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七章
次代の誕生
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「旦那様! お生まれになりました! 元気なご嫡男にございます!」
「おお、男児がお生まれになりましたか!!!」
「おめでとうございます、旦那様!!!」
「これでヘーゼルダインも安泰ですな!」
「いやぁ、喜ばしい!!!」
季節は巡って夏が終わりを告げる頃、私は二日間陣痛と戦った末、元気な男の子を生んだ。
「ああ、シア。よく頑張ってくれた……」
「ラリー様」
一段落ついた頃、部屋に入ってきたラリー様はベッドに横になったままの私の手を取って、ホッとした表情を見せた。かなり時間がかかったせいで随分と心配をかけてしまった。それでも出血も少なくて済んだし、時間がかかったこと以外では概ね安産だったという。あれで安産なのかと思いもしたし、あんな痛い思いは二度と御免だと思ったけれど、無事に生まれてきた我が子を見てそんな思いも霧散した。
「小さい、ですね……」
「そうだね。でも泣き声はとてもしっかりしているよ」
生まれたての赤ちゃんを見たのはユーニスの赤ちゃんに次いで二度目だから、あの時ほどの驚きはなかった。まだしわくちゃで頼りなくて、抱っこするのも恐る恐るになってしまうけれど、ずしっとした重みと元気な泣き声で精一杯自分の存在を主張していた。ユーニスの赤ちゃんに比べると小さかったけれど、産声は負けないほどに大きくてしっかりしている。
ちなみにユーニスは二ヶ月半前に元気な男の子を生んでいた。茶色の髪に薄茶の瞳で、今のところ髪はユーニス似、瞳はロバート似だといわれていた。「大きくなったら色が変わることもありますから」とモリスン夫人に言われていたから、成長が楽しみだと言っていた。
ルイスと名づけられたその身体は平均よりも大きく身体もしっかりしていて、早くも首が座っている。きっと丈夫な子に育つだろうとの周囲の予想通り、病気知らずでお腹を壊したり吐いたりすることもない。きっと生まれたばかりのこの子とは一生の付き合いになる大切な存在になるだろう。そう願わずにはいられない。
「髪は……金色ですね」
まだ湿り気を帯びた髪は、それでもラリー様の色に似て綺麗な金色をしていた。
「ああ。私としてはシアのその銀の髪がよかったんだけどな」
「いえ、男の子で銀の髪はちょっと……」
どうしても銀髪の男だと父を思い出してしまって、受け入れ難く感じていた。女の子なら力がなくても聖女の力が発現する可能性があるけれど、男の子ではそれはあり得ない。男の子はただ血を残すだけの存在で、世間からの視線が全く違うのだと後で知った。だからといって期待を背負わされる女の子が楽かといえばそうではないけれど。
ただ、私が産む子には多分聖女の力は強く出ないだろうということは陛下から聞いていた。私くらいの力を持つ者は滅多に現れないし、暫くは力が弱い代が続くだろうと。国全体を思えばセネットの聖女の力は弱い方がいいのだろう。その分神殿の聖女たちの力が強まれば、民が受ける恩恵はずっと大きくなるから。
「目は何色かな? シアと同じ紫がいいな。神秘的だ」
「そうですか。ラリー様の夏の空のような青がいいです」
「いや、紫がいい。私とシアの子だって実感出来るから」
いえいえ、どの色を持っていても私とラリー様の子ですよと言ったけれど、ラリー様は銀髪に青瞳でもいいから二人の色を受け継いだ子がいいらしい。何それと思っていたら、どうやらロバートも同じことを言っていて、男性陣でそういう話で盛り上がっていたらしい。
「ああ、でもどちらの色でもいいよ。私とシアの子だからね。子どもなんていらないと思っていたけれど、こんなにも愛おしいと思えるものだとは思わなかったよ」
穏やかで慈愛の籠った目は、初めて見るものだった。私に向ける視線はもっと熱があって強いものだったから、その差に「ああ、父親の目なのだな」と思った。先日見たロバートのそれによく似ていたから。
「私の命をかけて、シアとこの子を守ろう。勿論これから生まれてくる子もだよ」
「ええ。私も同じ気持ちですわ。でも、だからといって無茶しないで下さいね」
「わかっているよ。シアを未亡人にする気はないからね」
そう言って髪を優しく撫でてくれたけれど、どこまで信用していいのかは疑わしかった。三月前には隣国の侵攻があって、これまでにない勢いで隣国の兵を退けたばかりなのだ。国境騎士団の助力があったとは言え、その騎士団からも鬼神のようだと恐れられたのは記憶に新しい。あれで暫くは隣国もちょっかいを出してくることはないと思う。
お義父様が言うようにラリー様の本質は多分戦神なのだろう。それが心配でもあるし不安だけど、セネットの騎士になったことはよかったと思う。私は一緒にいくことは出来ないから。それでも、これ以上戦いが起きないことを願いたい。いくらセネットの騎士という保険があっても傷ついて欲しくないから。
「さぁさぁ旦那様、奥様はお疲れです。まだ処置が残っていますからそろそろご退室を」
「ああ、わかっているよ」
ラリー様が苦笑しながらゆっくりと立ち上がった。陣痛が起きてからも何かと私に構おうとしたラリー様に、邪魔だからと追い出したのはユーニスとモリスン夫人だった。こういう時は女性の方が強いな、と思った。奥様には少しお休み頂きますからとモリスン夫人が言うと、ラリー様はようやく部屋を出ていった。
「さ、アレクシア様、少しお休みになって下さいね。お子様は私が責任をもってお守しますから」
「ありがとう、ユーニス」
確かにすごく疲れた。長かったし痛かったし、気が付けば丸二日殆ど眠れていなかったから。無事に大仕事を終えた安堵感からか、私はあっという間に眠りについた。
「おお、男児がお生まれになりましたか!!!」
「おめでとうございます、旦那様!!!」
「これでヘーゼルダインも安泰ですな!」
「いやぁ、喜ばしい!!!」
季節は巡って夏が終わりを告げる頃、私は二日間陣痛と戦った末、元気な男の子を生んだ。
「ああ、シア。よく頑張ってくれた……」
「ラリー様」
一段落ついた頃、部屋に入ってきたラリー様はベッドに横になったままの私の手を取って、ホッとした表情を見せた。かなり時間がかかったせいで随分と心配をかけてしまった。それでも出血も少なくて済んだし、時間がかかったこと以外では概ね安産だったという。あれで安産なのかと思いもしたし、あんな痛い思いは二度と御免だと思ったけれど、無事に生まれてきた我が子を見てそんな思いも霧散した。
「小さい、ですね……」
「そうだね。でも泣き声はとてもしっかりしているよ」
生まれたての赤ちゃんを見たのはユーニスの赤ちゃんに次いで二度目だから、あの時ほどの驚きはなかった。まだしわくちゃで頼りなくて、抱っこするのも恐る恐るになってしまうけれど、ずしっとした重みと元気な泣き声で精一杯自分の存在を主張していた。ユーニスの赤ちゃんに比べると小さかったけれど、産声は負けないほどに大きくてしっかりしている。
ちなみにユーニスは二ヶ月半前に元気な男の子を生んでいた。茶色の髪に薄茶の瞳で、今のところ髪はユーニス似、瞳はロバート似だといわれていた。「大きくなったら色が変わることもありますから」とモリスン夫人に言われていたから、成長が楽しみだと言っていた。
ルイスと名づけられたその身体は平均よりも大きく身体もしっかりしていて、早くも首が座っている。きっと丈夫な子に育つだろうとの周囲の予想通り、病気知らずでお腹を壊したり吐いたりすることもない。きっと生まれたばかりのこの子とは一生の付き合いになる大切な存在になるだろう。そう願わずにはいられない。
「髪は……金色ですね」
まだ湿り気を帯びた髪は、それでもラリー様の色に似て綺麗な金色をしていた。
「ああ。私としてはシアのその銀の髪がよかったんだけどな」
「いえ、男の子で銀の髪はちょっと……」
どうしても銀髪の男だと父を思い出してしまって、受け入れ難く感じていた。女の子なら力がなくても聖女の力が発現する可能性があるけれど、男の子ではそれはあり得ない。男の子はただ血を残すだけの存在で、世間からの視線が全く違うのだと後で知った。だからといって期待を背負わされる女の子が楽かといえばそうではないけれど。
ただ、私が産む子には多分聖女の力は強く出ないだろうということは陛下から聞いていた。私くらいの力を持つ者は滅多に現れないし、暫くは力が弱い代が続くだろうと。国全体を思えばセネットの聖女の力は弱い方がいいのだろう。その分神殿の聖女たちの力が強まれば、民が受ける恩恵はずっと大きくなるから。
「目は何色かな? シアと同じ紫がいいな。神秘的だ」
「そうですか。ラリー様の夏の空のような青がいいです」
「いや、紫がいい。私とシアの子だって実感出来るから」
いえいえ、どの色を持っていても私とラリー様の子ですよと言ったけれど、ラリー様は銀髪に青瞳でもいいから二人の色を受け継いだ子がいいらしい。何それと思っていたら、どうやらロバートも同じことを言っていて、男性陣でそういう話で盛り上がっていたらしい。
「ああ、でもどちらの色でもいいよ。私とシアの子だからね。子どもなんていらないと思っていたけれど、こんなにも愛おしいと思えるものだとは思わなかったよ」
穏やかで慈愛の籠った目は、初めて見るものだった。私に向ける視線はもっと熱があって強いものだったから、その差に「ああ、父親の目なのだな」と思った。先日見たロバートのそれによく似ていたから。
「私の命をかけて、シアとこの子を守ろう。勿論これから生まれてくる子もだよ」
「ええ。私も同じ気持ちですわ。でも、だからといって無茶しないで下さいね」
「わかっているよ。シアを未亡人にする気はないからね」
そう言って髪を優しく撫でてくれたけれど、どこまで信用していいのかは疑わしかった。三月前には隣国の侵攻があって、これまでにない勢いで隣国の兵を退けたばかりなのだ。国境騎士団の助力があったとは言え、その騎士団からも鬼神のようだと恐れられたのは記憶に新しい。あれで暫くは隣国もちょっかいを出してくることはないと思う。
お義父様が言うようにラリー様の本質は多分戦神なのだろう。それが心配でもあるし不安だけど、セネットの騎士になったことはよかったと思う。私は一緒にいくことは出来ないから。それでも、これ以上戦いが起きないことを願いたい。いくらセネットの騎士という保険があっても傷ついて欲しくないから。
「さぁさぁ旦那様、奥様はお疲れです。まだ処置が残っていますからそろそろご退室を」
「ああ、わかっているよ」
ラリー様が苦笑しながらゆっくりと立ち上がった。陣痛が起きてからも何かと私に構おうとしたラリー様に、邪魔だからと追い出したのはユーニスとモリスン夫人だった。こういう時は女性の方が強いな、と思った。奥様には少しお休み頂きますからとモリスン夫人が言うと、ラリー様はようやく部屋を出ていった。
「さ、アレクシア様、少しお休みになって下さいね。お子様は私が責任をもってお守しますから」
「ありがとう、ユーニス」
確かにすごく疲れた。長かったし痛かったし、気が付けば丸二日殆ど眠れていなかったから。無事に大仕事を終えた安堵感からか、私はあっという間に眠りについた。
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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