【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
193 / 213
六章

クレアたちの今後

しおりを挟む
 出血がそれなりにあったために暫く安静を命じられたラリー様だったけれど、傷はすっかり消えてしまったので大人しくしているのを条件にタウンハウスに戻ってきた。王宮育ちで部屋も残っているのだからそこで静養を……と思ったけど、王宮にいたのは随分前のことで今はタウンハウスの方が落ち着くと言われれば、無理にとも言えなかった。

「でも、本当に大人しくしていてくださいね!」
「わかっているよ、シア」

 そう言ってベッドに横になって笑うラリー様だったけれど、その言葉を信じるのは難しかった。前科があるからだ。仕事中毒のラリー様はじっとしているのが嫌いなのだ。そしてその約束は今回、半日も持たなかった。

「どうせ領地に戻る時は暇なんだから」

 そう言ってラリー様は次々と書類に目を通して決済し、陛下やバイアット侯爵と今まで以上に頻繁に連絡を取り合っていた。こうなると止めても無駄なので、私は血液不足で疲れたラリー様を癒すことと、血を増やせる食事を頼むなどして後は見張ることにした。

(夜会まで日がないから、それまでに少しでも休んで回復して欲しいのに……)

 そうは思っても、大丈夫だからと笑うだけだ。何だかんだ言ってご自身の意を通すラリー様を止められる者はいなかった。

「まぁ、最終的にはアレクシア様は止めれば大人しくなりますから」

 ユーニスはそう言うけれど、現時点で言うことを聞いてくれていないんですけど……

「アレクシア様が泣き落とすか絶交を宣言すれば止まりますよ」
「ええっ? そんなことで?」
「ああ、そうでしょうね。ローレンス様はアレクシア様に勝てませんから」

 ユーニスとロバートはそう言ったけれど、とてもじゃないけれど信じられなかった。その前に泣き落としって……メイベルでもあるまいに、私にはそんな芸当は出来そうになかった。

 ラリー様の体調に神経を尖らせている間も、火事の被災者の治療は続いていた。それでも火事由来の治療を求める人は殆どおらず、また私たちも近々ヘーゼルダインに戻るため、空き家での治療も終了することにした。行き場がない人たちのためにまだ暫くはあの家を解放しておくが、今後はバイアット侯爵が管理をしてくれることで話がまとまった。
 ラリー様は使っていないあの場所を売るか貸し出すつもりだったのだ。空き家の管理にも費用が掛かるからで、赤字続きのヘーゼルダインにはそんな余裕はない。何とか赤字は避けたいと考えていたところ、バイアット侯爵が騎士団の詰め所として借りたいと仰ったのだという。近々王家も入れての話し合いをするそうだ。



 治療を終えたのもあって、私はエリンさんとクレア、アレンを呼んで今後の身の振り方を尋ねることにした。このまま王都に残るか、ヘーゼルダインに来るか考えておいてほしいとラリー様が以前話していた、その返事を聞くためだった。

「それで、エリンさんたちはどうしたい?」

 お茶とお菓子を前に目を輝かせるアレンに、クレアがあれこれ世話を焼きながらエリンさんを気にかけていた。この姉弟は本当に仲がいいなと微笑ましい。

「アレクシア様、私達、ヘーゼルダインにご一緒させて頂こうと思います」
「そう。でも、本当にいいの?」
「ええ。ここにいても……神殿が、その……」
「神殿の奴ら、まだ姉さんを諦めていないんだ。今度連れて行かれたら、どんな扱いを受けるか……」

 エリンさんもクレアも、神殿の動きが不安だと言った。実際あの後も何度かクレアさんを狙っていると思われる輩が現れたと聞いている。リドリー侯爵令嬢も相当焦っているのだろうとラリー様も言っていた。

「わかったわ。じゃ、来週ヘーゼルダインに向かうから一緒に来てくれる? 歓迎するわ」
「どうぞよろしくお願いします」
「アレクシア様、役に立てるよう頑張るから!」
「ありがとうクレア。でも、そんなに気負わなくても大丈夫よ」

 両親がいない彼らにとって、知り合いのいないヘーゼルダインも不安なのだろう。必死に役に立とうとするクレアの健気さに胸が痛くなった。神殿がしっかりしていればこんなことにはならなかったのだ。これは私の力不足のせいもあるだろう。何とかしたいとは思うけれど、セネットの聖女は神殿にはノータッチが基本だからどうしようもない。

「近々お別れをしに行ってきてね。護衛を付けるから」
「ありがとうございます」
「ううん、それくらいはさせてね。まだエリンさんを諦めたとは思えないから」

 そう、大聖女クラスの力を持つ女性は少ないから、簡単には諦めないだろう。陛下の話ではセネットの聖女の力が強い代には神殿の聖女の力は弱まるらしい。そういう意味ではリドリー侯爵令嬢には気の毒だけど、そもそも彼女が大聖女に選ばれた経緯が怪しいのだからどうしようもない。

「そうそう、養子の件もサインを貰っていいかしら?」
「あ、はい。でも、よろしいのですか?」
「勿論よ。あなたたちが成人するまでの間の後見と思ってちょうだい。成人したら養子から抜けるのも自由だから」

 これもヘーゼルダインに連れていくためには必要なことだった。勝手に連れて行って誘拐したと難癖をつけられる可能性もある。それを防ぐために三人をロバートの実家のエヴァンス男爵家の養子に入れることにしたのだ。こうすれば堂々と連れて帰ることも出来る。
 三人にサインして貰った書類は、直ぐにラリー様に渡して陛下の決済を頂くことになっている。正規に頼むと時間がかかるから、直接陛下にお願いしたのだ。

 翌日には三人の新しい身分証明書が届いた。

「うわ、本当に貴族様になってる……」

 証明書を手にクレアが目を丸くしていた。貴族の中では男爵家は最下位になるけれど、平民にとっては雲の上の存在だ。それくらい平民と貴族の差は大きい。
 ヘーゼルダインに着いたら三人はエヴァンス家預かりになるけれど、多エリンさんは屋敷で私付きの侍女に、クレアは侍女見習いの予定だ。アレンは二人が仕事中は屋敷内の子ども用の施設に預けて勉強で、十を過ぎれば本人の希望で騎士や庭師、家令などの見習いになるだろう。



 男爵家に養子になった三人は、その翌々日に知り合いに別れの挨拶をするために出かけていった。護衛を付けているので問題はないと思うけれど、三人には目立たないようにフードを被って貰った。そこまですれば安心だろう。そう思っていたのだけど……

「アレクシア様! 大変です! エリン嬢がいなくなりました!」

 クレアとアレンを連れた騎士が、血相を変えて返ってきたのは一刻ほど発ってからだった。




しおりを挟む
読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
感想 167

あなたにおすすめの小説

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。  ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。  その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。  十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。  そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。 「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」  テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。  21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。  ※「小説家になろう」さまにも掲載しております。  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...