【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
189 / 213
六章

通報される

しおりを挟む
 被災者限定にして人数制限を設けた上での治療は、その後は混乱なく進んだ。騎士がしっかりと警備しているのもあっただろう。夜も駐在しているので夜盗などが悪さをすることもなかった。

 事が起きたのは、治療を始めてから七日目だった。
 その日は朝らからラリー様は王宮に用があるため不在だったため、私とエリンさんとで治療にあたっていた。そこに騎士たちがやってきたのだ。

「神殿の許可もなく治療を行っていると通報があった。責任者は誰だ!」

 居丈高なその態度に眉を顰めた。ここは貴族の敷地と知った上での態度だろうか。ユーニスとロバートが一瞬で臨戦態勢に入っていた。そうは言っても出て行かないわけにもいかないだろう。

「私ですが」
「お前が責任者か? 名を名乗れ!」

 私もユーニスたちも、敢えて質素な服を着ていたため、貴族には見えなかったのだろうか。随分と横柄な態度に嫌悪感が増した。直ぐにユーニスとロバートが私たちを守る様に前に立った。

「名を名乗るというのなら、そちらが先に名乗るべきでしょう」

 私よりも先に声を上げたのはロバートだった。いつもの穏やかな笑みを浮かべているが、決して目は笑っていなかった。

「平民風情が生意気な! 貴様らに名乗るほどではないが教えてやろう。私はナサニエル=クロフ子爵。王都の第二騎士団の中隊長だ」
「左様ですが。私はロバート=テオラー、子爵家の者です。ここはヘーゼルダイン辺境伯爵家の所有地です」
「お前が責任者か?」
「いいえ。ここの責任者はヘーゼルダイン辺境伯ローレンス様です」
「ロ、ローレンス様だと?」

 騎士団に属しているだけあって、ラリー様の名はご存じだったらしい。いきなり顔色が変わった。

「し、しかし、いかなローレンス様とはいえ、許可なく治療することは禁止されているのだ。治療を行っている聖女を引き渡して頂こう」

 どうやら彼らの目的は聖女だったらしい。ラリー様が心配していたことが現実となった。ここで治療していることが神殿の耳に届いた場合、何らかの動きがあるのではないかとラリー様は危惧されていたのだ。

「お断りいたしますわ」

 さすがに放っておく事も出来ず、私は声を上げた。きっとロバートが何を言っても聞かない気がしたからだ。

「何だ、小娘が?」
「無礼者! このお方はローレンス様の奥方だぞ!」
「な、何だと……」
「クロフ子爵とか申しましたか。ヘーゼルダイン辺境伯の妻であり、セネット侯爵の当主でもあるアレクシアです。一体どういうことでしょうか?」
「こ、侯爵……?」

 どうやら彼らはこの場所について何も調べずにやって来たらしい。普通は出動先のことを調べてから向かうのではないだろうか。ヘーゼルダイン辺境領では考えられないのだけど。

「き、騎士団に通報があったのだ。聖女の資格のない者が報酬を要求して治療を行っていると」
「報酬?」
「そうだ。聖女の力は国の宝。聖女は治療する際に金品のやり取りは禁止されているのだ」

 だったら寄付金を要求している神殿はどうなのだ、と思った。そっちを先に調べて欲しいとも。民から苦情が出ていると聞くし、そちらの方がずっと問題だろう。

「そうですか。でしたらご心配なく。ここでは治療に対して対価は求めておりません。それに治療をしているのは私です」
「な、なんだと」
「私は聖女の家系でもあるセネット家の当主。我が家は神殿とは関係なく聖女の地位を王家から賜っています」
「た、確かにセネット侯爵家は聖女の家系だが……だが、そなたがセネット家の者だという証拠はあるのか?」
「証拠?」
「そ、そうだ。侯爵家の者がそんな粗末な身なりをする筈がないであろう!」

 どうやらこのクロフ子爵はどうやら発想が貧しいらしい。

「このような場で活動するのですから当然ですわ。ドレスなど動きにくく汚れてしまうではありませんか。公爵家の貴婦人でも、慈善事業を行う場合はドレスなど着ませんけれど? クロフ子爵家では慈善事業をなさらないの?」

 この様子ではやっていないのだろう。やっていてもこの子爵では気にした事もないのかもしれない。

「ば、馬鹿にするな! と、とにかく聖女の資格なく治療をするのは違法行為だ。一緒に来て貰おう!」
「お断りします。アレクシア様には指一本触れさせませんわ」
「な、何だ、お前は?!」
「私はヘーゼルダイン辺境伯の義妹であるユーニスですわ。どうしてもというのであればヘーゼルダイン辺境伯に先に確認を。それとも、後で本物だったとしてあなたが責任を負う覚悟はおありですの?」
「う、うるさい! 女風情が生意気だぞ!」
「それを言うならクロフ子爵、あなたは子爵でありながら辺境伯家の私たちへのその物言いはなんですの?」
「な……!」

 普段は身分を出すことのないユーニスだったが、さすがにクロフ子爵の態度は許し難かったらしい。それに彼女は女だからと言われるのが大嫌いだった。それは実父のトイ伯爵の影響だろう。

 結局、クロフ子爵はそのまま騎士を率いて戻っていった。我がヘーゼルダイン辺境伯家の騎士たちが臨戦態勢に入ったのを目の当たりにしたのが大きかっただろう。王都で安寧の中で過ごす騎士と、隣国との緊張状態の渦中にある辺境伯の騎士では格が違う。彼らの緊張感を漲られた雰囲気に負けたのだ。
 まぁ、半分以上はユーニスとロバートに口で勝てなかったことが大きいだろう。もし間違いだった場合、彼らは十分な調べもせずに行動したと罰せられる可能性が高いからだ。それくらい我が国の平民と貴族、そして上位貴族と下位貴族の差は大きいのだ。

「それにしても、通報したのは誰なのかしら?」
「はっきりした事は分かりませんが……神殿の可能性もありますね」
「やっぱりそう思う?」
「はい。ローレンス様がお戻りになったら詳しく報告致します。騎士団内部のことでしたら、おそらくローレンス様が調べればすぐに判明するかと」

 元々ラリー様は騎士団長だったし、今の騎士団長はバイアット侯爵でラリー様と親友と言ってもいい間柄だ。彼に頼めば通報した者はわかるだろう。



しおりを挟む
読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
感想 167

あなたにおすすめの小説

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。  ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。  その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。  十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。  そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。 「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」  テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。  21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。  ※「小説家になろう」さまにも掲載しております。  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...