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キッチンが出来ました
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王宮に引っ越してから二日ほど経った頃、急に部屋の外が慌ただしくなりました。こっそり外を窺うと、人の出入りが制限されているこの場所に、たくさんの人が出入りしているのです。行き先は三つほど離れた部屋で、見た感じ何かの職人さんのような服装をしています。
「あの部屋、何をしているの?」
「朝から騒がしいですよねぇ…」
まだユリア先生もベルタさんも来ていない時間帯だったので、私は私付の侍女のネリーに聞いてみました。ネリーは宰相様自ら選ばれた方の一人で、私にもラウラにもとっても親切にしてくれます。ベルタさんと同じ狼人ですが、違う一族なのだとか。ちなみにラウラとはルーベルト様のファン仲間だそうで、この二人はとても仲良しです。
「工事を始めるのですよ」
「工事…ですか?」
「ええ、エリサ様用のキッチンですわ。お菓子作りが出来るようにと陛下が手配されたそうです」
確かに陛下はキッチンを作ってくれると仰っていましたわね…でも、いいのでしょうか…王宮のこんな場所に勝手なものを作ってしまって…
「うわ~陛下って本当にエリサ様の事になると早いですね」
「国王陛下の番様ともなれば当然の事ですわ。今までの王も番様のためにと色々改装してきましたから」
「そうなんですか?」
「ええ、例えばこの下の庭は先代様が番様のためにと整備されましたし、エリサ様が今までお暮らしになった離宮も何代か前の王が番様のために整えられたものです」
そう言えばそんな話もありましたわね。ネリーの話では、キッチンは三日もすれば出来上がるのだとか…ネリーも実は私のお菓子を気に入ってくれているので、完成したらまたエリサ様のお菓子が食べられるのですね、と喜んでくれて、私も嬉しくなってしまいました。
「陛下、キッチンをありがとうございます」
私はその日の午後、執務の合間に顔を出された陛下にお礼を伝えました。お菓子作りが出来るのは私の数少ない趣味なので本当に嬉しかったのです。部屋のすぐ近くなのも便利です。私としては王宮の厨房を貸して貰えないかしら?と思っていたので、とっても有難いです。
「エリサ殿が喜んでくれるなら私も嬉しい」
陛下が表情を和らげてそう仰ると、ちょっとドキッとしますわね。いつも無表情がデフォルトなので、そのギャップというものでしょうか…ラウラが陛下はギャップ萌えとかなんとか言っていましたが…
「貴女が作るクッキーは私も好ましく思う。だからその、また作って欲しい」
陛下にそんな風に言われたのは初めてでビックリしてしまいましたが、何だか認められた気がして、私も自然と笑顔ではい、とお返事しましたら、陛下が目を瞠られてしまいました。何でしょう、お返事としてはマズかったのでしょうか…でも陛下は、楽しみにしていると仰ってくれたので、気を悪くされたわけではなかったみたいです。
それから三日後、本当にキッチンが完成していました。案内された部屋は明るくて、広さはそれなりですが、オーブンと洗い場も大小二つあります。しかも、台の高さまで私にぴったりでした。離宮のものは男性の料理人向けだったのか、少し高くて作業がし難かったんですよね。いつの間に台の高さまで計られていたのでしょうか…でも、これで私もラウラも今までよりもずっと快適にお菓子作りが出来そうです。
「陛下、ありがとうございます!」
「あ、ああ…」
思わず嬉しくって、陛下の手を取ってお礼を言うと、陛下は戸惑った様子でしたが、すみません、ちょっと嬉し過ぎてテンションが上がり過ぎましたわ。引かれてしまったでしょうか…でも、こんなに素敵で本格的なキッチンになるは思っていなかったので、とても嬉しかったのです。
さて、せっかくキッチンが出来上がったので、私は早速お菓子作りを始めました。ここ数日はお菓子作りが出来なかったので、ちょっと寂しかったんですよね。お茶の時のお菓子の在庫も切れていましたし。
今日はキッチンとオーブンの使い勝手をみるために、クッキー作りにしました。これなら陛下も食べられます。特にあの塩味を利かせた甘じょっぱいクッキーは陛下もお気に入りなのです。
楽しくてついつい半日ほどキッチンに籠っていたら、山のようにクッキーが焼けてしまいました。うん、クッキーが焼けたかを確認する時は緊張しますが、楽しみでもあります。いい感じに焼けていると充実感満載ですわ。
やはりオーブンも洗い場も二つあるから、作業効率が断然違いますわね。それに離宮では食事の準備時間は使えませんでしたが、ここはお菓子作り専用なので尚更です。
「うっわ~すっごくいい匂い」
「焼きたての香りはやっぱり違いますわね」
「うわ、美味そう!」
久しぶりに自作クッキーでのお茶となりました。今日もバルコニーですが、風が気持ちいいですわね。午後からは日陰になるのも暑過ぎなくていいです。
「うわ、無限クッキー美味っ!」
クッキーを口に放り込んで一際嬉しそうなのはレイフ様でした。レイフ様の名付けた無限クッキーはあの甘じょっぱいクッキーなのですが、いつの間にかその名で定着してしまいました。
「エリサ様、これ、売っちゃったら?騎士団じゃ訓練の後にちょうどいいって人気なんだよ」
「え?そうなんですか?」
「訓練の後は塩分補給が必要だけど、甘い物も欲しくなるから。両方揃ってるから大人気。絶対に売れるぞ!」
そう言うレイフ様の手が止まりません。レイフ様の場合、ラウラが手をかけているのもあるので、余計に手が出るのだそうです。ベルタさんの話では、実はラウラが作った物は他の奴に食べさせたくない!と言っているのだそうです。
「それを言うなら、仕事中も糖分が欲しくなるので、これはいいですね。甘いものは苦手ですが、これなら食べられますし」
そう仰ったのは宰相様でした。お珍しいですが…王宮に来てからは時々こうしてお茶に参加されるようになりました。勿論その隣には…
「そうだな、エリサ殿のクッキーなら、いくらでも食べられる」
あまり甘いものが得意ではない陛下も、このクッキーは違うようです。
「それにしても、売りに出すのはいい考えですね。エリサ様、いっそ王宮内で店を出しますか?」
「は?」
「ああ!それいいな!騎士達も喜ぶし」
何でしょうか…いきなり売る話になりましたが…いえ、お店を出したいとは思っていましたが、王宮内でって…
「あ、それいいんじゃない?王宮内ならここで作ればいいんだし、どこかに場所借りてお店にしちゃえば」
「でも、王宮内ですよ?そこで王妃がお店だなんて…」
「別に問題ないと思うわ、エリサ様。王妃がお店をやっちゃいけないなんて決まりはないんだから」
「でも…」
何でしょうか、皆さんがノリノリですが…でも、王妃がお店を出すって、聞いた事もないのですが…それにラルセンでは王妃は人前に出ないものですよね?そう思って陛下を見上げました。陛下は絶対に嫌がると思うのですが…
「いいんじゃないか?」
「え?」
「勿論、エリサ殿が売り子をするのは…控えて欲しいとは思うが…だが、ここで作って誰かが売るのであれば…」
「…よろしいのですか?」
「エリサ殿がそう望むなら」
「ええっ?」
陛下は絶対に嫌がると思ったのですが…意外にもあっさりと許可を出してくれました。でも、本当にいいのでしょうか…王妃がお菓子の店を出したなんて広がったら、何か言われそうな気がするのですが…
「別に法に触れているわけでもありませんし、問題ありませんよ。ジークが許可したなら、ですが」
「私は構わないと言っている」
「だそうですよ、エリサ様」
宰相様にまでそう言われてしまうと、私の方が戸惑ってしまいますわ。でも、本当にいいのでしょうか…突然の展開に、私の方が戸惑ってしまって、直ぐにはやります!と言えませんでした。
後で聞いた話ですが、実は陛下は本音では反対と言うか、渋っていらっしゃったのだとか。やはり人前に出すのが心配なのだそうです。それでも私がそう望むなら…と賛成して下さったのだとか。愛されてますね~エリサ様、なんてラウラが言うものだから、何だか恥ずかしくて困ってしまいました。
ただ、今は結婚式を控えているので、お店の話はその後に…となりました。仕方ありませんわね、結婚式は同盟も絡んだ国の大事なイベントですから。それでも、お店が出せるなんて思ってもいなかったので、何だか夢を見ているような気分でした。
「あの部屋、何をしているの?」
「朝から騒がしいですよねぇ…」
まだユリア先生もベルタさんも来ていない時間帯だったので、私は私付の侍女のネリーに聞いてみました。ネリーは宰相様自ら選ばれた方の一人で、私にもラウラにもとっても親切にしてくれます。ベルタさんと同じ狼人ですが、違う一族なのだとか。ちなみにラウラとはルーベルト様のファン仲間だそうで、この二人はとても仲良しです。
「工事を始めるのですよ」
「工事…ですか?」
「ええ、エリサ様用のキッチンですわ。お菓子作りが出来るようにと陛下が手配されたそうです」
確かに陛下はキッチンを作ってくれると仰っていましたわね…でも、いいのでしょうか…王宮のこんな場所に勝手なものを作ってしまって…
「うわ~陛下って本当にエリサ様の事になると早いですね」
「国王陛下の番様ともなれば当然の事ですわ。今までの王も番様のためにと色々改装してきましたから」
「そうなんですか?」
「ええ、例えばこの下の庭は先代様が番様のためにと整備されましたし、エリサ様が今までお暮らしになった離宮も何代か前の王が番様のために整えられたものです」
そう言えばそんな話もありましたわね。ネリーの話では、キッチンは三日もすれば出来上がるのだとか…ネリーも実は私のお菓子を気に入ってくれているので、完成したらまたエリサ様のお菓子が食べられるのですね、と喜んでくれて、私も嬉しくなってしまいました。
「陛下、キッチンをありがとうございます」
私はその日の午後、執務の合間に顔を出された陛下にお礼を伝えました。お菓子作りが出来るのは私の数少ない趣味なので本当に嬉しかったのです。部屋のすぐ近くなのも便利です。私としては王宮の厨房を貸して貰えないかしら?と思っていたので、とっても有難いです。
「エリサ殿が喜んでくれるなら私も嬉しい」
陛下が表情を和らげてそう仰ると、ちょっとドキッとしますわね。いつも無表情がデフォルトなので、そのギャップというものでしょうか…ラウラが陛下はギャップ萌えとかなんとか言っていましたが…
「貴女が作るクッキーは私も好ましく思う。だからその、また作って欲しい」
陛下にそんな風に言われたのは初めてでビックリしてしまいましたが、何だか認められた気がして、私も自然と笑顔ではい、とお返事しましたら、陛下が目を瞠られてしまいました。何でしょう、お返事としてはマズかったのでしょうか…でも陛下は、楽しみにしていると仰ってくれたので、気を悪くされたわけではなかったみたいです。
それから三日後、本当にキッチンが完成していました。案内された部屋は明るくて、広さはそれなりですが、オーブンと洗い場も大小二つあります。しかも、台の高さまで私にぴったりでした。離宮のものは男性の料理人向けだったのか、少し高くて作業がし難かったんですよね。いつの間に台の高さまで計られていたのでしょうか…でも、これで私もラウラも今までよりもずっと快適にお菓子作りが出来そうです。
「陛下、ありがとうございます!」
「あ、ああ…」
思わず嬉しくって、陛下の手を取ってお礼を言うと、陛下は戸惑った様子でしたが、すみません、ちょっと嬉し過ぎてテンションが上がり過ぎましたわ。引かれてしまったでしょうか…でも、こんなに素敵で本格的なキッチンになるは思っていなかったので、とても嬉しかったのです。
さて、せっかくキッチンが出来上がったので、私は早速お菓子作りを始めました。ここ数日はお菓子作りが出来なかったので、ちょっと寂しかったんですよね。お茶の時のお菓子の在庫も切れていましたし。
今日はキッチンとオーブンの使い勝手をみるために、クッキー作りにしました。これなら陛下も食べられます。特にあの塩味を利かせた甘じょっぱいクッキーは陛下もお気に入りなのです。
楽しくてついつい半日ほどキッチンに籠っていたら、山のようにクッキーが焼けてしまいました。うん、クッキーが焼けたかを確認する時は緊張しますが、楽しみでもあります。いい感じに焼けていると充実感満載ですわ。
やはりオーブンも洗い場も二つあるから、作業効率が断然違いますわね。それに離宮では食事の準備時間は使えませんでしたが、ここはお菓子作り専用なので尚更です。
「うっわ~すっごくいい匂い」
「焼きたての香りはやっぱり違いますわね」
「うわ、美味そう!」
久しぶりに自作クッキーでのお茶となりました。今日もバルコニーですが、風が気持ちいいですわね。午後からは日陰になるのも暑過ぎなくていいです。
「うわ、無限クッキー美味っ!」
クッキーを口に放り込んで一際嬉しそうなのはレイフ様でした。レイフ様の名付けた無限クッキーはあの甘じょっぱいクッキーなのですが、いつの間にかその名で定着してしまいました。
「エリサ様、これ、売っちゃったら?騎士団じゃ訓練の後にちょうどいいって人気なんだよ」
「え?そうなんですか?」
「訓練の後は塩分補給が必要だけど、甘い物も欲しくなるから。両方揃ってるから大人気。絶対に売れるぞ!」
そう言うレイフ様の手が止まりません。レイフ様の場合、ラウラが手をかけているのもあるので、余計に手が出るのだそうです。ベルタさんの話では、実はラウラが作った物は他の奴に食べさせたくない!と言っているのだそうです。
「それを言うなら、仕事中も糖分が欲しくなるので、これはいいですね。甘いものは苦手ですが、これなら食べられますし」
そう仰ったのは宰相様でした。お珍しいですが…王宮に来てからは時々こうしてお茶に参加されるようになりました。勿論その隣には…
「そうだな、エリサ殿のクッキーなら、いくらでも食べられる」
あまり甘いものが得意ではない陛下も、このクッキーは違うようです。
「それにしても、売りに出すのはいい考えですね。エリサ様、いっそ王宮内で店を出しますか?」
「は?」
「ああ!それいいな!騎士達も喜ぶし」
何でしょうか…いきなり売る話になりましたが…いえ、お店を出したいとは思っていましたが、王宮内でって…
「あ、それいいんじゃない?王宮内ならここで作ればいいんだし、どこかに場所借りてお店にしちゃえば」
「でも、王宮内ですよ?そこで王妃がお店だなんて…」
「別に問題ないと思うわ、エリサ様。王妃がお店をやっちゃいけないなんて決まりはないんだから」
「でも…」
何でしょうか、皆さんがノリノリですが…でも、王妃がお店を出すって、聞いた事もないのですが…それにラルセンでは王妃は人前に出ないものですよね?そう思って陛下を見上げました。陛下は絶対に嫌がると思うのですが…
「いいんじゃないか?」
「え?」
「勿論、エリサ殿が売り子をするのは…控えて欲しいとは思うが…だが、ここで作って誰かが売るのであれば…」
「…よろしいのですか?」
「エリサ殿がそう望むなら」
「ええっ?」
陛下は絶対に嫌がると思ったのですが…意外にもあっさりと許可を出してくれました。でも、本当にいいのでしょうか…王妃がお菓子の店を出したなんて広がったら、何か言われそうな気がするのですが…
「別に法に触れているわけでもありませんし、問題ありませんよ。ジークが許可したなら、ですが」
「私は構わないと言っている」
「だそうですよ、エリサ様」
宰相様にまでそう言われてしまうと、私の方が戸惑ってしまいますわ。でも、本当にいいのでしょうか…突然の展開に、私の方が戸惑ってしまって、直ぐにはやります!と言えませんでした。
後で聞いた話ですが、実は陛下は本音では反対と言うか、渋っていらっしゃったのだとか。やはり人前に出すのが心配なのだそうです。それでも私がそう望むなら…と賛成して下さったのだとか。愛されてますね~エリサ様、なんてラウラが言うものだから、何だか恥ずかしくて困ってしまいました。
ただ、今は結婚式を控えているので、お店の話はその後に…となりました。仕方ありませんわね、結婚式は同盟も絡んだ国の大事なイベントですから。それでも、お店が出せるなんて思ってもいなかったので、何だか夢を見ているような気分でした。
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