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婚礼衣装
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連れてこられたのは、清翠の間の直ぐ近く、先ほどまでジーク様が控室として使われていた部屋でした。私達がいた部屋も安全を確認したところ問題はなかったのですが、ジーク様は既に着替えも終えているし、こちらの方がより警護しやすいから、という事でした。続きの間があるので、ジーク様はそちらにいらっしゃるそうです。
「陛下ったら心配で仕方ないのね」
「そりゃあ、あんな事があったら仕方ないわ」
ジーク様の後姿を見送ったユリア先生とベルタさんが、しみじみとそう言いました。確かに今日は、いつにもましてジーク様に構われているような気がします。それは先ほどの事もあったせいだとは思います。
結婚式に何か仕掛けてくる者がいるかもしれないと想定して最大級の警戒をしていましたが、それが現実になっただけに皆さんピリピリしています。それもそうでしょう。ラルセンにとっては国を挙げての一大イベントで、国の威信がかかっているのです。そんな場で騒ぎが起きた事は騎士の皆さんにとってかなりショックだったようで、警備が更に厳しくなったようです。
ただ、あまり目に見えて態度を変えると、逆に相手に付け入るスキを与えかねないとか。その辺は宰相様や騎士団の方々が色々とお考えだそうです。
先ほどの火矢では、消火の際に軽い火傷をした騎士が一人、あの煙を吸い込んで倒れた侍女が一人、気分が悪くなった騎士や侍女が二人いたそうです。火を直ぐに消し止めたため、軽い被害で済んだと聞きましたが、一歩間違えればラウラ達が怪我をしていた可能性もあったのです。そう思うと、不安が胸の中でじんわりと広がるのを感じました。でも…
「さぁ、準備が出来ましたわ!既に遅れていますから急ぎましょう!」
ドレスや宝飾品の準備をしていた侍女さん達ですが、どうやら一通りの準備が終わったようです。火矢の事は気になりますが、今日の私は花嫁という大仕事があります。既に時間がかなり押しているので、今は目の前の事に集中しなきゃいけませんね。ドレスの準備を待っている間、髪を結われ、化粧などもされた私でしたが、本日最初のお仕事でもあるドレスの着付けに挑みました。
陛下の髪色と同じ青銀の生地のドレスは、今日は晴れているのもあってか、前に見た時よりも一層輝いているように見えました。光が当たると白から青銀の微妙な色合いが生まれ、それが一層高級感をもたらしているようです。金と青の指し色も控えめに入っているせいか、品位を損なう事もありません。
ドレス全体に繊細な刺繍が施され、そこに小さなビーズやレースが組みこまれているので、光の加減でキラキラと輝きを放っています。これはもう、衣装というよりも芸術作品のようです。
ラルセンは織物業が盛んで、それに付随する刺繍なども非常にレベルが高いと聞いていましたが…その素晴らしさを改めて感じました。今回は同盟のためという面もあり、他国へ国力を知らしめるために一層力が入っているのでしょうね。
「うわぁ…」
「凄く素敵…」
「エリサ様、すっごく綺麗です…」
侍女さん達のやる気漲る準備のお陰か、その後私の着替えは滞りなく終わりました。いえ、かなりハードではありましたが…ただ、やはり時間がなかったので合間に軽食を取る予定だったのはなしになりました。でも、緊張して全く食欲がありませんでしたから、私としてはよかったです。無理に食べたら逆に気持ち悪くなってしまいそうでしたから。
ドレスはやはりそれなりの重さがありました。まだベールは身に着けていませんが…あれが加わるとかなりの重さになりそうです。さすがに体力が不安なので、ベールはギリギリまで付けない事にしました。
「陛下、エリサ様の準備が整いました」
着付けを終えて後はベールだけになったところで、侍女さんがジーク様のいらっしゃる部屋のドアからそう告げました。侍女さん達はジーク様をお迎えすべく、部屋の端の方に寄りました。私は何と言われるかと、ドキドキしながらジーク様を待ちました。
ジーク様も私とお揃いの青銀色の衣装をお召しで、こちらは私と違って勲章などがたくさん飾られ、大変華やかに見えます。いえ、ジーク様は背も高く身体つきもしっかりしていて、そこにいるだけで存在感が際立っているような方です。こんな気品のある衣装をお召しとなれば…そのお姿は神々しいくらいに際立って見えます。
いつもは軽く結ばれている青銀の髪も、今日は濃青と金の飾り紐で綺麗に結われていて、どこから見ても特別感満載です。うう、あの隣に立つのかと思うと、思いっきり見劣りがしそうで気が重くなってきました。そう言う意味では、しっかりしたベールを被るのは幸いでしたわね。
「……」
レイフ様やエリック様を従えて現れたジーク様はしかし、私の前に立たれても暫く何も仰いませんでした。表情も変えられないところを見ると、そんなに似合っていない…のでしょうか…確かにドレスを着ているというよりも、着られている感じがバンバンしていますが…
誰も声をあげないのもあって、沈黙が重いです。誰か、何か言って下さらないでしょうか…そう思っていると、レイフ様がジーク様を肘で小突くのが見え、それを受けてジーク様がハッと表情を変えられました。うう、もしかしてそんなに失望されたのでしょうか…
「…エリサ…」
「…は、い…」
「…凄く…似合っている。とても、綺麗だ…」
私が何と言われるかと逃げ腰気味に佇んでいましたが、ジーク様は一歩進むと私の頬にそっと触れました。な、なんでしょうか、これは…
「あ、っ、ありがとう、ございます?」
あああああ…!どうして疑問形になっているのでしょうか、私…私の答えにジーク様も戸惑ってしまわれたようです。結婚式も始まっていないのに、恥ずかしさに私の気力が一気に削がれた気分です。ジーク様の向こうでいつも眉間に皺を寄せているエリック様が、珍しく笑みを浮かべているのも…何だか居たたまれません。
「おーい、ジーク、固まってないでちゃんと褒めろよなぁ。そう言うところがダメだって、この前言われただろうが」
「あ、ああ…」
レイフ様が助け船のつもりなのでしょうか、そう仰いましたが…それ、余計に恥ずかしいですから…
「兄さん、煩い。兄さんこそ情緒なさすぎ」
「何でだよ、綺麗なもんは綺麗だって素直に言えばいいじゃねぇか。な、ラウラ。ああ、今日の衣装、すっげー似合ってる。やっぱりその色にしてよかった。ラウラは柔らかい色が似あうな。ほんと、春の女神様みたいだ」
ベルタさんの忠告などどこ吹く風、レイフ様は持論を展開した直後、ラウラを絶賛し始めました。そう言えば今日のラウラの衣装は、レイフ様が贈ったと聞いています。ラウラは一度断ったそうですが、一生のお願い!と言われて渡されたそうです。一生のお願いをここで使っていいのかと皆さんに心配されていましたが…
でも、確かにラウラの今日の衣装は、瞳の色と同じ淡い水色で、ところどころにレイフ様の瞳と同じ紫紺の指し色が入っています。ふんわりと広がるスカートも、袖や裾の繊細なレース使いも、ふんわりしたラウラの雰囲気にぴったりです。
レイフ様って趣味がよろしかったのね、とみんなが感心していましたが…実はベルタさん達がアドバイスしたお陰だそうです。最初レイフ様は、全て自分の色にしようとして、まだプロポーズも受けて貰ってないのに図々しい!と一蹴されたそうです。
レイフ様とラウラに周りの意識が持って行かれている間に、ジーク様がそっと側にいらっしゃいました。うう、今は恥ずかしくてジーク様の顔が見れません…どうして私、あそこで疑問形に…きっと頭の弱い子だと思われたでしょう…そこは否定しませんが…
「その、本当によく似合っている。その髪の色によく映えて…ああ、誰にも…見せたくないな…」
「え?あ、あの…」
「ベールがあって…本当によかった…」
最後は独り言のようで最後まで聞き取れませんでしたが…ジーク様は鋭さが勝る金色の瞳を細め、いつになく穏やかな表情をされました。それはこれまでに見たどんなものよりも、何と言うか…ジーク様のイメージからはかけ離れていて、私は何と答えていいのかわかりませんでした。
「陛下ったら心配で仕方ないのね」
「そりゃあ、あんな事があったら仕方ないわ」
ジーク様の後姿を見送ったユリア先生とベルタさんが、しみじみとそう言いました。確かに今日は、いつにもましてジーク様に構われているような気がします。それは先ほどの事もあったせいだとは思います。
結婚式に何か仕掛けてくる者がいるかもしれないと想定して最大級の警戒をしていましたが、それが現実になっただけに皆さんピリピリしています。それもそうでしょう。ラルセンにとっては国を挙げての一大イベントで、国の威信がかかっているのです。そんな場で騒ぎが起きた事は騎士の皆さんにとってかなりショックだったようで、警備が更に厳しくなったようです。
ただ、あまり目に見えて態度を変えると、逆に相手に付け入るスキを与えかねないとか。その辺は宰相様や騎士団の方々が色々とお考えだそうです。
先ほどの火矢では、消火の際に軽い火傷をした騎士が一人、あの煙を吸い込んで倒れた侍女が一人、気分が悪くなった騎士や侍女が二人いたそうです。火を直ぐに消し止めたため、軽い被害で済んだと聞きましたが、一歩間違えればラウラ達が怪我をしていた可能性もあったのです。そう思うと、不安が胸の中でじんわりと広がるのを感じました。でも…
「さぁ、準備が出来ましたわ!既に遅れていますから急ぎましょう!」
ドレスや宝飾品の準備をしていた侍女さん達ですが、どうやら一通りの準備が終わったようです。火矢の事は気になりますが、今日の私は花嫁という大仕事があります。既に時間がかなり押しているので、今は目の前の事に集中しなきゃいけませんね。ドレスの準備を待っている間、髪を結われ、化粧などもされた私でしたが、本日最初のお仕事でもあるドレスの着付けに挑みました。
陛下の髪色と同じ青銀の生地のドレスは、今日は晴れているのもあってか、前に見た時よりも一層輝いているように見えました。光が当たると白から青銀の微妙な色合いが生まれ、それが一層高級感をもたらしているようです。金と青の指し色も控えめに入っているせいか、品位を損なう事もありません。
ドレス全体に繊細な刺繍が施され、そこに小さなビーズやレースが組みこまれているので、光の加減でキラキラと輝きを放っています。これはもう、衣装というよりも芸術作品のようです。
ラルセンは織物業が盛んで、それに付随する刺繍なども非常にレベルが高いと聞いていましたが…その素晴らしさを改めて感じました。今回は同盟のためという面もあり、他国へ国力を知らしめるために一層力が入っているのでしょうね。
「うわぁ…」
「凄く素敵…」
「エリサ様、すっごく綺麗です…」
侍女さん達のやる気漲る準備のお陰か、その後私の着替えは滞りなく終わりました。いえ、かなりハードではありましたが…ただ、やはり時間がなかったので合間に軽食を取る予定だったのはなしになりました。でも、緊張して全く食欲がありませんでしたから、私としてはよかったです。無理に食べたら逆に気持ち悪くなってしまいそうでしたから。
ドレスはやはりそれなりの重さがありました。まだベールは身に着けていませんが…あれが加わるとかなりの重さになりそうです。さすがに体力が不安なので、ベールはギリギリまで付けない事にしました。
「陛下、エリサ様の準備が整いました」
着付けを終えて後はベールだけになったところで、侍女さんがジーク様のいらっしゃる部屋のドアからそう告げました。侍女さん達はジーク様をお迎えすべく、部屋の端の方に寄りました。私は何と言われるかと、ドキドキしながらジーク様を待ちました。
ジーク様も私とお揃いの青銀色の衣装をお召しで、こちらは私と違って勲章などがたくさん飾られ、大変華やかに見えます。いえ、ジーク様は背も高く身体つきもしっかりしていて、そこにいるだけで存在感が際立っているような方です。こんな気品のある衣装をお召しとなれば…そのお姿は神々しいくらいに際立って見えます。
いつもは軽く結ばれている青銀の髪も、今日は濃青と金の飾り紐で綺麗に結われていて、どこから見ても特別感満載です。うう、あの隣に立つのかと思うと、思いっきり見劣りがしそうで気が重くなってきました。そう言う意味では、しっかりしたベールを被るのは幸いでしたわね。
「……」
レイフ様やエリック様を従えて現れたジーク様はしかし、私の前に立たれても暫く何も仰いませんでした。表情も変えられないところを見ると、そんなに似合っていない…のでしょうか…確かにドレスを着ているというよりも、着られている感じがバンバンしていますが…
誰も声をあげないのもあって、沈黙が重いです。誰か、何か言って下さらないでしょうか…そう思っていると、レイフ様がジーク様を肘で小突くのが見え、それを受けてジーク様がハッと表情を変えられました。うう、もしかしてそんなに失望されたのでしょうか…
「…エリサ…」
「…は、い…」
「…凄く…似合っている。とても、綺麗だ…」
私が何と言われるかと逃げ腰気味に佇んでいましたが、ジーク様は一歩進むと私の頬にそっと触れました。な、なんでしょうか、これは…
「あ、っ、ありがとう、ございます?」
あああああ…!どうして疑問形になっているのでしょうか、私…私の答えにジーク様も戸惑ってしまわれたようです。結婚式も始まっていないのに、恥ずかしさに私の気力が一気に削がれた気分です。ジーク様の向こうでいつも眉間に皺を寄せているエリック様が、珍しく笑みを浮かべているのも…何だか居たたまれません。
「おーい、ジーク、固まってないでちゃんと褒めろよなぁ。そう言うところがダメだって、この前言われただろうが」
「あ、ああ…」
レイフ様が助け船のつもりなのでしょうか、そう仰いましたが…それ、余計に恥ずかしいですから…
「兄さん、煩い。兄さんこそ情緒なさすぎ」
「何でだよ、綺麗なもんは綺麗だって素直に言えばいいじゃねぇか。な、ラウラ。ああ、今日の衣装、すっげー似合ってる。やっぱりその色にしてよかった。ラウラは柔らかい色が似あうな。ほんと、春の女神様みたいだ」
ベルタさんの忠告などどこ吹く風、レイフ様は持論を展開した直後、ラウラを絶賛し始めました。そう言えば今日のラウラの衣装は、レイフ様が贈ったと聞いています。ラウラは一度断ったそうですが、一生のお願い!と言われて渡されたそうです。一生のお願いをここで使っていいのかと皆さんに心配されていましたが…
でも、確かにラウラの今日の衣装は、瞳の色と同じ淡い水色で、ところどころにレイフ様の瞳と同じ紫紺の指し色が入っています。ふんわりと広がるスカートも、袖や裾の繊細なレース使いも、ふんわりしたラウラの雰囲気にぴったりです。
レイフ様って趣味がよろしかったのね、とみんなが感心していましたが…実はベルタさん達がアドバイスしたお陰だそうです。最初レイフ様は、全て自分の色にしようとして、まだプロポーズも受けて貰ってないのに図々しい!と一蹴されたそうです。
レイフ様とラウラに周りの意識が持って行かれている間に、ジーク様がそっと側にいらっしゃいました。うう、今は恥ずかしくてジーク様の顔が見れません…どうして私、あそこで疑問形に…きっと頭の弱い子だと思われたでしょう…そこは否定しませんが…
「その、本当によく似合っている。その髪の色によく映えて…ああ、誰にも…見せたくないな…」
「え?あ、あの…」
「ベールがあって…本当によかった…」
最後は独り言のようで最後まで聞き取れませんでしたが…ジーク様は鋭さが勝る金色の瞳を細め、いつになく穏やかな表情をされました。それはこれまでに見たどんなものよりも、何と言うか…ジーク様のイメージからはかけ離れていて、私は何と答えていいのかわかりませんでした。
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