がない」
「いいえ、そんな事はございません。マルダーン国王陛下は、国内の反対を抑えてこの同盟を選ばれた。過去にどの王も成し遂げられなかった偉業を成されたと、我々は考えております」
「そうです、父上。この同盟はマルダーンを救ったのです」

 宰相様と異母兄がそう言うと、父王は少しだけ表情を和らげました。確かに言われてみると、何百年もいがみ合っていた両国が同盟を結んだのですから偉業と言えるでしょう。獣人を蔑んでいたこれまでを思えば、大きな変化です。

「そう言って貰えるのは有難いが…」
「陛下は…これから王妃派を一掃されるおつもりですね?」

 宰相様が笑顔でそう指摘すると、父王も異母兄も苦さを含んだ笑みを浮かべました。

「この国の宰相殿は、他国の中まで見通せるよい目とよい耳をお持ちのようだ」
「本当に。出来れば我が国に生まれて頂きたかったですね」

 父王も異母兄も、本気で宰相様を高く評価されている様でした。そうですわね、確かに宰相様は笑顔でサクッとエグイ事もやってのけるお方で、ジーク様の治世が評価されているのは宰相様がしっかり手綱を握っているからでしょう。
 一方の母国の宰相は王妃の実家の侯爵家の当主で、王妃と異母兄の立場を笠に着てやりたい放題だと噂に聞いています。能力がない者でも身内だからと重宝しているらしく、国力が落ちているのだと。

「今回の件を利用して、王妃とその実家を潰し、わしは責任を取って王位を退くつもりだ。後は王太子に丸投げする事になるだろう…どうか力になってやって欲しい」

 そう言って父王は、ジーク様と宰相様に頭を下げました。父王は…本気でそうするつもりなのですね。でも、大丈夫なのでしょうか…王妃の実家は今や王族を凌ぐほどの力を持っているとも聞きますが…

「簡単ではないだろうが、国内には協力者もいる。このままでは我が国は失われてしまう。それで民が救われるならそれもよかろうが、そう言うわけにもいかんのでな」
「ルーズベールですか…」
「ああ。かの国は我が国を属国にしようと躍起になっておる。そして王妃の実家もそれに加担しておるのは間違いない。今の王太子は穏やかな気質だが、問題はその弟だ。柔和な顔をしてかなりの野心家だからな」

 ルーズベールの王子は確か二人だったと聞きます。となると、王太子の弟はマリーア様の婚約者の方という事になりますわね。ちらっと見た事しかありませんが、穏やかそうな雰囲気でとてもそんな風には見えませんが…

「こんな話、本来なら他国でするものではないのだがな。だが、ジークヴァルト陛下のご協力が得られれば、今よりはマシな国になるだろう」
「どうか、お力添えをお願い致します」

 父王がそう言うと、異母兄が再び頭を下げて協力を願いました。どうやら父王も異母兄も本気なのですね。そんな二人の要請にジーク様と宰相様は出来る限りの事はすると約束してくださいました。これで母国が少しでもいい方向に向かうといいのですが…

「出来ればセーデンの協力も仰ぎたかったのだが…」
「さすがに母と愚妹のやった事は許しがたいでしょう。そちらはいずれ父上の退位を、誠意の証の一つとしてお示ししてからとなりましょう」

 ああもう、せっかく父王たちが国をいい方に導こうとしていたのに、あの二人がまた邪魔をしたのですね。本当に、どうしてあんなにも傍若無人になってしまったのでしょうか…きっとセーデンの協力は大きな力となったでしょうに。でも、今となっては仕方ないのでしょうね。こんな時、なんの力にもなれない自分がとても小さくて、情けなくすら感じました。

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