【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
212 / 213
七章

次代の誕生

しおりを挟む
「旦那様! お生まれになりました! 元気なご嫡男にございます!」
「おお、男児がお生まれになりましたか!!!」
「おめでとうございます、旦那様!!!」
「これでヘーゼルダインも安泰ですな!」
「いやぁ、喜ばしい!!!」

 季節は巡って夏が終わりを告げる頃、私は二日間陣痛と戦った末、元気な男の子を生んだ。

「ああ、シア。よく頑張ってくれた……」
「ラリー様」

 一段落ついた頃、部屋に入ってきたラリー様はベッドに横になったままの私の手を取って、ホッとした表情を見せた。かなり時間がかかったせいで随分と心配をかけてしまった。それでも出血も少なくて済んだし、時間がかかったこと以外では概ね安産だったという。あれで安産なのかと思いもしたし、あんな痛い思いは二度と御免だと思ったけれど、無事に生まれてきた我が子を見てそんな思いも霧散した。

「小さい、ですね……」
「そうだね。でも泣き声はとてもしっかりしているよ」

 生まれたての赤ちゃんを見たのはユーニスの赤ちゃんに次いで二度目だから、あの時ほどの驚きはなかった。まだしわくちゃで頼りなくて、抱っこするのも恐る恐るになってしまうけれど、ずしっとした重みと元気な泣き声で精一杯自分の存在を主張していた。ユーニスの赤ちゃんに比べると小さかったけれど、産声は負けないほどに大きくてしっかりしている。

 ちなみにユーニスは二ヶ月半前に元気な男の子を生んでいた。茶色の髪に薄茶の瞳で、今のところ髪はユーニス似、瞳はロバート似だといわれていた。「大きくなったら色が変わることもありますから」とモリスン夫人に言われていたから、成長が楽しみだと言っていた。
 ルイスと名づけられたその身体は平均よりも大きく身体もしっかりしていて、早くも首が座っている。きっと丈夫な子に育つだろうとの周囲の予想通り、病気知らずでお腹を壊したり吐いたりすることもない。きっと生まれたばかりのこの子とは一生の付き合いになる大切な存在になるだろう。そう願わずにはいられない。

「髪は……金色ですね」

 まだ湿り気を帯びた髪は、それでもラリー様の色に似て綺麗な金色をしていた。

「ああ。私としてはシアのその銀の髪がよかったんだけどな」
「いえ、男の子で銀の髪はちょっと……」

 どうしても銀髪の男だと父を思い出してしまって、受け入れ難く感じていた。女の子なら力がなくても聖女の力が発現する可能性があるけれど、男の子ではそれはあり得ない。男の子はただ血を残すだけの存在で、世間からの視線が全く違うのだと後で知った。だからといって期待を背負わされる女の子が楽かといえばそうではないけれど。
 ただ、私が産む子には多分聖女の力は強く出ないだろうということは陛下から聞いていた。私くらいの力を持つ者は滅多に現れないし、暫くは力が弱い代が続くだろうと。国全体を思えばセネットの聖女の力は弱い方がいいのだろう。その分神殿の聖女たちの力が強まれば、民が受ける恩恵はずっと大きくなるから。

「目は何色かな? シアと同じ紫がいいな。神秘的だ」
「そうですか。ラリー様の夏の空のような青がいいです」
「いや、紫がいい。私とシアの子だって実感出来るから」

 いえいえ、どの色を持っていても私とラリー様の子ですよと言ったけれど、ラリー様は銀髪に青瞳でもいいから二人の色を受け継いだ子がいいらしい。何それと思っていたら、どうやらロバートも同じことを言っていて、男性陣でそういう話で盛り上がっていたらしい。

「ああ、でもどちらの色でもいいよ。私とシアの子だからね。子どもなんていらないと思っていたけれど、こんなにも愛おしいと思えるものだとは思わなかったよ」

 穏やかで慈愛の籠った目は、初めて見るものだった。私に向ける視線はもっと熱があって強いものだったから、その差に「ああ、父親の目なのだな」と思った。先日見たロバートのそれによく似ていたから。

「私の命をかけて、シアとこの子を守ろう。勿論これから生まれてくる子もだよ」
「ええ。私も同じ気持ちですわ。でも、だからといって無茶しないで下さいね」
「わかっているよ。シアを未亡人にする気はないからね」

 そう言って髪を優しく撫でてくれたけれど、どこまで信用していいのかは疑わしかった。三月前には隣国の侵攻があって、これまでにない勢いで隣国の兵を退けたばかりなのだ。国境騎士団の助力があったとは言え、その騎士団からも鬼神のようだと恐れられたのは記憶に新しい。あれで暫くは隣国もちょっかいを出してくることはないと思う。
 お義父様が言うようにラリー様の本質は多分戦神なのだろう。それが心配でもあるし不安だけど、セネットの騎士になったことはよかったと思う。私は一緒にいくことは出来ないから。それでも、これ以上戦いが起きないことを願いたい。いくらセネットの騎士という保険があっても傷ついて欲しくないから。

「さぁさぁ旦那様、奥様はお疲れです。まだ処置が残っていますからそろそろご退室を」
「ああ、わかっているよ」

 ラリー様が苦笑しながらゆっくりと立ち上がった。陣痛が起きてからも何かと私に構おうとしたラリー様に、邪魔だからと追い出したのはユーニスとモリスン夫人だった。こういう時は女性の方が強いな、と思った。奥様には少しお休み頂きますからとモリスン夫人が言うと、ラリー様はようやく部屋を出ていった。

「さ、アレクシア様、少しお休みになって下さいね。お子様は私が責任をもってお守しますから」
「ありがとう、ユーニス」

 確かにすごく疲れた。長かったし痛かったし、気が付けば丸二日殆ど眠れていなかったから。無事に大仕事を終えた安堵感からか、私はあっという間に眠りについた。




しおりを挟む
読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
感想 167

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

処理中です...