番が見つかったら即離婚! 王女は自由な平民に憧れる

灰銀猫

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結婚式と披露宴

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 事前にトラブルがありましたが、結婚式は予定通りの開始となりました。私はあの後ベールを被り、控え室からジーク様のエスコートで移動しました。
 ベールを被ると周囲はかすかに見える程度で、足元くらいしか見えなくて歩くのもなかなか大変です。裾が長く重いドレスも慣れないせいか、私の緊張を増す材料にしかなりません。もう、早くも心臓はダッシュして走った直後のようで、心なしか手が震えている様な気もします。
 思えば私が夜会にでたのは二度だけですが、あの時はラルセンの方が中心でした。他国の来賓を迎えて、この様な華やかな国事は初めてなので、失敗しないかと神経が焼き切れそうです。結婚式という幸せなはずのイベントも、こうなると緊張しかありません。
 それでも…ベールの存在と、ジーク様の何度も労わるような、励ます様な言葉のお陰で、何とか竦む足を前に進める事が出来ました。

 会場に入ると、割れんばかりの拍手で迎えられました。これは…ベールで周りが見えないのは幸いだったようです。もし見えていたら、私はこの先に進む事が出来なかったように思います。人の圧に怯みそうになった私でしたが、ジーク様がキュッと少し強めに手を握って下さったお陰で、何とか逃げ出さずに済みました。きっとジーク様はこの様な場も慣れていらっしゃるのでしょうね。元より動揺する事などないように見えるので、その強さが少し羨ましく思いました。

 式の流れは事前に何度も侍女さん達から説明を受けていたのもあり、特に戸惑う事なく終わりました。ベールのせいで周りの様子がわからなかったのは残念ではありましたが…そのお陰で怖気づかずに済んだように思います。




 式は幸いにも滞りなく終わりました。結婚式自体は儀式中心で、厳かに淡々と進んでいく感じでした。他国の方々と会話する様な場面もなかったので、転ばない限り失敗する様な要素もありませんでしたが…
 長くはなかった式でしたが、終わった頃には緊張の連続ですっかり疲れ切っていました。いえ、まだこの後には披露宴もあるのですが…



 ジーク様にエスコートされたまま控室に戻ると、ジーク様達は来賓たちとの挨拶があるとかで部屋を出ていかれました。今はラウラやベルタさん、侍女さんと護衛の騎士とルーベルト様が残りました。
 男性陣に一旦部屋を出て貰った私は、ウエディングドレスから普段用のドレスに着替えました。まだ披露宴で着るので皺になるのを防ぐためです。着たままではソファにも座れませんからね。披露宴は同じ清翠の間で行いますが準備もあるので、それまでの時間は私にとっては貴重な休憩時間です。

「式だけだけど、終わったわ…」
「エリサ様、お疲れさまでした」

 着替えた私は、身体が重いと感じながら身をソファに沈めました。このままソファに倒れ込みたい誘惑に駆られますが、髪が崩れるのでそういうわけにもいきませんわね。でも、ずっと立っていたせいで足にかなりきているので、今は座れただけでも幸せを感じました。

「さ、エリサ様、まずは軽食をどうぞ」
「今のうちに少しでも食べておいてくださいね」

 そう言って侍女さん達が、簡単に食べられる食事や焼き菓子を持って来てくれました。式の前は緊張のし過ぎで全く食欲がなかったのに、少し気が抜けたせいか身体がお腹が空いているのを思い出しました。現金な自分の身体にビックリです。それでもさすがにたくさん食べる気にはなれませんでしたが。私は準備してくれたパンや焼き菓子、果物などを頂きました。

「まだ披露宴があるのよね…」
「そうですね。でも、最初だけですからもう少し頑張ってください」

 式だけでも十分に大変だった私は、この後の披露宴を思って気が重くなりました。他国の王族や大使がいらっしゃる場に出るのは、まだまだ慣れそうもありません。幸いなのは披露宴は最初の部分だけ出ればいいと言われている事です。
 これはラルセン王の妃は番で、王が番を人前に出したがらないためなので、私もそれに準じたのです。番だと公表していませんが、獣人の方は匂いというかオーラでわかってしまいますから。誰もそこに言及しないのでしょうか?まぁ、その辺は宰相様がうまく情報統制をしていそうな気がしますね。

 そうこうしている間に、再び披露宴のための準備が始まりました。あのウエディングドレスを着て、今度は先ほどよりも少し生地が薄いベールを被ります。こちらは前は胸元までと先ほどのものより短く、視界も随分と明るいです。それでも相手からは顔ははっきり見えないのだそうです。私は別に顔を出しても気にならないのですが、ジーク様が気にするらしいので仕方ありませんね。それにこれがラルセン風なので、次に王妃様になる方のためにも、余計な前例は作らない方がいいのでしょう。

 ジーク様が戻ってこられたのは、披露宴が始まる少し前でした。こんな時までお忙しいなんて…と思いますが、さすがに各国の王族の方々を無下にするわけにもいかないようです。連日お忙しかったので体調は大丈夫なのかと心配になりましたが…竜人の体力では全然問題ないそうです。だったらいいのですが…式が終わったらゆっくりして頂きたいですわね。私も休みたいですが…

「エリサ、少しいいだろうか?」
「え?ええ、構いませんが、何か問題でも?」

 戻ってこられたジーク様が、着替えを終えた私に声を掛けられました。どうなさったのでしょうか…

「直ぐにわかる事だが…」

 そう言ってジーク様は、式の後で部屋を出られた後の事をお話しくださいました。ジーク様は宰相様と一緒に、とある人物と会っていたそうです。その人物は先ほどの式には出席しませんでしたが、この後の披露宴には出て下さるとの事。
 ただ…騒ぎになるかもしれないからと、先に教えて下さったのです。その相手は私にも想定外の方で、この場に来るとは全く思っていなかったので、驚きを通り越して何だか現実ではない様な気すらします。いえ、何の目的でやって来たのかがわからないので不安しかないのですが…

「その…何か問題が起きる可能性は…」
「ないとは言い切れないが、向こうに害意がないと私は感じた。ただ…そうは言ってもこれまでの事もあるだけに、信用は出来ぬ。私もあなたの側をを離れるつもりはないし、警備も厳重にしているが…一応警戒はしていて欲しい」
「わかりましたわ」

 朝の事もまだ解決していませんし、あの人が何を目的に来たのかも…正直何とも言えません。どちらにしても何か起きるとの前提でいるくらいの方がいいかもしれませんわね。
 そう言えば朝の火矢の件は騎士の方々が調べているそうですが、どうなっているのでしょうか…披露宴が終わったらどうなっているのか、わかる事だけでも聞いてみたいですね。

 会場への入場は、今回も最後でした。ドアが開き足を踏み出すと、再び割れるような拍手で迎えられました。先ほどは緊張して周りの様子を気にする余裕もありませんでしたが…今回は少しだけ目を向ける事が出来ました。ベールが薄いのもあるのでしょうね。さっきよりは周りがよく見えて、ああ、こんな感じだったのね…と感慨深かったです。
 望まれない妃としてやってきただけに、こんなにも拍手を受け歓迎されている今が不思議な感じです。色々と思うところはありましたが…やはり歓迎されるのは気持ちがいいものですわね。今まで歓迎されない人生だっただけに戸惑いも感じますが、前とは違って心が温かくなります。

 陛下に続いて壇上に上がると、その場にいた参加者の皆さんから再び盛大な拍手が降り注ぎました。ベール越しですが、会場内は着飾った方々で溢れかえり、華やかという言葉だけでは足りないほどです。国を挙げてのパーティーなので仕方ありませんが、その熱気が見えない壁のようになって押し寄せてくるような気さえします。

 一通り祝辞などが終わった後は、各国の王族や大使、貴族や高官から挨拶を受けます。これが私の披露宴に出席した理由で、これが終わればお役御免なのですが…この会場にいる全員となればどれくらいかかるのかと、気が遠くなりそうですわ。

 そして、最初に挨拶に現れたのは、この結婚のもう一方の当事者でもある、マルダーンの王族でした。しかし、そこにいたのは…

「…どうして…」

 異母兄と共にいたのはカミラと、母国にいる筈の父王、そして王妃でした。いえ、父王と王妃が来た事は、先ほどジーク様から聞きましたが、カミラはジーク様から式への出席を断られていた筈なのに…
 しかも驚く事にカミラは、青銀色のトップと金色のスカートという、ジーク様色のドレスを着ていました。昼間から着るにはいささか疑問のある胸元の開いたドレスを身に着け、満面の笑みを浮かべています。思いがけないカミラの姿に、私は嫌な予感がするのを止める事が出来ませんでした。
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